親が失禁してしまったら…どう受け止めるか|700人以上看取った看護師がアドバイス
まさか、そんなことにはならないと思っていたのに…親が失禁してしまったら、本人も介護している側も、ショックを受けることになる。看護師として700人以上を看取ってきて、今は訪問介護の仕事を続けている宮子あずささんに、子どもとしてどう受け止めたらいいか、アドバイスしてもらった。その時になって混乱してしまわないためにも、あらかじめ知っておくことが大切だという。
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本人も家族もショックを受けることになるが
最初は、トイレに行くのが間に合わないのから始まることが多いでしょう。たどり着く前に出てしまって、ちょっともらして下着を汚してしまうのです。
●隠そうとして、パンツでトイレを詰まらせてしまうことも
はじめは、もらしてしまったことを隠しがちです。そうすると、濡らしてしまったパンツをどこかに隠すとか、捨ててしまうということもあります。
介護する側は驚くことになるのですが、隠すために事態を悪くすることもよく起こります。パンツをはかないで過ごすとか、汚れたパンツをトイレに流して詰まらせてしまうこともあります。
●「どうして隠してたの」とは言わない
そういう時に、こちらがそのことに触れるのか知らんふりをするのか。どう対応するか、悩むところですね。
ケースバイケースではありますが、私が、もし例えば、パンツを何枚も隠していたのを見つけたら、「汚れてた下着がいっぱいあったから、洗っておいたわ」と言うと思います。
「どうして隠してたの」とか「出さなきゃダメじゃない」などとは言わない。汚れた下着があったという事実は指摘するけれど、とがめない、ということですね。
●家族が落ち着くためにはどうするか
失禁をした本人もショックを受けています。家族にとっても衝撃ではありますが、あんまり目の前でびっくりするとかわいそうです。
多くの場合、本人は「今日はたくさん水を飲んだから」「寝不足で起きられなかったから」などと、今回は特別だったというふうに言いわけすることが多いと思います。
その時にキーっとなったりしてはいけませんし、追い詰めて話をしても仕方がありません。
本人は今回だけだと思いたいし、子どもとしてもそう思いたい気持ちがあるので、次にまたもらしたらどうするかという準備をしないままに過ごしてしまいがちです。
しかし「びっくりしたところを見せてはいけない」「責めてはいけない」と考えているだけでは、ショックを隠すことはできないものです。落ち着いて対応するためには、介護する側が、失禁について知って、方法があるとわかっておくことです。
失禁するようになっても、生活していくためのやりようはいろいろあるので、一緒に考えてあげるといいでしょう。
●高齢になると、失禁しやすくなるのは仕方がない
まずわかっておいてあげたいのは、老化による筋肉の機能低下などで、どうしても失禁しやすくなるということです。特に女性は尿道が短いので失禁しやすくなります。男性は前立腺が肥大することによって、うまくおしっこが出にくくなるというトラブルが起こりがちです。
間に合わなくて失禁してしまうならどうするか
トイレにたどり着くのが間に合わないことに対処するためには、室内や廊下に手すりをつけて歩きやすくするという方法もあります。
布団で寝ているなら、ベッドにしてあげると、起き上がる動作がスムーズになったりもします。手すりをつけたりベッドにすることで、たどり着きやすくなって、失禁しなくなるという場合もあります。それでも難しい場合は、ポータブルトイレを置くという方法もあります。
★ポータブルトイレは転倒につながってしまう場合もあるので、選ぶ時に注意が必要です。
軽くて小さいとひっくり返ってしまったりします。大きいとひっくり返らないけれど引っかかって転んだりすることもあります。重心の感じなども確かめたいので、実際に見て買った方がいいアイテムです。部屋に置くので、匂いがもれにくいかどうかもチェックして選んだ方がいいでしょう。
●ポータブルトイレを使うなら、布団でなくベッドに
動作を考えると、布団から起き上がってポータブルトイレを使うということはかなり大変で危険です。私が看てきたポータブルトイレを使うかたは、みなさん、布団でなくベッドにしていました。
そもそも布団だと足を取られて転ぶこともあるので、ある段階になったらベッドにする必要が出てきます。失禁は、ADL(日常生活動作)が低下していくなかで、ひとつの指標といえます。失禁するようになったことは、布団に限らず、今までの生活を見直すきっかけとなっていきます。
<失禁するようになってしまった時のためのまとめ>
●トイレに行くのが間に合わなくてちょっともらしてしまうところから始まる
●隠そうとして、パンツを捨てたりトイレに流したりすることもある
●介護する側が混乱しないためには、失禁について知って備えておく
●高齢になると、筋力の低下などで失禁しやすくなる
●間に合うようにするためには、手すりをつけたり、布団をベッドにしたり、ポータブルトイレを使う
今回の宮子あずさのひとこと
●対策を考えることで、介護する側も落ち着いていく
年を取って失禁するのは、当然のことだからといっても、子どもとしてショックを受けてしまいます。そういう時に「ショックを受けてはいけない」と考えても無理なのです。
ショックを受けるのは仕方がないけれど、お互い嘆きながらも一緒にどうするか考えていく。人間はどうしたらいいかわからないと混乱してしまうので、具体的に対策を知っておくことです。対策が見えてくると、精神的にも落ち着くことができます。ケアマネジャーや同じように親を介護している人に聞いてみるのもいいでしょう。
今のように新型コロナ感染の恐れがあって外出できないことが続いていると、機能低下が進んで、失禁するようになってしまうかたも少なくありません。次回は、失禁が続くようになっていった時のための対策をお話しましょう。
教えてくれた人
宮子あずさ(みやこあずさ)さん/
1963年東京生まれ。東京育ち。看護師/随筆家。明治大学文学部中退。東京厚生年金看護専門学校卒業。東京女子医科大学大学院博士後期課程修了。1987年から2009年まで東京厚生年金病院に勤務。内科、精神科、緩和ケアなどを担当し、700人以上を看取る。看護師長を7年間つとめた。現在は、精神科病院で訪問看護に従事しながら、大学非常勤講師、執筆活動をおこなっている。『老親の看かた、私の老い方』(集英社文庫)など、著書多数。母は評論家・作家の吉武輝子。高校の同級生だった夫と、猫と暮らしている。
構成・文/新田由紀子
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