親が出かけたがらなくなってしまったら…|700人以上看取った看護師がアドバイス
デイサービスに行かないなど、外出をしない日々が続くと、いろいろな機能が低下していく。看護師として700人以上を看取り、今は訪問看護の仕事をしている宮子あずささんが、外に出ることの大切さと、そのためにどうしていったらいいかをアドバイスする。
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出かけないと、どんどん出かけられなくなる
高齢者にとって出かけることはとても大切です。
●大事をとって外出させないことになりがちだが
感染症をおそれてだけでなく、けがをしたとか、体調が悪かったという理由で外に出なくなることもあるでしょう。デイサービスなど外出する習慣を中断したあとは、どうやってまた元に戻していくかということを考えなくてはなりません。
例えば「もし感染したらどうするのか」ということが頭をよぎると、介護している側も、大事をとって外出させない方向になってしまいがちです。
しかし、感染するかもしれないリスクだけを考えているうちに、目の前にダメージが起こっているかもしれません。
●この中から思い当たることがあったら注意を
出かけなくなる前と比べて、以下のようなことがないでしょうか。
・脚の運びがもたついたり、つかまって歩くようになっている
・腰や背中が曲がってきた
・食事の量が減ってきている。固いものを食べなくなってきている
・日にちの感覚がわからなくなってきている。今日が何日で何曜日か答えられない
・もの忘れがひどくなってきている
・トイレが間に合わないことがでてきた
当てはまるものがあったら、機能低下が起こっているということです。
外出しない単調な暮らしを続けることは、想像以上にダメージをもたらします。身体的な問題だけでなく脳の機能低下も考えておかなくてはなりません。外出しないとどうしても単調になります。脳は新しい刺激を受ける必要があります。デイサービスに行かなくなることで、身体的な運動量としてはそれほど変わらなかったとしても、他人と話し、違う景色を見ることは大きな意味を持つのです。
出かけないことで、感染によって命を落とすリスクは防げても、その代わりに、認知症になったり骨折したり誤嚥してしまったら、命の危険につながりかねません。そちらのリスクが大きくなってしまわないか、考えてあげる必要があります。
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出かけられるようにしていくには
もともとデイサービスに行きたくないという高齢者は少なくありません。
●「人前に出ないモード」になっていませんか
行かなくなって、これ幸い、このまま行かないですませたいという気持ちになっているようなら、周りが、なんとか促してあげる必要があります。
人前に出ないモードになっていると、どんどん出かけることがおっくうになってしまいます。
人に見られないなら、顔も洗わなくなるし、着替えをしないでずっと寝間着で暮らすようになっていくかもしれません。髪が伸びて老けた様子でいるのが、当たり前のようになっていく。それではさらに人前に出られないようになっていきます。整容は実は大切なことなのです。
●花束やお弁当と写真を撮ってみる
母の日で花束を渡すとか、おいしそうなテイクアウトのお弁当を食べるとかいう時に、写真を撮っているという人の話を聞きました。きょうだいにメールで送るからといって、出かけなくても、ちょっとよそ行きの服に着替えさせるとのことでした。
撮った写真を見て、母親が「私、髪がこんなにボサボサで、おばあさんになっちゃってるのにぞっとしたわ」と言って、それまでおっくうがっていた美容院に、行くことにしたそうです。写真を撮るのは、人に会えなくても、ちょっと人の目を意識させるのにいいことですね。
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うつしてしまうことを心配して、親のところに行かないでいると
親だけで住んでいる実家に、行かないようにしているとか、食べ物だけ玄関先に置いて帰って来ているという話も聞きます。自分がもし菌やウイルスを持っていて、弱っている親に感染させるのが怖いからと言うのですね。
●食事をしたり、一緒に映像を観たり
しかし、人と接しないで過ごすことのデメリットは、想像以上に大きいのです。前述のように機能低下が起こっていたら、関わって過ごしてあげることも必要です。
親と話をするだけで時間を過ごすのは、ちょっとしんどいところもあるので、食事をしたり、DVDやタブレットを持って行って、好きそうな映像を一緒に観たりしてもいいかもしれません。
●実家に行く時に気を付けることは
そういう時に、感染予防のために一番するべきなのは、やはり手洗いです。食器やタオルは共有しないようにします。心配なら、玄関でそれまで着ていた上着を脱いでから、部屋に入ってください。どうしても心配だというかたは、自分が触ったテーブルなどを、次亜塩素酸ナトリウムを含む家庭用消毒剤で拭くといいでしょう。
<出かけなくなってしまった親にどう対処すればいかのまとめ>
●外出する習慣を中断したあとは、どうやって戻していくか考えなくてはならない
●出かけないことで感染リスクは防げても、機能低下によって別の命の危険につながりかねない
●もともと行きたくないデイサービスを行かずにすませたいという気持ちもあるかもしれない
●人に会わないで身だしなみに気をつかわないと、出かけることがおっくうになっていく
●写真を撮ったりして、人の目を意識させるように促していく
●実家に行かないようにしている人も、機能低下が起こっていたら一緒に過ごしてあげる
今回の宮子あずさのひとこと
●医師と看護師でも専門性の違いを感じることはよくある
私が働いている医療現場でも、医師と看護師の専門性の違いを感じることがよくあります。
例えば単純化して言うと、医師が、薬を1日4回に分けて内服させるというのに対して、看護師としては、この患者さんにとって、薬を飲むのは大きな負担だから、それは無理だと思ったりするわけです。
薬効を最大限に得るために4回に分けたいのが医師、その人の暮らしに照らして可能な回数を考えるのが看護師。これは専門性の違いで、どちらの立場も必要なのだと思います。
●感染制御の専門家から発信される情報は「外出は避ける」だが
新型コロナウイルスへの対応をめぐっても、これと同じことが言えるでしょう。諮問委員会のメンバーの多くは感染制御が専門です。そこから発信される情報を耳にしていると、なるべく外出は避けるように、特に高齢者は出かけてはいけないと思いがちです。
しかし、私は看護師という仕事柄、長期的に生活が制限される負の面のほうに、目が行ってしまいます。
●負の面も考えながら、家族の目で判断を
当然、命を守るために感染防止をすることは大切です。しかし、今回お話したような高齢者の機能低下という観点から見れば、状況を見ながら、家族の目で判断していくことが必要だと思います。
国や自治体からいいと言われたことは、やっていいわけです。過度に怖がらず、外に出て行くように促していくことが、親御さんを守るのだと思います。
教えてくれた人
宮子あずさ(みやこあずさ)さん/
1963年東京生まれ。東京育ち。看護師/随筆家。明治大学文学部中退。東京厚生年金看護専門学校卒業。東京女子医科大学大学院博士後期課程修了。1987年から2009年まで東京厚生年金病院に勤務。内科、精神科、緩和ケアなどを担当し、700人以上を看取る。看護師長を7年間つとめた。現在は、精神科病院で訪問看護に従事しながら、大学非常勤講師、執筆活動をおこなっている。『老親の看かた、私の老い方』(集英社文庫)など、著書多数。母は評論家・作家の吉武輝子。高校の同級生だった夫と、猫と暮らしている。
構成・文/新田由紀子