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暮らし

パーキンソン病の妻の腎臓を夫に移植 その後夫は世界大会で金メダル!互いに支え合う夫妻の物語

──2019年大会を終え、改めて感じたことは?

力 1つはね、移植した人が世界移植者スポーツ大会ってあることをまだまだ知られてない。やっぱり、おれと同じ志をもっていても自分の気持ちなりそれを発露する手段がない人が多いと思うので、おれが今思っているのは、まずは仲間を増やすことが大事だということです。地元イギリスは参加人数が300人だったかな、日本はたった14人ですからね。香港でさえ20~30人。恥ずかしくてしょうがない。とりあえず母集団を広げて、周知をして、世界移植者スポーツ大会に50~100人規模で行けるようにしなくてはと思っています。

 日本の参加者の規模が世界に比べて圧倒的に少ないのには、日本の移植システムにも大きなかかわりがあるという。

力 移植大国でなおかつスポーツ大会に大挙してくるスペイン、フランス、イタリア、オーストリア、スウェーデンなどのヨーロッパ諸国の移植制度は、ノーと言わない限り臓器提供がOKと判断される。一方、日本は移植をしてもいい場合にイエスにマルとつける。考え方が根本的に逆なんです。世界の潮流は逆なんですよ。臓器提供可能と言いつつもイエスと意思表示をしていない人が大多数なんです。腎臓移植を例にとると、日本中には1万2000人くらいの移植者が待機している。平均移植待機期間は15年。…おれだったら死んでるよ。ほとんどの人が移植を希望しても15年待てず、手術できずにバタバタ亡くなっているわけです。

 互いに難病を乗り越え、夫婦で参加した世界移植者スポーツ大会。ふたりは本大会を通して、移植者でも輝けることを証明した。と、同時に「移植」に対する日本と世界との意識の差を痛感させられたという。事実、今の日本の法体制では、臓器提供の意思表示をした人でなければ臓器提供ができない。これでは日本で臓器提供が遅れているのは自明の理である。

恵子 きっと私たちが生きているうちには無理かもしれないけれど、いつかはもっとたくさんの臓器提供者で溢れるような日本になってくれるといい、心からそう思います。

臓器移植の実態と現状

世界と日本の臓器提供者数の差

 腎臓移植は、1979年に「角膜及び腎臓の移植に関する法律」が制定されたのが始まりとされている。1997年に法改正され、脳死下でも臓器提供および移植が可能になり、2010年7月17日に改正臓器移植法が全面施行されると、生前に書面で臓器を提供する意思を表示している場合に加え、本人の臓器提供の意思が不明な場合も、家族の承諾があれば臓器提供できるようになった。また、これにより15才未満の脳死後の臓器提供も可能になった。

 移植までの流れは、まず医師による診断を受け、リンパ球交差試験用に採血を行い、移植候補者(レシピエント)の選定・決定後、移植に至る。レシピエント選択基準は4点あり、ABO式血液型、リンパ球交差試験陰性、1年以内のレシピエントの登録情報の更新、C型肝炎ウイルス抗体の有無の確認が前提条件になっている。

 日本の臓器提供者数の現状として、意思表示カードや健康保険証意思表示欄、運転免許証意思表示欄などへの記載が増えてきてはいるものの、世界と比較するとまだまだ圧倒的に少なく、環境整備に大きな課題を抱えている。脳死下のドナーは法施行後から約20年間で475人。これに対し、アメリカではドナー数が年間8000~9000人で、人口比でみると1位のスペインの50分の1以下である。

 NPO法人日本移植者協議会理事長の下野浩さんは、日本がここまで大差をつけられる大きな要因の1つとして、臓器提供意思表示制度の違いに起因するという。

 臓器提供意思表示には、オプトインとオプトアウトという2つの制度がある。オプトインは、ドイツや日本のように、臓器提供したい場合にその意思表示をする方式。一方、オプトアウトは、フランスやスペインなどで採用されていて、提供したくない場合に意思表示する方式である。どちらも臓器提供意思表示カードにマルをつけるだけというわずかなものだが、提供を承諾している人の割合は、オプトイン方式のドイツは12・0%に対し、オプトアウト方式のフランスは99・9%と大きな違いが生じている。

 もし日本が今以上に移植医療を行いたいと考えるのであれば、相当数いるはずの「臓器提供する意思を持ちながら表明していない人」が、意思表示しやすい環境を作ることが最優先である。

写真提供/若松力

※女性セブン2020年1月1日号

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