【世界の介護】多様な国籍の入居者に対応するデンマークの老人ホーム
市民大学ではパソコン教室が一番人気。その理由は、デンマークでは国をあげてハイテク化を推進しているからだ。カルテや公式文書の電子化を進めているほか、電動車イスは日本では信じられないほど高速で走る。こうした技術化の流れについていこうとする高齢者が、パソコンを勉強しに集まってくるのだ。
ハイテクは介護する人たちにも関係が深い。スタッフの教育ルームには、病状を再現できる機能を持たせた人形がある。喘息のプログラムを作動させると、息の仕方が変わったことには驚かされた。
働けど働けど収入は税金で取られていく代わりに、学びたいときや病気になったときは、国が万全のサポートをしてくれるデンマーク。国民の覚悟が背景にあってこそ実現した、フェアな社会といえる。
ではデンマークは多文化に寛容かというと、永住権の取得や居住許可の法案改定などにより、「移民に冷たい」という声もある。しかし、各国の時間や文化が無理なく溶け込んだペダー・リュッケ・センターは、しっかりと機能しており評価も高い。それはデンマーク国民の本来の気質である、ノーマライゼーションの精神が支えているからだ。
日本も今後、移民政策が進めば外国人の介護職員が一般化することになるだろう。最近のコンビニエンスストアでは、ラテン系や中国系のスタッフで固めた店舗が増え、各国の人と自然に触れ合う機会は多くなった。しかし介護や医療となると、コミュニケーションやホスピタリティの面で不安視する人もいる。ノーマライゼーションの理念に基づいたペダー・リュッケ・センターの運営方法は、これからの我が国における高齢者施設のヒントとなるかもしれない。
※為替レートは2017年6月25日現在
撮影/滝川一真 取材・文/殿井悠子
取材協力/オリックス・リビング株式会社
殿井悠子(とのい・ちかこ)
ディレクター&ライター。奈良女子大学大学院人間文化研究科博士前期課程修了。社会福祉士の資格を持つ。有料老人ホームでケースワーカーを勤めた後、編集プロダクションへ。2007年よりイギリス、フランス、ハワイ、アメリカ西海岸、オーストラリア、ドイツ、オランダ、デンマーク、スウェーデンの高齢者施設を取材。季刊広報誌『美空』(オリックス・リビング)にて、海外施設の紹介記事を連載中。2016年、編集プロダクション『noi』 (http://noi.co.jp/)を設立。同年、編集・ライティングを担当した『龍岡会の考える 介護のあたりまえ』(建築画報社)が、年鑑『Graphic Design in Japan 2017』に入選。2017年6月、東京大学高齢社会研究機構の全体会で「ヨーロッパに見るユニークな介護施設を語る」をテーマに講演。
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