【世界の介護】多様な国籍の入居者に対応するデンマークの老人ホーム
多文化対応型老人ホームとは、様々な国籍の入居者やスタッフを受け入れている施設のこと。
その根底にあるのは、ノーマライゼーションの考え方だ。ノーマライゼーションは「障害者などが健常者と変わらず、ノーマルな生活ができ、権利が保障される」という理念で、社会福祉の基本原理として日本でも知られている。
そもそもはデンマークで生まれた言葉で、誰にとっても「当たり前のことを当たり前に」実現できる社会環境を整備することを、うたっている。
オルセンさんが説明してくれた。
「ギリシャ、フランス、ロシア、イラク、ベトナム、タイ…、現在10か国の入居者と22か国のスタッフが働いています。残念ながら、日本人はまだいません(笑い)」
各国の衣装を身にまとった人たちが集まった様子は、まるでワールドスクエア。ここが“施設”だということを忘れてしまいそうだ。しかし、多国籍になるほど食事や宗教、価値観が異なるため複雑な対応が必要になるはず。その辺りはどうしているのだろうか。
「デンマークでは、『自分で決めた』ことが何より優先されます。当施設のポリシーも『その人のやりたいことを、人生の最期まで全うできるようにサポートする』こと。だから様々な国の人がそれぞれの生活スタイルを持っているにも関わらず、職員は混乱することなく介護ができるのです」
たとえば、身体に悪くても、缶ビールを毎日1缶飲みたいと言えば、それに応えることが優先されるとのこと。何をすることが良い人生で何が悪い人生か? それは個人によって様々で、他の誰にも決めることはできないというのが“デンマーク流”だ。
「最近では、ラマダンや中国の正月などのイベントも始めましたし、信仰ごとに祈りの部屋を別々に用意しています。今後希望があれば、それぞれの食文化に合わせた特別食をつくる予定です。各国の文化については、コペンハーゲン大学と共同研究を行っています」
また、この施設には制服や名札がない。そして利用者と必ず「目を合わせて会話をする」ことが徹底されている。文化の異なる人たちとボーダレスに接するための工夫なのだろう。