超高齢化社会の「生涯現役」を考える シニアのやる気と家族の葛藤
自民党の小泉進次郎農林部会長(36才)ら若手議員が、2020年以降の社会保障改革のあり方について、65才以上を高齢者とする考え方を見直し、「定年は廃止すべき」「生産年齢人口は18~74才がフィット」などと提言している。超高齢社会のなかで年金や福祉などの問題が深刻化していることと決して無関係ではない“生涯現役政策”。「死ぬまで働けということか」と拒否感を示す人も少なくない。
定年後も「引き続き働きたい人」は約83%
しかしこんなデータがある。厚生労働省の調査によると、過去1年の定年到達者約35.2万人のうち、継続雇用を希望し実際雇用された人は全体の82.9%となっており、5 人に4人が、「引き続き働きたい」という意向を示している。
生涯現役であることは確かに誇らしい。しかしそれは時に家族の肩に重くのしかかる現実ともなる。菅井佳子さん(仮名・45才)は、19年前に商社マンとして定年を迎えた父親(79才)との間に葛藤を抱えている。
「仕事がすべてだった父は、定年後、趣味もなければ、近所づきあいもなく、スケジュール帳は真っ白。65才の時でした。新聞の折り込みチラシで宅配弁当の配達員アルバイトの募集広告が目にとまって、そのまま働くことになったんです。どんどん新規開拓を進めた結果、年下の同僚からは頼られ、会社からもその仕事ぶりが認められて、社員昇格をすすめられたりするなど、退職後も結局は仕事が父の生きがいでした」
それから14年経った今年に入って、菅井さんの父親は脳梗塞で倒れ、約2か月入院することになった。
「幸い麻痺などの後遺症もなかったんですが、体力はずいぶん落ちました。さらに、MRIで脳の萎縮がかなり見受けられたんです。実は倒れる前日までアルバイトをしていたのですが、主治医は、こんな状態でよくやっていた、と驚いていたくらいです…。それで、これ以上運転は危険だということになったんですが、父は『おれは大丈夫だ。現に倒れる前までちゃんと運転できていたじゃないか』と激高し、あげくには『そんなこと言う医者は、ヤブ医者だ』とまで言う始末」
退院したら職場復帰しそうな勢いを心配し、菅井さんは家族で相談して、父親の車を売却した。
「最初は怒り心頭でしたが、それからはずっと落ち込みっぱなしです。退院後はただソファに座って、テレビを見るだけの日々。さすがに『何か、趣味でも見つけたら』と言ったら、もうびっくりするくらい怒られました」
菅井さんはそのとき父親に言われた言葉にハッとさせられたという。
「趣味は社会貢献していないだろう。でも仕事は社会の役に立っていると感じられるんだ。高齢者だって、社会の一員であり、自分がいないと困ると思ってくれる場所が家以外にあることが、どれほどうれしいことか。現役の人にはわからないだろうな」
年齢にかかわらず活躍できる環境づくりが必要
シニアの人材派遣を行っている『株式会社高齢社』の代表取締役・緒形憲さん(67才)は、「シニアは元気だから働くのではなく、働くから元気なんです」と言う。
「人間はいろんなことで喜びを感じ、満足しますが、私は、誰かの役に立てるとか、誰かに喜ばれたというのが、人間のいちばんの喜びだと思っています。またそういった満足感があると、免疫力が高まるともいわれていますが、まさにそのとおりですよ。私の母は91才でひとり暮らしですが、和裁、洋裁、生け花の教師を、週2日でやっているんです。でも夏と冬は休むといった無理のないペースでやっていますよ」
それゆえ国が掲げる「一億総活躍」を実現していくためには、家族に頼りきりではいけない。家族だけに負担がかかる、家族だけの責任になる、のではなく、各自治体や国も含めて、年齢にかかわらず誰もが活躍できる環境づくりをしていかなければいけないのだ。
※女性セブン2017年5月4日号