正しい靴の選び方|日本人の9割が靴選びを間違っている!
秋物が目につく季節。新しい靴を求めてショッピングを予定している人もいるだろう。しかし、デザインばかりに目を取られていると、肩こりや腰痛、疲労など不調を招く間違った靴を選ぶ可能性大。パンプス、ブーツ、スニーカーの正しい選び方を伝授!
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「おしゃれは足元から」と、秋を前にサンダルをしまってブーツを出した人もいるだろう。心地よい気温に、趣味のランニングを再開したり、新たにランニングシューズの購入を考えている人もいるかもしれない。
有名百貨店の靴売り場も盛り上がっている。8月28日には、東京・伊勢丹新宿店本館の婦人靴フロアが7年ぶりにリフレッシュオープンし、大きな話題となった。注目を集めたのは、約30人のシューカウンセラーによる接客や、3D計測器と3Dプリンターを用いて自分だけのミッドソール(靴底)を制作できるなど、最先端の靴選びを可能にしたことだ。
大阪・阪急うめだ本店の婦人靴フロアでも、昨今のスニーカーブームの影響から、2018年度のスニーカーの売り上げが前年度より32%もアップした。
間違いがちな靴選び
すてきな靴は、いくつになっても足取りを軽くしてくれるもの。お気に入りの靴を履いて、新しい一足を見つけに行きたい―そう胸が高鳴るところだが、一方で、“日本人の9割が靴選びを間違っている”ともいわれている。
「今日も、外反母趾(がいはんぼし)の手術を3人にしてきました」
と語る「足のクリニック 表参道」院長の桑原靖さんは、日本での靴選びの難しさを指摘する。
「靴を履いた時、最も合っていなくてはならないのは“かかと”です。外国ではかかとの小さい靴が主流ですが、日本人はきつい靴を好まない傾向があるため、一般的に流通している靴はかかとが大きい。歩くとパカパカ脱げてしまって、足を固定できない靴がほとんどなのです」
●外反母趾、タコ、浮指、ハンマートゥ…が招く不調
女性の足のトラブルで最も多いとされる外反母趾は、足の裏や甲のアーチがゆがんだことで生じる。そもそも、日本人の7割が、土踏まずが平らになった扁平足ともいわれているが、足の不調に無頓着な日本人は、合わない靴を履き続けて足に過度な負担をかけている。
「合わない靴を履いていると、足が無理に筋肉を使ってタコができたり、浮指や、指が折れ曲がった『ハンマートゥ』になったりする。歩きづらい、疲れやすいといった症状はもちろん、姿勢の悪さや肩こり、腰痛を感じている人の中で、実は原因が足だったということも少なくありません」
人生100年時代を健康に生き抜くためには、自分の足で歩くことが必要不可欠。しかし、足がしっかり体を支えられずに転倒し、骨折した場合、寝たきりになるリスクは格段にアップする。
「足は消耗品です。人によって差はありますが、いずれ壊れる日はきます。ですが、きちんと合った靴を履くことで健康寿命を延ばすことは可能です」(桑原さん)
私たちの健康を支える足を保つため、本当に自分に合う靴の見つけ方を学んでおきたい。
インソールと靴紐が、合わない靴を救う
靴選びのポイントとして、足の形を「エジプト型」「ギリシャ型」「スクエア型」の3つに分類する方法を聞いたことはないだろうか。足指の先端の長さによって、合う靴のつま先の形状が変わるというものだが、足の機能から考えた場合、桑原さんは、この区分けはまったく意味がないと断言する。
「重要なのは骨の長さと並び方、そして全体のバランスです。見た目では短い指が、レントゲンを撮ると、ほかの指より骨が長かったというケースもあります。これはレントゲンを撮らないとわからない。見た目の長さは当てになりません」
●靴が合っているかチェック
では、どのように確かめたらいいだろうか。まずは普段履いている靴を準備し、以下の項目をチェックしてほしい。
□インソール(中敷き)が取り出せない
□編み上げる靴紐がついていない
□靴に足の“クセ”がついている
以上のうち1つでも当てはまれば、それは合わない靴の危険大。
「予約の取れない足指専門家」として著名な「足ゆび養生処」の代表・大久保れいこさんが解説する。
「靴は、大きくても小さくても、履くこと自体は可能です。それゆえ、自分に合わない靴だと気づかないまま履いている人が多い。本当に自分に合っているかどうかは、インソールを取り出して足に当ててみなければ、確かめることはできないのです」
インソールを靴から取り出したら、その上に足をのせる。その時、インソールのカーブに足裏のアーチがしっかりフィットし、すべての指がインソールからはみ出さずにのっていれば合格だ。さらに、足指の先に1~1・5㎝程度の空きが必要となる。
桑原さんも、インソールの重要性を指摘する。
「扁平足はインソールで矯正するしか方法がない。また、子供の巻き爪もインソールを入れると格段に改善します。スポーツ用品店なら5000円くらいで手に入りますし、病状が強い場合は病院で医療として医師の処方に基づき、専門の義肢装具士が作成します」
手持ちの合わない靴もインソールを替えれば無駄にならない可能性もあると思えば、決して高い買い物ではない。
●正しい靴紐の結び方
次に、靴紐の結び方について覚えたい。
「スニーカーで、紐を結びっぱなしのまま脱ぎ履きしたり、上の方の数か所しかゆるめないという人は多いのではないでしょうか。紐は毎回、すべてをゆるめ、かかとがしっかり固定するように締め直すこと。手持ちの靴紐を改善するならば、丸い紐よりも平たい紐の方がゆるむことが少なくなります」(大久保さん)
かかとを踏まないように、スニーカーでも必ず靴べらを使う習慣を身につけたい。紐のないパンプスやヒールは、市販されている専用のゴムベルトで足の甲と靴を固定させるといい。
「大事なのは、足と靴の“一体感”です。足の“クセ”に合わせて靴がゆがんでいたら、間違った靴選びをしているという証明です。足首には足と脚をつなぐ『距骨(きよこつ)』という骨があります。足がグラグラすると、距骨が変形する原因となる。足首がゆがんでいる人は、足の血液を心臓に戻す作用が鈍くなり、むくみや静脈瘤の原因になります」(大久保さん)
くるぶしまでしかない短い靴下も足首の変形を招くためNG。特に冷え症の人は、足首よりも長い5本指ソックスがおすすめだ。
究極の一足、どうやって選ぶか
新しい靴の購入を検討している人は、間違った靴を選ぶと健康もお金も失うことになるので、より一層の注意が必要だ。
究極の一足はどのように選ぶのがいいのか。ポイントは4つある。
【1】若い時のサイズのまま選ばない
足のサイズは年齢とともに変化する。
「加齢によって足の筋肉がゆるむと同時に、足は横にも縦にも大きくなる。若い時と同じサイズだと思ってはいけません」(大久保さん)
桑原さんも、「広がることはあっても、狭くなることはない」と言う。
通販などでサイズだけを頼りに買うのは論外だ。
「靴は必ず試し履きする。その際は、いつものサイズ、ワンサイズ上と下の3パターンを履き比べ、最もかかとがフィットするものを選ぶこと」(大久保さん)
足のサイズが左右で異なる場合は、大きい方に合わせるのが鉄則だ。
【2】パンプスは3cm以下のヒールのあるものを選ぶ
ハイヒールが足に悪いことは、今や常識になってきた。その流れから、指側とかかと側に高低差がないぺたんこのフラットシューズが人気だが、足の健康を考えると、かかと側には適度な高さがあった方がいい。
「車の運転にはぺたんこが適していますが、ぺたんこ靴は足の前方に負担がかかったり、アキレス腱がギュッと伸ばされたり、実は歩きにくい。だからといって、3cm以上のヒールの方が歩きやすいという人は、足の機能が衰えているということ。たまに『スニーカーが苦手』という人がいますが、それは、足首を反らして歩くという基本の歩き方ができていない証拠です」(桑原さん)
パンプスを選ぶ時は「3cm以下」のヒールを試し履きし、履いた状態で体を左右にひねってみる。
「高さが合っていないと、体が緊張して可動域が狭くなります。すると、血行不良や足の疲れの原因に。スムーズに体を動かせれば、足に合っているということです」(大久保さん)
さらにパンプスは、かかとの形状もポイントだ。横から見た時にかかと部分がカーブを描き、上から見た時“V”字になっているものは、かかとを引っかけやすく、パカパカと脱げるのを防げる。気に入ったパンプスを見つけた時は、真横と真上から見ることを忘れずに。
【3】ファスナータイプのブーツはNG
着脱が楽だからと、ファスナーのついたブーツを選びがちな人は多いだろう。ブーツも、理想は紐で結べるものだ。
「脱いだ時、へなっと倒れてしまう柔らかいブーツは、靴の中で足が固定できないのでおすすめできません。靴の中がボアになったムートンブーツも同様です。理想は、フロントに編み上げの紐がついていて、脱いでも倒れないタイプです」(大久保さん)
しっかり歩くには、しっかり自立するブーツが正解だ。
【4】スニーカーはランニング用とファッション用を分ける
最も迷う靴といえば、「スニーカー」だろう。オーソドックスなキャンバス生地の「ローテク」靴や、靴底に空気を入れるなどの技術が施された「ハイテク」靴など、最近はファッションアイテムとして欠かせないものになっている。同じ「スニーカー」でありながら、見た目も機能も実に多種多様に進化しているが、なかにはランニング時にもファッション用のスニーカーを着用している人がいる。
高橋尚子さんや野口みずきさんなど一流アスリートの競技シューズ作りを手掛けてきた靴職人・三村仁司(ひとし)さんの息子で、靴工房「M.Lab(ミムラボ)」の三村修司さんが解説する。
「ファッション用のスニーカーがある程度のゆとりを持って作られているのに対し、ランニング用のシューズは、靴の中で足が遊びすぎないように、かかとと、足のアーチがフィットすることを目的としています。まったく異なるものですから、ファッション用とランニング用は使い分けてください」
ファッション用であれば、今までに挙げた靴選びの注意点を守っていれば、デザインを優先しても大きく失敗することはない。
しかし、ランニングシューズは、プロですら誤った選び方をしてしまうほど難しい。
ランニングシューズを選ぶ時のポイントは、足首の柔らかさだ。柔らかさのチェックは、両足で立った状態からしゃがんで、足裏全体が床につけば柔らかく、かかとがつけられなかったり、お尻がついてしまう人は硬い。
「足首が硬い人は足裏も硬く衝撃に弱いため、衝撃を吸収してくれる厚めの靴底がいい。反対に、足首が柔らかい人は厚底だと不安定で足をひねる恐れがあります。硬めの薄底タイプの方が足がぶれず、疲れにくいでしょう」(三村さん・以下同)
●足首の柔らかさをチェック
●スニーカーが足になじんできたら、買い換えのサイン
意外なことに、愛用のスニーカーが足になじんできたら、それは“買い替えのサイン”だ。
「靴が足の形になってきたということは、靴底のスポンジがへたってきた兆候。その状態が足に合って気持ちいいと感じる人も多いと思いますが、靴が本来持つ機能が失われている合図です。万が一、履いていて足が痛いなどの不調を感じる場合は、迷わず買い替えてください」
進化し続けるランニングシューズだが、一概に最新の商品がいいとは言えないと三村さんが続ける。
「新しいものがいい、古いものが悪いということではなく、『走りたい!』と気持ちを高めてくれる靴を選ぶことが大事。お店では、しっかり店員さんに相談してほしい」
デザインが素敵だから、値段がお手頃だからと気軽に買うのではなく、根気よく試すことが運命の一足に出合える唯一の道。不調知らずの体は、自分に合った靴が運んでくれる。
イラスト/小山ゆうこ
※女性セブン2019年9月19日号
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