認知症ケア「ユマニチュード」|在宅介護で実践できる 5つのステップ
ステップ2「ケアの準備」
次のステップは「あなたに会いに来た」というメッセージを伝える「ケアの準備」です。
「ケアをしに来た」と伝えるものではなく、あくまでも「あなたに会えて嬉しい」という気持ちを相手に伝えるものでなくてはなりません。
知人宅を訪問した話を思い返してください。玄関で顔を会わせるなり、「カニを食べにきました」と言われたらとしたら、招いた側はむっとするでしょう。まずは招いてくれたことへの謝辞を述べ、訪問できたこと、そしてあなたに会えたことへの喜びを表現することで、お互い良い時間を共有しながら食卓につきます。
つまり、この段階では「おむつを替えに来ました」「体を拭きましょう」「食事を持ってきました」といった「ケアの内容」を説明してはいけないのです。
このケアに入る前の準備にかける時間は20秒から3分です。わずかな時間ですが、ケアを受ける方と良い関係を結ぶための最も重要な要素です。この「ケアの準備」の時間をとることで、ケアを受ける人の攻撃的な行動が70%も減り、ケアに対して協力的になってくれることが知られています。
ケアを受ける人のいる部屋に入ったら、正面から近づいていき、目と目を合わせます。この時に重要なことは、これまで述べてきたユマニチュードの基本の柱(見る、話す、触れる、立つことを援助する)です。もし、介護する人の存在に気づいていないようであれば、なるべく遠い位置から相手の視野に入るような場所に移動し、そこから近づいていくようにします。
視線は相手との目の高さを合わせて、できるだけ水平に。そして、目が合ったら2秒以内に話しかけてください。無言で見つめると、相手に「自分が攻撃されている」と感じさせてしまいます。表情を増幅させることも大切です。認知の機能が低下すると、相手の表情を読み取ることが難しくなり、わずかな微笑みでは相手に伝わりません。ちょっとやりすぎかな、と思うくらいの笑顔をつくり、「おはようございます」「お母さん、今日も良い笑顔ですね」など、ケアの内容には触れず話しかけます。大きすぎる声は、威圧的なメッセージとなる可能性もあるため、低めの落ち着いたトーンで話します。
そして、話しかけている間はずっと目を見続けます。介護される人が目線をはずすようなら、その視線を捉えるために自分が移動します。相手との適切な距離は、その方の認知の機能に応じて異なります。私たちにとっては「近すぎる」と思う距離でも、相手がのけぞらなければ、それは適切な距離と考えてよいです。話をしながら、肩や腕、背中など、敏感ではない部分に、広く、やや重みをかけてやさしく触れます。
それから、実際に行ないたいケアについての導入を始めます。ここでも、具体的なケアの名前(たとえば、お風呂、着替え、食事)を言うのではなく、「さっぱりしましょう」「汗をかきましたね」「のどがかわきましたね。お茶でもしましょうか」など別の表現をしながら、同意を得る工夫をします。
もし、ここで手を振り払う、顔をそむける、嫌だという意味の発言をするなど、拒絶の言動が見られたときは、別の表現を使いながら誘うなど、3分間は同意を得る工夫をしてみてください。
でも、3分以内に同意が得られなければ、一旦あきらめてその場を立ち去るようにしましょう。
合意の得られていないケアは強制であり、ケアされる人には恐怖と不安しか残りません。「あきらめる」ことは、相手に「自分の要望を受け入れてくれる人だ」という記憶を残すための技術です。その際には、ステップ5である、「30分後にまた会いに来ますね」というような「再会の約束」を行い、しばらく時間をあけて再チャレンジするようにしてください。
◆「ケアの準備」のまとめ
・正面から近づく
・視線をとらえ、目線をはずさない
・無言は厳禁。目が合ったら2秒以内に話しかける
・すぐにケアの話はしない
・触るのは肩、腕、背中。顔や手にはいきなり触れない
・3分間以内に合意が得られなければ、いったんあきらめる
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