口、舌を鍛えるトレーニング法 命を繋ぐ「口腔ケア」<第3回>
後出し口ジャンケンで顔の筋トレ&脳トレ
楽しみながらできるトレーニングをもうひとつお伝えしておきましょう。高齢者同士でも、高齢者の方と介助者の方でも行うことのできる「後出し口ジャンケンゲーム」です。
顔でジャンケンをするので、まず、グー、チョキ、パーの顔を覚えてください。
「グー」口をしっかり閉じてすぼめます。
「チョキ」唇を左右におもいっきり広げます。
「パー」大きく口を開けます。
ジャンケンは後出し方式です。先攻後攻を決めて、「ジャンケン」と声をかけたたら、まず先攻の方がグー、チョキ、パー3つのうちいずれかの顔をします。それを見た後攻の方が、勝つことのできる顔をします。
「グー」の表情は、食べこぼし予防や飲み込みをよくするための筋力トレーニング、「チョキ」は唾液の分泌を促し、鼻呼吸をしやすくします。「パー」は話す、笑うなどに必要な表情筋を刺激します。後出しジャンケンですから、脳の活性化にもつながります。ぜひ、楽しみながらチャレンジしてみてください。私の経験では、このトレーニングを行ったあとは、高齢者の方がみなさん笑顔になってくれます。
アンチエイジングにも効果的な唾液腺マッサージ
唾液を出すためには、唾液腺を刺激することも大切です。
大きな唾液腺は3箇所あります。耳の前の少し下にある耳下腺、顎先の真下にある舌下腺、そのふたつを顎の骨に沿ってつないだ真ん中あたりにある顎下腺。健康な方であれば、これらの場所を指で押して刺激すると、口の中に唾液が溢れてくるはずです。しかし、唾液腺の機能が衰えてくると、唾液が溢れるようには出てこなくなるのです。
そこで、唾液腺をマッサージして、動きを活性化してあげましょう。以下のマッサージを1日に数回行ってください。食前1〜2分前に行うと、唾液がたくさん分泌され、飲み込みやすく食事が美味しくいただけます。
唾液腺のマッサージは、二重あご防止や、皮膚のたるみ予防にも効果があると言われています。介助者の方も一緒にやってみると、嬉しい結果が待っているかもしれません。
耳下腺:手のひらを耳の前に当て、親指を耳に引っ掛けます。手のひらで頬をグーッと10回押します。
顎下腺:耳の前辺りから顎先までで、あごの骨の裏側の柔らかい部分を左右各5箇所、親指で軽く指圧します。1箇所10回を目安に。
舌下腺:顎の真下を親指で10回真上に押し上げます。舌が持ち上がるくらい、グーッと力を入れるのがポイントです。
口の中の唾液腺:口内にある唾液腺を刺激するために、舌先をさまざまな方向に動かします。内側から頬を押してみるのもいいでしょう。1回10秒を目安に。
「飲み込む」「話す」「笑う」といった日常生活の動作を一生続けていくためにも、口周囲や口腔内のトレーニングは高齢の方にとっては体のリハビリ以上に大切なことです。「まだ大丈夫」と安心せずに、今日から口腔のトレーニングを取り入れていきましょう。
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二島弘枝(にしまひろえ)さん/フリーランスの歯科衛生士・ケアマネジャー。訪問による歯科衛生士を続ける中で、生活・介護の現場を知った上で訪問するべきではないかと強く感じ、ケアマネジャーの資格を習得。ケアプランの作成や、介護をとりまく専門家の連携や調整を行うケアマネジャーとして5年間の経験を積んだ。その後は、歯科衛生士やケアマネジャー、看護師、介護士への講演やセミナーの講師を務めながら、現場第一主義の思いは変わらず、訪問歯科衛生士としての活動を大切にしている。
イラスト/中島慶子 取材・文/鹿住真弓
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