もの忘れと認知症の違いとは|老化?認知症?不安になる行動事例を元に専門家が解説
この頃増えてきた「あれっ?」と思うこと。テレビを見ていても芸能人の名前が出てこない、むしろ誰が誰か見分けがつかない、忘れないようにメモをしたのにそのメモをどこに置いたか忘れる、そういえば昨日の夕飯はなんだっけ――これってただの老化? それとも認知症?よくある事例を元にそのボーダーラインを専門家に解説してもらった。
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【注意】おかずをチンしているのを忘れて「おかずがない」と言う
レンジや冷蔵庫に入れておいたおかずを、ほかのことをしているうちにすっかり忘れ、食卓に並べなかった、なんてことはよくある話。
桜川ものわすれクリニックの院長・山本大介さんは、この行動を「グレー」と判断しする。
「『レンジにあるよ!』と誰かに言われて思い出せればセーフですが、それを言われても“そんなの知らん”と思い出せないようなら、認知症の可能性があるので、ぜひ検査に行ってほしいです」
【セーフ】キャップがついたままひげを剃っていた
間違えて夫の歯ブラシを使いそうになってあわてた、歯磨き粉と洗顔料のチューブを間違えた、なんてことは私たちも身に覚えがある。
「単なる注意不足ですね。同じ注意不足でも、毎回赤信号を見落とすといったレベルだと危険ですが、そこまででなければ大丈夫です。」(山本さん)
【セーフ】りんごと言うつもりがバナナと言い間違える
“りんご”と言うつもりが“バナナ”と言い間違えたとか、“日曜日”と言ったつもりが“土曜日”だったという経験はある。
「これもただの注意不足だと思います。言い間違いは注意力が乏しい人の特徴で、老化によって見られる症状です。人に指摘されて“あ、間違えた”と思えるなら、大丈夫です」(山本さん)
【アウト】同じ本を2度買う
「本屋さんに行ったら、好きな作家の新刊が出ていて、うれしくなって即買い。帰りの電車で読みながら帰って、家に着いたらAmazonから宅配便が届いていました。開けると出てきたのは、本屋で買ったのと全く同じ本。前日ネットを見ていて、ポチッとしたことをその時思い出しました。他にも、同じ雑誌を2冊買ってしまったり、漫画の新刊が出たと思って買ったらすでに持ってるやつだったり…。私、大丈夫かな」(東京都・45才・会社員女性)
買ってすぐ気づくときもあれば、読み進んでいるうちにようやく気づくなど、同様の経験に悩む人は少なくない。
「これは認知症の症状の1つですが、一方で単なるもの忘れということもあります。
見極めるポイントは、同じ失敗を繰り返すかどうかです。たまにやってしまうくらいなら、たまたま忘れてしまっただけでしょうけど、何度も何度も同じ間違いを繰り返すようだと認知症の可能性があります」(山本さん)
【セーフ】お風呂に入っていてシャンプーしたかどうかを忘れる
夜、お風呂に入っていて、髪の毛を濡らしたあと、ふと手が止まった経験はないだろうか。
「時々、“あれ、シャンプーしたかな?”ってわかんなくなることがあります。シャンプーしてないなって思って、もう1回シャンプーするんですけど、一緒に入っていた孫に、“また髪洗うの?”って言われてハッとしたり。リンスを流すのを忘れて湯船に浸かっちゃうこともあります」(福島県・58才・公務員女性)
これと同じようなケースが、台所で起こることもある。「あれ、みりんはもう入れたかな?」
「砂糖、何杯入れたっけ」
年をとればとるほど、そんなことが多くなるような気がするが、大丈夫なのだろうか。
「毎日、毎回といった頻度だと認知症の初期症状である可能性がありますが、そうでなければ老化現象、もの忘れの一種で問題ないでしょう」(山本さん)
【注意】メモをしたはずなのにメモをしたことを忘れてしまった
「メモをどこに置いたか忘れます。メモしたことも忘れることもあって、あとでカレンダーを見て、そうだった、なんてことが本当に増えた。この間なんか、買い物に行く時にメモしてそれを財布に入れたのに、スーパーに着いた時にはメモを持ってきたことを忘れて、結局、牛乳を買い忘れて、もうがっかり」(東京都・47才・主婦)
もの忘れを防ぐために、何をするか。圧倒的に多いのは「メモをする」のはず。買い物に行く時もメモ、テレビを見ていて行ってみたいお店を見つけた時もメモ、番組予告を見て録画しようとカレンダーにメモ?それで安心できないから不安なのだ。
「自分で、“またやっちゃった”と思えているうちは大丈夫です。そのことに自分で気づけなくなり、周りから指摘されても全く思い出せないことが出てきたら、病院に相談しましょう」(山本さん)
もの忘れと認知症の違いは?
●認知症だと日常生活が困難になってくる
解説を聞いて、ホッと胸をなで下ろした人も、ますます不安が増した人もいるだろう。
そもそも「老化による単なるもの忘れ」と「認知症」は何が違うのか。
「単なる老化と認知症は全く異なります。認知症の初期段階では記憶能力が落ちてくるので、自分のもの忘れが増えると認知症を心配されるかたもいますが、認知症だと日常生活が困難になってきます。買い物に行ってもちゃんと帰ってこられる、劇や映画の日時を覚えていてその場所に行けるというようであれば、心配はありません」(東京都健康長寿医療センター研究所老化脳神経科学研究部長・遠藤昌吾さん)
●「またやっちゃった」――自覚があるうちはまだ大丈夫
私たちは、何かを記憶するだけでなく、日常生活で無意識のうちに、常に脳を使っている。年をとると体力や視力が衰えてくるのと同じで、脳の機能も老いていくのは当然のことだ。
「単に歩くだけでも、脳の機能をものすごく使っています。視界に入ったものを認識したり、障害物にあたらないよう周りに注意を払ったり、転ばないよう体を動かすのも、すべて脳の機能です。また、年をとると体形も変わって身体機能も衰えます。30~40代でも20代の頃に比べると同じような動きはできないので、若い頃よりもっと集中して行動しています」(遠藤さん)
1つの行動に集中してしまうがゆえに、もう1つの用事や約束などを忘れてしまう。それは自然現象なのかもしれない。
「忙しくていろいろなことを同時並行で作業していると、新しい情報がどんどん入ってくるので、前の情報を忘れやすくなります。家事、育児、仕事と並列的にいろんなことをやっていると、想像以上に脳に負担がかかっていて大きなストレスになっています」(遠藤さん)
また、認知症になってしまった場合、気づくのは本人ではなく周りの人であることが多い。
「間違ったり忘れたりしても、周囲から指摘されて“あ、そうだった”と思い出せるなら普通のもの忘れなので、大丈夫です。認知症の場合は指摘されても全く何のことか思い出せません。症状が進んでくると、“私の記憶のほうが正しい”とだんだん頑固になってくるのも特徴のひとつです」(山本さん)
認知症は早期発見、早期治療が鉄則
誰かに間違いを指摘されても、自分では間違っていないと思う。もの忘れを指摘されても全く思い出せない。それが続くと、不安になり疑心暗鬼になり、イライラする――それが認知症の初期によく見られる症状で、自分自身で危ないなぁ、またやっちゃったと自覚症状があるうちはまだ安心なのだという。
それでも、老化にしろ認知症にしろ症状は徐々に進行していくがゆえに、その境界線は極めて曖昧で不安を抱えている人は多い。「認知症を発症した場合、早期であるほど進行を遅らせる治療が有効になります」(山本さん)と言うように、早期発見・早期治療が鉄則だ。
※初出:女性セブン