連載

認知症の母がおいしいと完食した息子の手料理の秘密

 盛岡で1人暮らしをする認知症の母を、東京から遠距離で介護をしている作家でブロガーの工藤広伸さん。企業の社員寮の寮母として腕を振るうほど料理上手だった母だが、最近は味つけなど、うまくできないことが増えてきたという。

 1週間を盛岡、2週間を東京というペースで実家に通う工藤さんだが、母と囲む食卓のメニューにも頭を悩ますことがあるようで…。今回は、そんな工藤家の食事のお話だ。

関連記事→認知症の母のラーメン調理に立ち会ってわかった衝撃の作り方

 * * *

 1日3回もある食事の献立をどうするか?実家に帰ると、わたしはいつも頭を悩ませています。

 認知症が軽度の頃は、母が献立を決めていました。しかし、認知症の進行とともに、出来ない料理が増えてレパートリーが限られてしまったので、わたしがその中から献立を決めています。

 わたしは料理が苦手です。レシピ検索サイトを見ながらなんとか料理をすれば品数は増えますが、時間がかかってしまいます。ラクに献立を決められる方法はないだろうか?と思っていた矢先、ある事件が起きました。

体調不良で料理できなくなった妻のおすすめ冷凍食品

 2018年12月に妻に膠原(こうげん)病が見つかり、2か月ほど入院したのです。退院後も妻は、家で料理ができないほどに弱っていました。

 これを機に、わたしも料理の勉強をしようかなと一瞬思ったのですが、すぐ身につくものでもありません。かといって、市販のお弁当ばかり食べるのも、体に悪そうです。

 簡単に料理ができる方法がないか探していたところ、妻から「だったら、無印良品(以下、無印)の冷凍食品を食べよう」と提案がありました。

 なぜ無印の冷凍食品を選んだのかを聞いたところ、「化学調味料、合成着色料、香料などを使っていないし、おいしいから」という回答でした。

 早速、冷凍食品を扱っている店舗へ行って購入し、家で食べてみると、確かに調理が簡単で、しかもおいしい!

 盛岡の母にもいいかもと思ったわたしは、実家で無印の冷凍商品を試してみることにしました。

無印良品の冷凍食品で夕食の準備をしてみた

 母は食事の好き嫌いがなく、嚥下障がいもありません。

 但し、化学調味料や香料がたくさん入った市販のお弁当を食べると、胃の調子が悪くなったり、体調を崩したりします。なので、化学調味料を使っていない、無印の冷凍食品は母に合っていると思いました。

 実家の近くに無印の店舗はなかったので、ネットで購入しました。選んだ冷凍食品は、夕ご飯のおかずになりそうなものや和菓子などで、合計で約5000円。下の写真のように、クール宅配便でドカッと届きました。

 母がデイサービスから帰ってくる前に、無印の冷凍食品を使って夕食の準備をしよう!と考えたわたしは、早速調理に取り掛かりました。

 その日の夕食に選んだ冷凍食品は、「京風うの花」と「ぜんまいと揚げの煮物」と「餃子」です。

「京風うの花」と「ぜんまいと揚げの煮物」は、鍋に入れた常温の水に、冷凍食品を40分浸します。(パッケージには20分から40分と書いてある)。解凍が終わったら、盛り付けをして調理終了です。

「餃子」は、フライパンに油をひき、餃子の上から水をかけて、4分から5分蒸し焼きにすれば完成です。

 無印の冷凍食品とは関係ありませんが、冷蔵庫に豆腐が余っていたので、レトルトの麻婆ソースと絡めて、麻婆豆腐も作りました。すべて作り終えた写真がこちらです。

 久しぶりに品数の多い、夕食となりました。

母に無印良品の冷凍食品を完食

 デイサービスから帰ってきた母は、わたしが作った夕食を見て、

「あら、今日は豪華な夕食ね。あんたが作ったの?」

 と言うので、

「冷凍食品だけどね」

 と種明かしをしました。母は冷凍食品に対して、添加物がたくさん入っていておいしくないという、マイナスのイメージしか持っていませんでした。

 しかし、母は「おいしい」と言いながら、完食してしまいました。昔の冷凍食品との違いに、驚いた様子でした。

 わたしの味の感想ですが、京風うの花やぜんまいと揚げの煮物は、しっかりとした味付けで、餃子はサッパリしていて、とてもおいしかったです。

実家の冷凍庫に無印の冷凍食品を常備してみた

 作り方が簡単、味もおいしいということで、しばらく無印の冷凍食品を実家の冷凍庫に常備してみました。

 母は冷凍食品のパッケージに書いてある調理法に従って、料理できるかを観察したのですが、うまくできませんでした。ただ、水で浸して解凍するタイプの冷凍食品は、自分で解凍して食べられることが分かりました。

 母は冷凍食品を「冷凍庫」で保存することが分からないようで、「冷蔵庫」から解凍された状態で出てきたことが何度かありました。そのため、現在はわたしが実家に居るときだけ、無印の冷凍食品を活用するようにしています。

冷凍食品を賢く活用して日々のストレスをためない

 在宅で介護されている方は、介護を受ける人の噛む力や飲み込む力、栄養面まで考えて、日々献立を決めていると思います。

 もしそういった食事の条件に問題がないようでしたら、無印の冷凍食品を活用してみるのも、ありかと思います。

 仕事や介護で時間を取られ、さらに献立決めや調理で時間を取られると、ストレスはどんどんたまっていきます。しかも食事の準備は毎日のことなので、こういった冷凍食品を賢く活用して、日々のストレスをためないようにしましょう。

 わたしは、冷凍食品は在宅介護の便利ツールのひとつと考えています。

 今日もしれっと、しれっと。

工藤広伸(くどうひろのぶ)

祖母(認知症+子宮頸がん・要介護3)と母のW遠距離介護。2013年3月に介護退職。同年11月、祖母死去。現在も東京と岩手を年間約20往復、書くことを生業にしれっと介護を続ける介護作家・ブロガー。認知症ライフパートナー2級、認知症介助士、なないろのとびら診療所(岩手県盛岡市)地域医療推進室非常勤。ブログ「40歳からの遠距離介護」運営(https://40kaigo.net/

●息子が認知症の母のために何度もカレーを作る深い理由

●ひとり暮らしの認知症の母が準備した朝食が切なすぎた話

●認知症の母が切り抜いた新聞記事が切なすぎた話

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