「貧乏ゆすり」で健康に!冷え症や骨粗しょう症改善も効果|正しいゆすり方とは
カタカタカタカタ…。無意識に“貧乏ゆすり”をして注意された、そんな経験ありませんか。だが最近、振動が想像以上に体にいいということがわかってきた。話題のゆする健康法とは?
今夏『女性セブン』で特集した『死亡率が上がるモノ・下がるモノ37』で、貧乏ゆすりが死亡率を下げるモノとして登場。
アメリカの大学で、マウスに振動を与え続けると免疫細胞や腸内細菌の構成が健全化されるという実験結果が確認されたことが話題になっている。今、“ゆれ”そして貧乏ゆすりが注目されているのだ。
国立長寿医療研究センター脳機能診断研究室長の中村昭範さんによると、貧乏ゆすりに限らず、座っている時無意識に足を動かしている人はたくさんいるという。
「そもそも長時間じっとしていること自体、血液が鬱滞(うつたい)するので体によくありません。さらに座っていると、重力の影響でどうしても下半身の方に血液がたまってしまう。私たちは、そうした悪循環を解消するため、無意識のうちになんらかの動作をしています。これは人間の生理的な欲求で、人によってはそれが貧乏ゆすりという形で現れていると考えられます」(中村さん)
世間的には無作法といわれてきた貧乏ゆすり。その効能に迫る。
ゆすって筋肉のポンプを動かせ!
●貧乏ゆすりにはふくらはぎの奥の血管をもみほぐす効果がある
中村さんによると、貧乏ゆすりにはふくらはぎの奥の血管をもみほぐす効果があるという。東京学芸大学名誉教授で医学博士の宮崎義憲さんが、力こぶに例えて貧乏ゆすりの仕組みを説明する。
「力こぶを作ると二の腕が盛り上がって断面積が大きくなります。それと同じで、貧乏ゆすりで足を動かすと、筋肉が収縮して筋繊維の断面積が大きくなり、毛細血管を圧迫します。すると毛細血管内の古い血液が静脈へ絞り出されます。反対に、筋肉を弛緩させると、筋繊維の断面積が小さくなり、毛細血管への圧迫がなくなるので新しい血液が動脈から流れ込んできます。こうした作用は牛の乳搾りに似ていることから “ミルキングアクション”と呼ばれています」
要は心臓の働きと同じである。心臓はそれ自体がポンプの役割を担っており、心臓周辺の血管では、心臓の動きによって血液が循環する。
一方、心臓から遠い位置にある筋肉内の毛細血管までは、心臓の力が及ばない。そこで、筋肉がポンプの役割を担うことになる。特に全身を巡った血液を再び心臓へと戻すうえで、その働きは非常に重要だ。
また、ミルキングアクションにより血流が改善されることで、体温が上昇する。それによって、足の冷え症を改善させたり、むくみを解消させたりすることもできる。
中村さんが行った実験では、被験者が5分間貧乏ゆすりを行ったところ、下腿(かたい)(膝から足首までの部分)の皮膚温度が1℃から2℃上昇する傾向が見られた。
また、宮崎さんが行った実験では、被験者が5分間貧乏ゆすりを行ったところ、温度を感知するサーモグラフィーの色が、青や緑から、体温の上昇を示す黄と赤へみるみる変化したという。
どちらの実験によっても、貧乏ゆすりによりふくらはぎの温度が上がったことが確認されている。
血流の改善は、ほかにもよい効果をもたらす。飛行機や新幹線などで同じ体勢のまま過ごすことにより血栓ができる、エコノミークラス症候群の予防である。
万が一血栓が肺に運ばれてしまうと、死を招きかねない重篤な症状におちいることもある。だが、その状況は貧乏ゆすりによって防ぐことができるというわけだ。
車いすに座ってもできるゆすって骨粗しょう症予防
●カルシウム摂取と同時に貧乏ゆすりでリハビリ
歩くことでかかとに衝撃を与えると骨が丈夫になることは知られているが、宮崎さんによると、カルシウム摂取とともに貧乏ゆすりを行うことで、骨粗しょう症予防が期待できるという。
「例えば、階段を上り下りしたり、歩いたりすると、骨に圧刺激がかかります。すると、たわみができて骨膜に膜電位が生じ、血中のカルシウムを取り込みます。カルシウムが含まれている錠剤や食材は、材料でありコンクリートのようなもの。それを骨に取り込むのが“電位”の役割です。貧乏ゆすりをすると、筋肉が骨をこする。そこで起こる摩擦により骨に膜電位が生じ、血中のカルシウムを取り込んでくれるのです」(宮崎さん)
また、疾患の症状にもよるが、貧乏ゆすりは、車いすに座ったまま行うことができるというメリットもある。歩行困難な場合でも、カルシウム摂取と同時に貧乏ゆすりをぜひリハビリとして取り入れてほしい。
ゆするなら湯上りがベスト!
では実際、1日のどのタイミングでどのように貧乏ゆすりをするのが効果的なのだろうか。
「休憩を挟みながら、1秒間に3回動かす貧乏ゆすりを5分間×3セットで充分です。5分続けるのは、実は結構きついもの。1~2分くらいは笑いながらできますが、3分ほどすると顔が真剣になってきます」(宮崎さん)
お風呂や足湯に浸かってからやると、体が温まって毛細血管が拡張しているため、ミルキングアクションがさらに効果的になる。
また、就寝の30分ほど前に行うと、安眠も期待できる。
「歩いたり走ったりした方が、血液循環は促進されます。しかし、全身運動を寝る前にすると覚醒状態になってしまいます。その点、貧乏ゆすり程度の局所的な運動なら、心地よい疲れとともに脳の覚醒水準も下がり、よく眠れるのです」(宮崎さん)
アスリートもやっている!? 貧乏ゆすりが秘める可能性
貧乏ゆすりにはストレスを発散させ、集中力を高める効果もある。
中村さんは時々“貧乏ゆすりの達人”をテレビで見かけるそうで、その定義は“集中すべきことがある時、意識的に貧乏ゆすりをする人”だという。
「“達人”は、スポーツの世界大会の中継などで見かけることがあります。準備の時に貧乏ゆすりをしている彼らは、貧乏ゆすりの利点である集中効果と筋肉をほぐす効果、そのどちらも最大限に利用しているのです」(中村さん)
また、貧乏ゆすりは、整形外科分野においても大きな注目を浴びている。
「足を小刻みに動かす貧乏ゆすりは、医学的に“ジグリング”と呼ばれています。貧乏ゆすりは足を小刻みに動かしますよね。その動きに、変形性股関節症の痛みを緩和させ、股関節の関節軟骨の再生を促す作用があるという研究が発表され、話題になりました」(中村さん)
ちなみにダイエット効果については、中村さん、宮崎さんともに「効果なし」ときっぱり。
「貧乏ゆすり程度の運動量では、カロリーは消費できないため、ダイエットしたいのであれば、最低でもウオーキング以上の運動量が必要です」(中村さん)
減量は期待できないが、その前段階として体調を整えるのにもってこいの貧乏ゆすり。もちろん、ゆする時にはTPOをわきまえて…。
イラスト/勝山英幸
※女性セブン2019年10月10日号
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