認知症予防のエンタメ!「若返りリトミック」人気の秘密
「人間は年齢とともに高い声を出しにくくなるので、歌いやすい低い音域にアレンジしています。でも、声も使わないとどんどん出なくなってしまうので、低い音から徐々に高い音に移っていって、最後のほうは高い声にもチャレンジしてもらうようにしています」(松島さん)
ちなみに歌詞幕は、元小学校教師の濱田さんのお手製だ。真ん中に綴じ目があり、左側をめくると本のように2番の歌詞が出てくるように工夫されている。文字は大きく、漢字にはふり仮名もつき、行間も空いているので遠くからでも読みやすい。
「香り」「視覚」などでも心身を刺激
濱田さんは、たくさんの歌詞幕とともに、さまざまな小物も準備している。富士山の写真をボードに数枚貼り出して、こんなトークをする。
「これは私が撮った三島からの富士。こっちは松ちゃんが箱根のロープウェイから撮ってきた写真。じゃあこっちはどこから見た富士山でしょう? ヒントは東京のどこかです…」
視覚に訴える以外にも『りんごの唄』を歌うときには、本物のリンゴを持ち込んで香りを感じてもらうなど、さまざまな感覚を刺激するような取り組みも行っている。
曲と曲の合間には、必ず会話する時間を挟む。一方的に説明するのではなく、「ここ、行ったことあります?」「次の歌は何でしょう?」とクイズを出したり、「この歌詞の中で、秋を感じるところはどこですか?」「人気ナンバーワンの爆食いバスツアーでは何を食べると思いますか?」と質問して、参加者から言葉を引き出したりもする。こうしたコミュニケーションを通じて、参加者は脳に心地よい刺激を受けるのだ。
「頭の若返り」では、簡単にできることだけではなく難しいことにもチャレンジして、ドキドキさせることも心身への刺激になるという。例えば、左右の手をバラバラに動かしたり、歌の途中で動きをパッと切り替えたりするといった活動だ。
「動きも音楽も、あまり難しいとやってみようと思っていただけなくなるので、しっかりと身体を動かして欲しいときは、口ずさめるようなよく知っている曲や、リズムの取りやすい曲を使うなど考慮するのも大事な要素の一つです」(濱田さん)
楽曲の選び方にも、繊細なバランス感覚が求められる。高齢者といっても、65歳以上から100歳超までと実に幅広いく、認知機能や身体能力にも当然ばらつきがある。
「私たちが定期的に通っている高齢者施設で以前、比較的若い方から『昴』(1980年/谷村新司)を歌いたいというリクエストがありました。次のときにそれを採用したら、ほとんどの方は楽しんでいましたが、かなり高齢の世代では『そんな歌知らないわ』と、つまらなそうにされていました。『時の流れに身を任せ』(1986年/テレサ・テン)も70代、80代なら歌えますが、それ以上になると知らない方が増えてきます。
では、単純に世代ごとで分けたらいいのかというと、そうでもないんです。ある施設では100歳を超えた方が、ドイツ語で『ローレライ』を歌ってくださったことがありました。年齢を重ねた方はそれだけ人生経験が豊富で、私たちの想像を超えたものを持っています。『何歳だから』という一言で、まとめて考えてはいけないんです」(濱田さん)
まさに「人生いろいろ」な人たちが一緒になって歌い、体を動かし、笑い合う若返りリトミック。その手法には世代や環境を超えて、人と人とが生き生きと心を通わせるための鍵が隠されているのかもしれない。
撮影/政川慎治 取材・文/市原淳子
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