【世界の介護】多様な国籍の入居者に対応するデンマークの老人ホーム
国連の『世界幸福度報告書2017』によると、デンマークは、幸福度が世界で第2位。2016年度では1位という国である。九州と同じくらいの国土面積の中で、約550万人が暮らしている。収入の半分以上を25%の消費税と、約46%の所得税として取られる代わりに、出産費、医療費、大学卒業までの教育費、介護費は基本的に無料。そのため、国民は「何かあれば国に頼ることができる」という意識があるという。
欧米諸国の高齢者施設を取材してきた、ジャーナリストで社会福祉士の資格を持つ殿井悠子さんが、各国でユニークな取り組みをしている高齢者施設を紹介するシリーズ。今回はデンマークの“多文化対応型老人ホーム”から、日本のシニアライフの未来を考える。
利用者の希望を優先的に考える
日照時間が少なく寒さが厳しい北欧の冬。そのためデンマーク人にとって、春と夏は特別な季節だ。6月になると、首都・コペンハーゲンでは、午後9時を過ぎるころにようやく夕焼けが訪れ、陽が沈む。
待ち望んだ夏を堪能する盛大なイベントのひとつに、ミッドサマーのお祭り(夏至祭り)がある。私が市営老人ホーム「ペダー・リュッケ・センター」を訪れたのは、ちょうど夏至祭りの日。カフェテリアの中庭から、チキンやソーセージ、スペアリブを焼く香ばしい匂いが漂ってきた。センター長のメッテ・オルセンさんが、両手を広げてにこやかに迎えてくれた。
「ようこそ、マイホームへ! 今日は特別な日。入居者とその家族だけのアットホームなパーティーです。いつもはここへ、タクシーの運転手さんもランチにやって来るのよ」
この日のパーティーメニューは、バーベキュー料理とトマトとオリーブのマリネ、サーモンチーズ、ポテトサラダなど。パンは自家製。食材の77%がオーガニックである。毎日10人のスタッフで200人分の食事を作っているそうだ。
ペダー・リュッケ・センターは1970年に設立された。以来、市の老人ホーム人気投票では必ず上位に入る施設だった。2013年の秋にはデンマーク初の“多文化対応型老人ホーム”として生まれ変わった。