映画「37セカンズ」障がいと性を描いた話題作|大東駿介ら実力派俳優も…
障がい者の自立や介護、性をテーマにし、話題を集めた映画『37セカンズ』が、いまNetflixで視聴可能だ。脳性麻痺のヒロイン佳山明を支える介護福祉士役として大東駿介が出演するなど、脇を固める個性派俳優も見どころだ。※2020年6月4日加筆。
障がいを抱えるヒロインがぶつかる壁や生きづらさを真正面から描いた映画『37セカンズ』は、ロサンゼルスを中心に活動するHIKARI監督初の長編映画。ベルリン国際映画祭で観客賞と国際アートシアター連盟賞をW受賞するなど、海外で大きな話題に。日本では2020年2月に公開され、現在はNetflixで視聴可能となっている。
俳優の大東駿介、板谷由夏、尾身としのりなど脇を固める豪華キャスト、海外ロケと、障がいをテーマにした日本映画のなかでも、とりわけスケールの大きい作品だ。
演技初挑戦のヒロインは脳性麻痺の一般女性
映画のヒロインは、手足に麻痺がある23才の女性、貴田ユマ(佳山明)。生まれてきた時、37秒間息をしていなかったことで障害を背負うことに。映画のタイトルは、この37秒に由来する。映画では親友の売れっ子漫画家のゴーストライターをしているユマが、1人の女性として成長していく様子が丁寧に描かれている。
この映画の肝は、なんといっても主人公ユマの圧倒的な存在感にある。
ユマを演じているのは、障がいを持つ女性100人の中からオーディションで選ばれた佳山明(かやまめい)さんだ。生まれながらに脳性麻痺という障害を抱え、車いす生活を送っている。オーディションに現れた佳山さんに心を鷲づかみにされたというHIKARI監督は、「演技とは演じるものではなく、その場の状況にただ反応するもの。佳山さんは私たちが伝えた状況を全て、彼女のまま、彼女らしく受け入れ、素直に反応してくれました」と語っている。
佳山さんは、本作が演技初挑戦となるが、愛らしく、ひたむきで、時に野心があって、好奇心溢れるユマをのびのびと演じている。入浴シーンやラブホテルでの濡れ場にも挑み、体当たりの演技を見せている。
障がい者を介護する母と娘の葛藤とは
障がいを持つ娘ユマと母親の関係性が映画のキーとなっている。シングルマザーの恭子は、漫画の仕事を終えて帰宅する娘の服を脱がせ、お風呂に入って髪を洗う。毎日バス停まで送迎し、服装や行動について細かく口を出す。恭子の愛に重苦しさを感じているユマに対し、「私がいなくてはこの子は生きられない」と感じている母の想いが交錯する。
母親役は、舞台や映画で活躍するベテラン女優の神野三鈴さんが熱演している。映画の出演が決まると、神野さんと佳山さんは、役作りのために共同生活を開始。東京・高円寺のバリアフリーのマンションで一緒にお風呂に入ったり、車いすを押して買い物に出かけたり、実際の親子のように過ごした。
母娘の濃密な空気感や親子の生々しい感情のぶつかり合いは現実味を帯び、介護する母と介護される娘の息苦しさは迫りくるものがある。
障がい者の性、タブーを真っ向から描く
この作品の見どころのひとつは、性という難しいテーマを爽快に描いている点だ。ある日、幼なじみのゴーストライターとしてではなく、自ら漫画家として成功したいと考えたユマは、アダルトコミック誌に作品を売り込みに行く。
「セックスしたことある? 作家に経験がないから作品にリアルさが欠ける」とコミック誌の編集長(板谷由夏)に言われたことで、ユマはある決意をする。母親に内緒で夜の繁華街に繰り出し、ラブホテルへ向かう。
ホテルの部屋を出てエレベーターを待つユマは、障がい者のクマ(熊篠慶彦)とデリヘル嬢の舞(渡辺真起子)、介護福祉士の俊哉(大東駿介)と出会う。この出会いがその後のユマの人生を大きく変えていくことになる。デリヘル嬢の常連客として登場する熊篠さんは、実際に脳性麻痺を抱えながら障がい者の性に関する支援活動をしている人で、この映画の脚本にも大きく貢献している。
メイクでユマの表情が輝くロケ地は銀座
映画の中盤では、家出をするユマを温かく支える舞の存在が際立っている。渡辺真起子演じるサバサバとした舞が、母親とはまた違った形でユマに世間を教え、愛情を注ぐ。
舞はユマに新たな服を選び、化粧品売り場に連れていく。メイクをしてもらったユマが女性としていきいきと輝いていくシーンは印象的だ。この映画は、障がい者への支援活動を続けているハーバー研究所が協賛しているのだが、実は主演の佳山さんは肌が弱く、もともと無添加化粧品のハーバーを使用していたことが縁となり、撮影に全面協力したという。
メイクをしてもらったユマは、舞にこう質問をする。
<障がい者とセックスするのと、普通の人とするのとどう違いますか?>
<私は好きな人とすることができるのでしょうか>
この問いに対する舞のセリフに、監督の想いが込められている。
介護福祉士役の大東駿介とタイへ…
映画の後半はロケ地をタイに移し、物語は新たな展開を見せる。佳山のみずみずしい反応と、脇を固める役者の熟練の演技が絶妙な化学反応を起こし、障がいや介護、性といった重いテーマの映画を、爽快なエンターテイメント作品に昇華させている。
障がいを抱えて生きてきたユマがたどりついた答えとは。ラスト20分、ユマの言葉に涙が止まらない。見終わったあと、温かな気持ちに包まれるはずだ。
(C)37Seconds filmpartners 取材・文/廉屋友美乃
【データ】
映画:37セカンズ http://37seconds.jp/
Netflixで視聴可能
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