《「イデオロギーに染まる」のはやってはいけない?》世界的なベストセラー作家が指南する「必要不可欠な幻想」と「不必要な幻想」の違いとは
たとえば、「あの世」の存在や、わたしたちは誰もが何かしらの「犠牲者」だ、という主張をどうすれば反証できるというのだろう? そんなことは不可能だ!
わたしがかつて、ある宗教の女性信者に、現実離れした教義について意見を求めたときに、彼女はこう答えた。
「まさにそれが現実と信念の違いです。現実は検証できます。それに対して信念は信じることが必要です。だから信念なのです。そうでなければ信念とは呼ばないでしょう」
典型的な循環論法だ。無意味であると同時に、反駁も不可能だ。
イデオロギーはウイルスのように振る舞う。じゅうぶんに理性的な予防接種をしていないと、一度感染したらこの伝染病はほぼ手に負えない。
哲学者のダニエル・デネットの言葉を借りれば、「自分の人生を幻想に捧げたことを、礼儀正しく人々に伝える方法など存在しない」。
必要不可欠な「幻想」が存在する
すべての「幻想」が悪いわけではない。人間が平和に共同生活を送るために「不可欠な幻想」さえある。
たとえば、「お金」は虚構だ。わたしたちみなが信じたときだけ、お金はその機能を果たすことができる。銀行のデータセンターで管理されている1と0の数字の本来の性質がさらけ出されたその瞬間に、お金は価値を失う。
同じことが「財産」にも当てはまる。自然にはそのようなものがまったく存在しない。
「企業」「国家」「世界秩序」についても同じことがいえる。すべてはまったく抽象的な概念だ。
あるいは「人権」。本当に、一人ひとりの人間に同じ「価値」があるのだろうか?
「尊厳」とはどんなものか? どこにあるのだろう? ヒトラーは、ブルキナファソで大学を設立したわたしの友人と同じ尊厳をもっていたのだろうか? それはない!
人間の尊厳の存在を信じるとしても、それはいつ生まれるのだろう? 誕生した瞬間? 身ごもったとき? それとも、その間のどこかで?
それでも、「人間の尊厳」はわたしたちが守り続けなければならない役立つ虚構だ。
つまり、わたしたちが信じる多くの物事は「虚構」だが、それでも「有益」だ。
それならば、わたしたちが幸せになるなら、カルトに入信してもいいのではないだろうか? 妄信することが、日常の問題を解消するのに役立つこともあるのだから。
「真実」を語ることが許されるか?
「役に立つ考え」と「役に立たない考え」を区別するためのアドバイス。
すべてのイデオロギー、宗教、それに虚構を、頭の中で合理性と風刺の2つの「酸の浴槽」に順番に浸し、表面を剥がして「中身」をよく観察してみよう。
そして、自問自答する。イデオロギーの集団のなかで、真実を語ることが許されるか? 彼らに関するジョークは許されるか? ユーモアが通じるか?
これらのことが許されないのであれば、その集団からは手を引くこと。
ほかのことは、「受け入れること」と「受け入れないこと」を意識して判断しよう。
それにより、神や人権や共産主義を、これからも心から信じていたいと思ったとしても、もはや完全には信じられなくなるだろう。
有益な幻想を白日の下にさらけ出し、このように見極めてから受け入れる。これが啓蒙主義の魅力である。
著者情報
ロルフ・ドベリ(Rolf Dobelli)さん
作家、実業家。1966年、スイス生まれ。ザンクトガレン大学卒業。スイス航空の子会社数社にて最高財務責任者、最高経営責任者を歴任の後、ビジネス書籍の要約を提供するオンライン・ライブラリー「getAbstract」を設立。香港、オーストラリア、イギリスおよび、長期にわたりアメリカに滞在。科学、芸術、経済における指導的立場にある人々のためのコミュニティ「WORLD.MINDS」を創設、理事を務める。35歳から執筆活動を始め、ドイツやスイスなどの世界の有力新聞、雑誌に寄稿。著書は40以上の言語に翻訳出版され、累計発行部数は400万部を超える。著書に『Think clearly 最新の学術研究から導いた、よりよい人生を送るための思考法』『Think Smart 間違った思い込みを避けて、賢く生き抜くための思考法』『Think right 誤った先入観を捨て、よりよい選択をするための思考法』『News Diet 情報があふれる世界でよりよく生きる方法』(すべてサンマーク出版)など。スイス、ベルン在住。
中村智子さん
ドイツ語翻訳者。神奈川県生まれ。主な訳書に、ロルフ・ドベリ著『Think right 誤った先入観を捨て、よりよい選択をするための思考法』、ピエール・フランク著『宇宙に上手にお願いする法』(ともにサンマーク出版)、ファービエンヌ・マイヤー、ジビュレ・ヴルフ著『どうやって美術品を守る? 保存修復の世界をのぞいてみよう』(創元社)などがある。
