中野翠さんが語る“年をとること”|「自分から老けこむこともないんじゃないかな」
コラムニストの中野翠さんが、人生の後輩達に向けて「励ましと気晴らしになるように」と綴った滋味に富むエッセイ集が発売された。中野翠さんに、新著にこめた想いを伺った。
* * *
70歳を過ぎて、年をとることについて整理して考えてみた
副題が「トシヨリ生活の愉しみ」。親しい編集者が定年退職を迎えるにあたり、「これからの人生の励ましになるようなものを」と書き下ろしを依頼されたという。
「還暦の時はピンと来なかったんだけど、70歳を過ぎるとさすがにもうバアサンだな、と(笑い)。成り行き任せに生きてきたので、こういう機会でもないとあまり考えないし、年を取ることについて、ちょっと整理して考えてみようと思いました」
森茉莉と沢村貞子という、対極のような2人が憧れの先輩として挙げられている。森茉莉にも、「美老人ナンバーワン」として名前が挙がる笠智衆にも、中野さんは会って、話を聞いたことがある。
「私はまったく社交的な人間じゃないんですけど、興味のある人に関しては、すごく会いたい、話をしたいと思ってるのが自分でもちょっと不思議です。この人面白いな、この人はなんかダメだな、って、肩書は関係なく、なんだか『犬』みたいに感じ取ってきた。面白いと思う人には影響を受けてきましたね」
年をとっても、今まで通りの生活をして、好きなことを見つければいい
長くフリーランスで仕事をしてきた。強い自己主張はしないが、嫌なことはしない、好きなことだけやるというのは、若いときもいまも、中野さんのやり方だ。
「体のことも含めて、これからは思い通りにならないことももちろん増えていくと思うんですけど、年だからって自分から老けこむこともないんじゃないかな。できる限り、今まで通りの生活をして、好きなことを見つければいい。子供のとき好きだったこととか、必ずあるはずなので」
絵を描いたり、手芸をしたり。地球儀や、高校の歴史教科書を読み直したり、高校時代からの親友とメール句会をしたり。ロボット犬のaiboをかわいがることも、そうした「愉しみ」のひとつだ。
「年を取るって、私にとっては子供に戻る、それも知恵ある子供に戻ることかもしれない」
本の表紙になっているかわいらしい編みぐるみのタコは、装丁を担当した南伸坊さんの母、南タカコさんの作品。綺麗なピンクが空色に映える。空色は中野さんの好きな色で、もし墓に一字入れるなら、「空」がいいそうだ。
中野翠さん一問一答
Q1 最近読んで面白かった本は?
泉麻人『冗談音楽の怪人・三木鶏郎』。よく調べてて、底力を感じた。興味のあるものを細かく調べていくのが好きなんでしょうね。
Q2 新刊が出たら必ず読む作家は?
小説は全然読まなくて…。前はイギリスのユーモア・ミステリーが好きで、ジーヴスものとかをよく読んでました。
Q3 最近気になるニュースは?
テレビがつまらなくなったということ。昔の『オレたちひょうきん族』みたいな、しのぎを削るお笑い番組がなくなりましたね。歌番組もないし。これを見ればチェックできるという番組が作られなくなった。とは言いつつ、ずっと見てるんですけど。
Q4 最近ハマっていることは?
片付けです。ハマってるんじゃなくて必要に迫られてだけど。2年後にマンションの建て替え工事があるので、それまでに何とか整理したくて、どうしようかいろいろ考えてるけど、本の取捨選択って情報量が多くてすごく疲れるので全然はかどってません。
Q5 一番リラックスする時間は?
友達所有の千葉の山荘にいるとき。街でしか生活できないけど、自然がいっぱいあるところで過ごす時間も大切。あと、片付いているのがいいんですよね。
『いくつになっても トシヨリ生活の愉しみ』
文藝春秋 1620円
各章のタイトルは「アッパレな先輩たち」「美老人への道」「おすすめ老人映画」「バアサン・ファッション」「老後の愉しみ」「最後まで一人を愉しむ」‥‥中野さんが来し方を振り返り行く末を見つめる書き下ろしコラムを40本収録。老後にまつわる暗いニュースが世間を覆うが、中野さんの筆は軽やか。〈できるだけ面白く楽しく。心の中の青空を探して行こう〉。本文のイラストも中野さんの筆。中野さんと故・笠智衆さんの2ショットは、中野さんの秘蔵写真で、「家中を探し回って掘り起こしました(笑い)」と。
中野翠さん
1946年埼玉県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業後、出版社勤務などを経て文筆業に。主な著書に『今夜も落語で眠りたい』『小津ごのみ』『いちまき』『あのころ、早稲田で』など。「サンデー毎日」の連載コラムは30年以上、「週刊文春」の映画評は29年続く。
【データ】
『いくつになっても トシヨリ生活の愉しみ』(文藝春秋)
定価:1620円
各章のタイトルは「アッパレな先輩たち」「美老人への道」「おすすめ老人映画」「バアサン・ファッション」「老後の愉しみ」「最後まで一人を愉しむ」‥‥中野さんが来し方を振り返り行く末を見つめる書き下ろしコラムを40本収録。老後にまつわる暗いニュースが世間を覆うが、中野さんの筆は軽やか。〈できるだけ面白く楽しく。心の中の青空を探して行こう〉。本文のイラストも中野さんの筆。中野さんと故・笠智衆さんの2ショットは、中野さんの秘蔵写真で、「家中を探し回って掘り起こしました(笑い)」と。
撮影/藤岡雅樹
●川村元気氏が語る認知症「忘れることもポジティブに捉えるようになった」