お風呂場で死なないために今すぐできること|怖いのはヒートショックだけじゃない!
先日、惜しまれながらこの世を去った野村克也さん(享年84)。自宅の浴槽で亡くなったのが見つかったが、これは入浴時に起こる「ヒートショック」だったのではないかと考えられている。
リラックスできるはずの空間で、命を落とさないために…。今すぐできる対策を専門家に伺った。
ヒートショック、朝風呂は要注意
入浴時のヒートショックは夜に発生するケースが多いが、これは夜に入浴する人が多いため。最も危険な時間帯は「朝」だという。 入浴と健康の関係を研究している医師で、東京都市大学人間科学部教授の早坂信哉さんが解説する。
「もともと朝というのは、寝ている間のリラックスした副交感神経優位の状態から、日中に活動するための交感神経優位の状態にスイッチが切り替わる時間帯。血圧が大きく変動する時間帯なので、脳卒中や心筋梗塞の発生が多い。そのタイミングで入浴してしまうと、リスクがさらに増えます」
ヒートショックによる突然死を防ぐために、どんなことに気をつけるべきなのか。
●脱衣室とリビングとの温度差が5℃以内に
●風呂の温度は41℃まで
「まず、温度変化を小さくすることが大事です。冬場の脱衣室はかなり冷えた状態になっているので、脱衣室の中を暖めるために暖房器具を設置して、リビングとの温度差が5℃以内になるようにしましょう。また、浴室の中も暖めておいた方がいい。浴槽にお湯を張る際は蓋を外しておき、さらにあらかじめ熱いシャワーを床に掛けておくと、湯気がモウモウと立ちこめて、浴室内の温度は上がります。湯船の温度は40℃、高くても41℃までにしておくことで、入浴時の急激な血圧上昇を抑えられます。41℃でも充分に体は温まります」(前出・早坂さん)
●いきなり熱いシャワーを浴びない
一気にドボンと湯船につかるのではなく、かけ湯をすることも効果的。冬場は特に多めに、手桶で10杯くらいかけてから入浴した方がいいとのこと。湯船につかる習慣がないからといって、安心とは言い切れない。
「冬場はシャワーも危険です。熱いお湯だけでなく、冷たい水を浴びても交感神経が刺激されて血圧は上昇する。実際に最近起きた例なのですが、シャワーで最初に出てくる冷たい水を浴びてしまい、心筋梗塞になった人がいました。もちろん、いきなり熱いシャワーを浴びることもNG。体への刺激が強くならないよう、しっかりと温度をコントロールする必要があります」(国際医療福祉大学大学院教授の前田眞治さん)
体温が42.5℃で心停止する
入浴時の危険は、ヒートショックのほかにもある。湯船につかると血圧は一時的に上昇するが、しばらくすると、今度は血圧が急激に下がってくる。この血圧低下によって「溺死」してしまうケースも多いという。
●入浴時間は10分以内に
「湯船の中では熱によって血管が開くため、上がった血圧は時間経過とともに下がっていきます。私たちが各年代を対象に行った実験では、50代は42℃の湯船に10分間つかると血圧が50以上も低下しました。60代以上の高齢者は安全管理上の理由で実験の対象にできなかったのですが、低下の幅は、より大きくなるとみられています。血圧が下がりすぎると血液が脳まで行き渡らなくなり、意識障害を起こしてしまう。湯船に潜り込んで鼻までつかっても目覚めることがなく、ものの数分で溺死してしまう」(前出・前田さん)
●食後30分は入浴を避ける
どうしても熱いお風呂に入りたいという人は、ヒートショック対策をとったうえで10分以内の入浴に留めるべきだ。さらに食後は、血液が食べ物を消化するために腸などの消化管の方に集まり、脳に血液が行かなくなる。その状態で湯船につかると血圧低下も加わり意識障害が起こるリスクが増すので、食後30分は入浴を避けた方がいい。飲酒後も、アルコールによって血管が拡張して血圧が下がっているので同様に危険だ。また、前出の早坂さんによれば、湯船から出る際にも危険が潜んでいる。
「湯船の中では、水圧によって体が締めつけられています。これがお湯から出ると、水圧から解放されて血圧が一気に低下する。これにより、意識障害を引き起こす場合もあります」
こんなケースも。昨年11月に、58才の妻と死別した石田紘一さん(65才・仮名)が証言する。
「一気に冷え込んだ日のことでした。いつもは15分程度で入浴を済ませる妻が“今日は寒いからゆっくりお風呂につかろうかしら”と言ってお風呂に入っていった。45分くらい経っても出てこないので“さすがに長いな”と様子を見に行ったら、妻が湯船の中に沈んでいたんです。慌てて引き上げたのですが手遅れでした。普段からヒートショックの対策を心掛けていて、浴室を暖めてから入浴していたのに…」