認知症ケア「ユマニチュード」|在宅介護で実践できる 5つのステップ
ステップ3「知覚の連結」
ケアの合意が得られたら、いよいよ実際の介護を行います。
ケアをしているときに「一生懸命話しかけている」「優しく触れている」「常に笑顔でいる」などを心がけているのに、ケアの途中から拒否の言動が始まってしまうことがあります。これは、ユマニチュードの基本の柱「見る」「話す」「触れる」(詳しくは、このシリーズの<第2回>をお読みください)を単独で使っているときに起こりがちなこと。「見るだけ」「話しかけるだけ」「触れるだけ」では、どんなに丁寧なケアをしても、「あなたを大切に思っている」という気持ちは伝わりません。ユマニチュードのケアの特徴は「マルチモーダル」であること、つまり、「見ながら、話しながら、触れる」という同時性が重要なのです。
食事のシーンで「美味しいですね」と言いながら、相手の顔を一切見ない。笑顔だけれど「この料理、少し冷めていますね」などと批判する。「美味しい」と言いながら、食器や食材を乱暴に扱う…。これでは「美味しい料理をいただけて幸せです」という思いを伝えることにはなりません。マナーを守った食事の仕方、笑顔、美味しいという言葉。その3つが揃って、相手に喜びや感謝を伝えることができるのです。
ケアをする場面でも同様です。視覚、聴覚、触覚のうち、最低でも2つ以上の感覚に同時に働きかけるようにしなければ、相手にこちらの気持ちを伝えることはできません。
例えば「着替えましょうね」と優しく言葉をかけても、手首をギュッとつかんでしまうと、せっかくのポジティブな言葉かけによる聴覚刺激が、「つかむ」というネガティブな触覚によって「不快」「不安」「恐怖」の気持ちへと変換され、ケアを拒否するようになってしまいます。また、どんなに笑顔でケアをしていても、
「動かないで、って言ってるのに」
「あ~、また洗濯物が増えた!」
といった言葉を発信してしまえば、もし言葉を理解できなくなっている相手であったとしても、そのネガティブな思いが伝わり、ケアを受けている人は心を閉ざすようになる、あるいはケアしてくれる人に対して否定的な感情を持つようになってしまいます。
つまり、優しく穏やかなケアをすることを目標にするのであれば、相手の五感すべてに対して、優しく穏やかな感覚が届くようにする必要があるのです。
認知機能の低下している人にとっては、五感から入る情報にひとつでもネガティブなものが含まれると、受け取っているメッセージに矛盾が生じます。私たちは自分が常に「言葉による、そして言葉によらないメッセージを常に発している」ことと、そのメッセージが矛盾したものでないことに留意することが、このステップ「知覚の連結」で最も重要なことなのです。
なかには、認知機能の低下が大きく、「見る」「話す」「触れる」を2つ以上、同時に行っても反応がない方もいます。ケアしている人からすれば、何を言っても、どんなに笑顔でも「伝わっていない」「やっても無駄」と思われるかもしれません。しかしそれはケアする側の勝手な決めつけに過ぎません。
反応がなくても、ケアをする際には、これから行うケアを言葉に出し、ニコニコしてみてください。「これから背中を拭きますね」「温かいタオルが触れますよ」「気持ちいいですか?」といった言葉かけを、笑顔で発していくことだけで「大切にされている」「人と人の関わりである」ということを感じてくれるものなのです。言葉による反応がなくても、筋肉の緊張がほぐれたり、ゆっくり呼吸をするようになるなど、ケアを受けている方からのメッセージも、実は沢山私たちに向けられているのです。このメッセージを鋭敏に受け取れるようになることが、ユマニチュードのケアのゴールのひとつです。
◆「知覚の連結」のまとめ
・「見る」「話す」「触れる」を同時に2つ以上行う
・五感で伝わることは、すべてをポジティブで同じ意味を持つものにする
【ステップ4「感情の固定」へ進む】