長寿世界一の香港 秘訣は、高齢者の「外出好き」「多忙」か
街を歩いて改めて驚くのは、夏の暑さにもかかわらず大勢の高齢者を見かけることだ。
香港で医療コンサルタントを営む堀眞さんは、健康長寿のポイントは「高齢者の外出」だと指摘する。
「昔からの習慣もあり、香港のお年寄りは家の中にこもるより、とにかく外出しようとします。ヨボヨボになっても杖をついて外出し、よちよち歩きでいいから自分の足で歩こうとするんです」
実際、街角では、杖をついたお年寄りが家族やメイドに付き添われながら、自分の足でゆっくり歩く姿をよく見かける。街の人々はそんなシニアを温かく見つめている。
多くの高齢者が外歩きを楽しみたくなる環境づくりも香港の魅力の1つだ。
「狭いけど自然に恵まれる香港は、イギリス領だった影響でハイキングコースが多く整備され、自然のなかで足腰を強化できます。もともと急な坂道が多い地形なので、香港人は幼い頃から足腰を鍛えられています」(堀さん)
以上のように、運動習慣がもたらす恩恵は大きい。あるテレビ番組の調査では、香港の高齢者の血管年齢は7割以上が実年齢より若かった。また過去に70%を超えていた60代以上の高血圧患者は、行政の努力と市民の意識向上で2013年に約37%まで下がっている。
ちなみに60代以上の日本人の高血圧患者は59.8%だ。
やたら忙しい、香港シニア
香港の高齢者が外出を好むことには別の理由もある。
「狭い香港には人口が密集し、近くの公園に行けば誰かしらに会えます。高齢者が外出しても行き場が少ない日本と違い、みんなと会っておしゃべりする場所があり、自然発生的にコミュニティーができます」(堀さん)
湾仔の飲茶レストランで食事していた王秀欄さん(68才・女性)は外出好きなシニアの1人。
「香港は街がコンパクトだから1時間あれば友達に会える。だからいくつになっても外出は欠かさないよ」(王さん)
香港は住宅が極端に狭く、3世代同居が珍しくない。そのため、こんな逸話もある。
「若いカップルが夫婦の営みを送る時間を持てるよう、じいさんばあさんはあえて早起きして外出し、夜は早く寝るという話を聞いたことがありますね(笑い)」(堀さん)
その真偽はさておき、香港のシニアがやたらと忙しいことは確かなようだ。香港の繁華街・旺角の飲食店でお粥を食べていた楊禧さん(85才・男性)もこう語る。
「香港のお年寄りは毎日、太極拳や体操、飲茶などの予定を入れて忙しくしている。書道や語学などの習い事も多い。行政が高齢者の健康を推進するので、余暇活動の場が多いんです」(楊さん)
年金制度のない香港では、みんな死ぬまで働こうとする
余暇が多いばかりでなく、働く高齢者が多いことも香港と日本の大きな違いだ。堀さんは、日本のような年金制度が確立されていない影響だと指摘する。
「香港には65才で一括返済される『強制積立金制度(MPF)』があるだけで、永続的に生活が保障される年金制度はない。だからみんな死ぬまで働こうとする」
堀さんは朝、通勤バスに乗ると、70才くらいのお年寄りが出勤する姿をよく見かける。体が動く限り、働いてお金を稼ごうとする人たちだ。
「香港は慢性的に人手不足で、レストランの皿洗いなどのブルーカラー的な仕事は高齢者でも求人があり、月給1万香港ドル(約15万円)以上稼ぐことができます。体力のあるシニアは多くの求人から自分に合った仕事を選べます」(堀さん)
いくつになっても活動的な香港人は、「老護院」と呼ばれる老人ホームにもギリギリまで入居しない。
「民間の老護院は高額で、公営なら何年も待つことは日本と同じですが、香港は身の回りの世話をするメイドが安くて月4000香港ドル(約6万円)ほどで雇えるため、ある程度余裕がある老人は施設に入る必要がなく、医療的な介護が必要になるまで自宅で過ごせます。また親を大切にする文化で、“家族で支えよう”という意識も強い」(堀さん)
空気を読まない香港時はノーストレス!?
日常のストレス発散も日本の場合とは違うという。
「香港は競争社会だから仕事のストレスはあるよ。でも、日本人は家に帰っても仕事のことを考えるかもしれないけど、香港人は退社したらすっかり忘れるから、ストレスが尾を引かないね」(前出・王さん)
10年以上香港に滞在する日本人女性(52才)は、「香港人は我慢しない」と力説する。
「香港人は、日本人のように“空気”を読んで不満を溜めることはなく、嫌なことは嫌だとはっきり言うし、職場に不満があればすぐ転職する。家族を大切にするので、日本人のように仕事のために家庭を犠牲にはしません」
そんな香港人気質は、現地取材時にも存分に感じられた。
取材時、香港は巨大台風『ハト』に見舞われ、飛行機や公共交通機関は軒並みダウンし、官庁や企業は臨時休業。同時に、香港中の商店や百貨店はどこもかしこも閉店となった。日本では考えられない光景であり、香港スタイルを肌で感じた。
※女性セブン2017年9月14日号
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