親がひとりで入浴ができないときは…|700人以上看取った看護師がアドバイス
自宅にいる高齢者にとって、大きな問題となるのが入浴だ。足腰が弱ったり、体調が悪くて、自宅での入浴が難しく、デイサービスでお風呂に入っている人は多い。デイサービスに行けないと、とても困ることになる。大病院に勤務する看護師として700人を看取り、訪問看護でたくさんの家庭に通ってきた宮子あずささんにアドバイスをもらった。
どうやってお風呂に入れてあげるか
ひとりでお風呂に入るのが難しいという親御さんも多いと思います。
●リフォーム工事までしなくても、手すりをつけたら入れるようになることも
そのままでは入れないけれど、手すりをつけたら入浴できるようになる人や、ヘルパーさんが手伝ってあげれば入れるという人など、状況は様々です。まずは、ケアマネジャーに相談してみてはいかがでしょうか。
リフォームという方法もありますが、工事までしなくても、すぐ設置できるつっぱり棒型の手すりをつけるといったやりかたで、立ち上がったり浴槽をまたいだりする動作がかなり楽になる場合もあります。
●簡易浴槽を持ち込んで訪問入浴も
ちなみに、ひとりで入浴するのが難しくなった場合、ヘルパーさんに入浴を手伝ってもらう方法もあります。
また、起き上がることも難しい場合や、浴室が狭いなどの構造的な理由から、自宅の浴室では介助しての入浴ができないこともあるでしょう。そういう場合は、専用の簡易浴槽を持ち込んで室内に設置し、浴室からお湯を汲んできて、湯船に入ってもらいます。2畳分ぐらいのスペースがあればできています。
家族が手伝えば入浴できるならシャワー浴も
状態によっては、家族が手伝って入浴させる場合もあるでしょうから、その時の注意をまとめてみます。
●大きめで背もたれのある浴室用の椅子を
浴槽に入ることにこだわらなければ、シャワー浴になります。
浴室用の椅子を用意しておくといいでしょう。親御さんを座らせて、髪の毛を洗ったり、身体を洗ったりします。
一般の浴室用の椅子では、低くて座りにくいので、安定して座れる専用のものがおすすめです。ネット通販で「入浴介助 椅子」と検索してみるとたくさん出てきますので、使いやすそうなものを選んでください。背もたれがあると安心して入浴させられる場合もあるでしょう。
●お湯を手元で止められるシャワーヘッドに替える
もうひとつ、シャワーヘッドが旧式の場合は、替えると使いやすくなることも多いですね。例えば、介助してお風呂に入れるときは、シャワーヘッドの手元でオンオフができるものがお勧めです。そうでないと、いちいち水栓で湯温を調整しなければなりません。
また、年配のかたは、お湯を出しっぱなしにするのをもったいないと嫌がったりします。そのためにも、簡単に手元でお湯を止められるシャワーヘッドがいいでしょう。大きめのものを選ぶと、水流が強くて痛いということがなくなるので、気持ちよくシャワーを浴びさせてあげられます。
顔にかかる、耳に水が入るのはどうするか
髪を洗うときに、顔にお湯がかかるのを嫌がることがあるので、そういう場合は、シャンプーハットを使ったりします。
●耳の穴に綿をつめるのはやめたほうがいい
いっぺんに全部洗おうとしないで、分けて洗うといいでしょう。先にシャンプーハットより上の部分を洗って、あとから下の部分を洗います。
耳に水が入ってしまわないようにと、耳の穴に綿をつめるのは、やめたほうがいいのです。かえって、水が綿をつたって耳の穴の奥に入ってしまうことがあります。本人に手で耳をふさいでもらって、こちらがお湯をかけてあげるのがいいと思います。もし耳に水が入ってしまったら、頭を傾けて叩いたり振ったりして出します。
●濡れてもいいように、前開きシャツや雨合羽を
最近では、シャンプーもできる大きい洗面台のある家庭も増えてきているので、利用すると便利ですね。
洗面台を使う場合も、どうしても濡れてしまうことになるので、あらかじめ水に濡れてもいいような身支度をして始めたほうが、結果的には楽にできます。
私は、母に入浴させるとき、脱がせやすいように前開きのメリヤスシャツを着せていました。下着でも寝間着でもいいでしょう。頭から引っ張って脱がせるほうがやりやすいなら、Tシャツでもいいのです。
介護する側は、濡れてもいいTシャツなどでもいいし、雨合羽などを着てもいいと思います。
お風呂に入れないときには清拭を
お風呂に入れない場合は、清拭といってタオルなどで身体を拭いてあげます。ドラッグストアやネット通販で売っている清拭剤を使うといいでしょう。液体タイプだとお湯に加えてタオルをしぼって使うことになりますが、泡タイプだと、タオルにのせただけで使えるので、便利です。
●おしりを洗うときは、温水洗浄便座を使う
洗面器に温かいお湯を入れて、ベッドのそばに持ってきます。まずは上半身を拭けるようにして、しぼったあったかいタオルで、背中・胸。上肢というようにきれいにしていきます。終わったら上半身の服を着せて、今度はズボンを脱がせて下半身を拭きます。
おしりを洗うのには、ウォシュレットのような温水洗浄便座を使うのが便利です。洋式便座に座らせて、ちょっと向きを変えながらお湯をかけて洗ってあげます。丁寧にするには、清拭剤をつけたタオルで拭いてからウォシュレットで洗います。
100円ショップで売っている台所洗剤用のようなシャワーボトルなども便利ですね。こちらもネット通販で「介護用 シャワーボトル」と検索すると専用のものがたくさん見つかります。おまたの部分にシュッシュッとふきつけて流すことができます。
<ひとりでお風呂に入れない親の介助のやりかたまとめ>
●ケアマネジャーに相談して、設備やヘルパーなどの方法を検討する
●家族が手伝って入浴させるならば、シャワー浴も
●浴室用の椅子や、手元でお湯を止めたり出したりできるシャワーヘッドがあるといい
●髪を洗うときは、シャワーキャップを使ったり、本人に耳をおさえてもらったりする
●お風呂に入れないときは、タオルで身体を拭いてあげる
●清拭剤、ウォッシュレットなどを使う
今回の宮子あずさのひとこと
●「デイサービスと同じように」と思ってしまわない
デイサービスに行けないと、どうしてもADL(日常生活動作)が落ちてしまうかもしれません。しかし、自宅でもデイサービスと同様の、リハビリやレクリエーション、他人とのコミュニケーションなどをしなくてはと、厳密に考えると大変です。また、デイサービスに戻れるようにというぐらいの気持ちでいるといいと思います。
●「またデイサービスにスムーズに戻れるように」と無理なく考える
緊急事態宣言が延期されて、介護する側のメンタルヘルスもダメージを受けていっています。不自由な生活が続き、収入が減ったりすることも増えて、多くのかたがストレスを抱えています。そんな中で、「デイサービスに行っているときと同じようにちゃんと」ということまで、自分に課すのはあまりに負担になります。
それよりも、新型コロナウイルスの感染が落ち着いて、日常生活がだんだん戻ってきたときに、親御さんがデイサービスにうまく通えるのを目標にしてはどうでしょうか。またスムーズに通えるように、食事や睡眠の生活リズムを保っていく。少しでも無理なく介護を続けていければと思います。
教えてくれた人
宮子あずさ(みやこあずさ)さん/
1963年東京生まれ。東京育ち。看護師/随筆家。明治大学文学部中退。東京厚生年金看護専門学校卒業。東京女子医科大学大学院博士後期課程修了。1987年から2009年まで東京厚生年金病院に勤務。内科、精神科、緩和ケアなどを担当し、700人以上を看取る。看護師長を7年間つとめた。現在は、精神科病院で訪問看護に従事しながら、大学非常勤講師、執筆活動をおこなっている。『老親の看かた、私の老い方』(集英社文庫)など、著書多数。母は評論家・作家の吉武輝子。高校の同級生だった夫と、猫と暮らしている。
構成・文/新田由紀子