認知症の母のために息子が実践する目からウロコの家事ルール
岩手・盛岡で暮らす認知症の母を遠距離介護している工藤広伸さん。毎月、東京と盛岡を2往復して介護を続けていく中で、帰省のたびにしているのが“生活環境を整えること”。認知症の人にとって大切な、工藤さん流5つの家事のルールを教えてもらった。
目次
母は介護施設ではなく、自宅で暮らしています。ヘルパー・訪問看護師など、介護保険サービスの力を借りながら、なんとかひとりで生活できています。
しかし、介護保険サービスだけでは不十分で、家族であるわたしが、母に気持ちよく生活してもらうための環境作りをしなければなりません。
今回は、わが家で実践している、認知症の人のための環境作りを5つご紹介します。
【1】家の掃除を念入りに行う
認知症の人は、症状の進行とともに、注意力が低下する場合もあります。そのため、ホコリやゴミなどに意識が向かなくなり、部屋がどんどん汚れることもあります。
母は部屋をキレイに保つ意識はあるので、モノが床の上に散らかっていることもなく、家に来る介護職の方にも、「工藤さんの家は、いつもキレイですね」と言われるほどです。
しかし、一見キレイに見える家でも、床にはホコリがたまっていますし、食事が終わったあと、テーブルを拭かないので、汚れています。
以前はマメに掃除をする母でしたが、最近では細かいところまで注意が行き届かなくなってしまいました。
そこでわたしが、母がデイサービスに行っている間に、居間、寝室、トイレ、台所などを掃除します。今は新型コロナウイルスの感染対策も兼ねて、アルコール除菌も行っています。
母が不在のときに掃除をする理由は、「わたしがあとで掃除するから」と、何度も声を掛けられ、掃除が中断してしまうからです。声を掛けてくる割には、自分で掃除することはありません。
母がしばらく掃除をやらなくてもいいくらいキレイな状態にしてから、わたしは帰京するようにしています。
【2】洗濯物は残さずゼロにする
母は自分で洗濯をしますが、かなり大雑把なこともあります。
例えば、洗濯していたことを忘れてしまい、洗濯機の中に洗濯物が何日も残ったままになっていたり、母の下着やズボンについた便の下洗いをしないまま洗濯をして、洗濯機自体が汚れていたりしたこともありました。
母にはキレイな衣服を着て生活してもらいたいので、わたしがすべて洗濯を終えてから、帰京するようにしています。
【3】食器棚にある食器を洗い直す
母の食器の洗い方は、水洗いが基本で、洗剤は使ったり使わなかったりです。
そのため、油汚れやコーヒーの汚れが付着したままの食器が、食器棚にあります。ひどいときは、フライパンに残った油を洗わず、そのまま台所の下の棚に戻すこともあります。
汚れたままの食器を使い続けた母が食中毒にならないよう、食器を洗い直してから帰京するようにしています。
【4】食料の在庫を潤沢にする
手足が動かしにくい母は、誰かの歩行介助なしでは、外を歩けません。近所のスーパーまで買い物に行くこともできないので、ヘルパーさんが買い物の代行をしてくれています。
しかし、想定以上に食材がなくなったり、ヘルパーさんの買い物の日まで日数があったりする場合は、わたしが食材をまとめ買いして、冷蔵庫に補充します。
食材を冷蔵庫に補充する際は、ちょっとした工夫が必要です。食材は、できるだけ母の目線の高さに集め、何の食材かすぐ分かるよう、商品名の書いてあるラベルが手前を向くようにして、冷蔵庫の棚にキレイに並べます。
母の目線よりも高い冷蔵庫の棚に、食材を補充したことがあるのですが、母は細かいところまで注意が行き届かず、その食材は結局、賞味期限切れになってしまいました。
そういった経験から、食材の並べ方にはかなりこだわっています。
また、食材選びも工夫しています。
母は料理が億劫になることもあるので、さつま揚げやちくわなどの練り物や、皮をむいて手軽に食べられるバナナなど、調理の必要がほとんどなく、手軽に食べられる食材を多めに購入します。
【5】調味料を補充して、位置を整える
母がよく使う調味料やコーヒーの粉、グラニュー糖などは、いつも同じ場所に配置し、在庫がなくならないよう、必ず補充をしてから帰京します。
わたしがコーヒーの粉を定位置に配置したとしても、毎日の生活の中で、コーヒーの粉はいろいろな場所へ移動します。母は自分で置いた場所を覚えていられないので、コーヒーの粉の場所が分からず、大好きなコーヒーを飲まずに過ごしたこともありました。
それでも、わたしが帰京する前に、コーヒーの粉を定位置に戻しておけば、母は数日間、確実にコーヒーを飲むことができます。
【まとめ】認知症の進行を防ぐために当たり前の環境を整え続ける
母が今できている習慣も、認知症が進行するにつれ、できなくなってしまう可能性はあります。そうならないよう、こうした細かい環境作りや生活への配慮が、家族には求められるのだと思います。
いつもと変わらない「当たり前の環境」を維持することで、母の生活や習慣は保たれ、結果として、自立した生活を長く送ることができるのだと思います。
今日もしれっと、しれっと。
工藤広伸(くどうひろのぶ)
祖母(認知症+子宮頸がん・要介護3)と母のW遠距離介護。2013年3月に介護退職。同年11月、祖母死去。現在も東京と岩手を年間約20往復、書くことを生業にしれっと介護を続ける介護作家・ブロガー。認知症ライフパートナー2級、認知症介助士、なないろのとびら診療所(岩手県盛岡市)地域医療推進室非常勤。ブログ「40歳からの遠距離介護」運営(https://40kaigo.net/)
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