自宅で親を看取るために必要なサービス・費用・もらえるお金や制度を専門家が徹底解説「給付制度もフル活用して」
費用面では、訪問看護は医療保険と介護保険が両方使えることも特徴だ。
「要介護認定があれば原則は介護保険を使いますが、医療的な管理が必要な状態になると医療保険を使うケースもあります。どちらの保険を使うかで自己負担額は変わります」(黒田さん)
自宅で看取りをするうえで最も大切とめぐみ在宅クリニック院長の小澤竹俊さんが主張するのが訪問介護だ。
ヘルパーが自宅を訪問して食事や入浴などの身体介護や掃除、洗濯などの生活援助を行う。介護保険のサービスを利用できるのは65才以上(第一号被保険者)で「要介護認定」を受けた人、あるいは40~64才で16の特定疾病に該当する人。要介護認定度に応じてサービスを利用する際の支給限度額が異なり、最も重い要介護5で自己負担1割の場合、月額の支給限度基準額の自己負担額上限は3万6217円になる。親を自宅で看取る場合は、こうした公的サービスをなるべく早い段階から使うことが肝になる。
「自分たちでできるところまでやると決めて訪問看護や訪問介護を使っていなかった人ほど、親の死期が近づくと“介護疲れ”の末に病院に入れようとします。なるべく容体が安定している段階から公的サービスを使って環境を整えた方が、家で看取れる可能性が高くなります」(山中さん)
実際に看取りにかかるお金の総額は、「公的サービス+α」になる。
「医療費、介護保険の自己負担に、自宅を改修する費用や薬代などの費用が積み上がります。保険外診療や介護保険の限度額を超えるサービスを利用した場合も追加の費用が必要です。
実際にかかる費用はケースバイケースで、月60万円の人もいれば、公的サービスの上限に収まる人もいます」(黒田さん・以下同)
年金のみで暮らして住民税がかからない、要介護4の75才のケースでは、高額療養費制度を使うと医療費の上限が月1万5000円で、介護保険の月の限度額は3万938円になる。合わせて約4万6000円に「+α」を加えた額が月額の費用となる。
看取りに際しては民間の保険を活用することもできるが、注意したい点がある。
「民間の介護保険は一定の要介護度で支払われることが多い一方、医療保険は原則“入院給付”が中心で、在宅での看取りは対象外になるケースが多く注意が必要です。また、『在宅医療』を保障するタイプの医療保険でも、商品によっては“退院後の一定期間のみ”や“特定の医療処置が必要な場合のみ”など条件が厳しく、訪問診療だけでは給付されないことがあります」
精神的、身体的な負担とともに経済的な面で不安を持つ人も多いだろうが、これまで見てきたように看取りは公的保険を使って費用を抑えることができる。
「有料老人ホームや病院の個室を利用する場合とは異なり、訪問診療と訪問介護は基本的にすべて保険の範囲内です。どんなに重い病気でも、どれほど重症度が高い介護の状況でも、医療保険と介護保険の枠内のお金で充分賄えるケースが多い。実際に寝たきりで収入がなくても看取りができた患者もいて、“びっくりするくらい安い”と驚かれたこともあります」
さらには申請すればお金が「戻ってくる」「もらえる」というケースがあることも忘れてはならない。
「高額介護合算療養費制度は、1年間に支払った医療費と介護費の合計が一定額を超えると超過分が払い戻されます。在宅介護で自宅の改修や福祉用具の購入をした際に支給される公的補助もあるので内容をしっかり把握して、漏らさず申請しましょう」
自宅で看取るための在宅医療・介護で「もらえるお金」
※もらえるお金・戻るお金/制度の内容/もらえる・戻るタイミング
<患者が受けられる制度:医療編>
【1】高額療養費制度
同一月内で1万8000円を超えた分(70才以上・年金のみの一般的な収入の場合)/収入や年齢により自己負担額の上限を超えた医療費が還付/申請後約3か月後に還付
<受けられる条件>●公的医療保険に加入している ●保険適用の医療のみに利用可
<問い合わせ先>加入する公的医療保険組合・自治体
【2】限度額適用認定証(※限度額適用認定証は原則、70才未満に交付。70才以上は所得によって異なる。)
同一月内で1万8000円を超えた分(70才以上・年金のみの一般的な収入の場合)/あらかじめ申請しておけば、高額療養費制度の自己負担限度額までの支払いで済む/医療費の支払い時
<受けられる条件>●公的医療保険に加入している ●保険適用の医療のみに利用可
<問い合わせ先>加入する公的医療保険組合・自治体
<患者が受けられる制度:介護編>
【3】高額介護サービス費
月額4万4400円を超えた分(同一世帯内に65才以上で課税所得145万円以上の対象者がいる場合)/収入により自己負担額の上限を超えた介護費用が還付/介護サービス利用後に申請し承認された後
<受けられる条件>要介護1〜5または要支援1・2の認定を受けている
<問い合わせ先>加入する公的医療保険組合・自治体
<患者が受けられる制度:医療・介護編>
【4】高額介護合算療養費制度
67万円を超えた分(標準報酬月額28万〜50万円の世帯の場合)/医療費と介護費を合わせて、かかった上限以上の費用が還付/書類を申請し承認された後
<受けられる条件>●医療費と介護費の両方を支払っている ●かかった費用と上限額に500円以上の差があることが条件
<問い合わせ先>加入する公的医療保険組合・自治体
【5】医療費控除
年間の医療費から10万円を引いた分などが所得控除に/病気やけがの治療、訪問介護などでかかった費用が対象/手続き後、1か月〜1か月半で還付
<受けられる条件>●生命保険の給付金や高額医療費の支給を差し引いた額が対象 ●訪問診療でかかった医師の交通費なども対象になる
<問い合わせ先>税務署
<家族が受けられる制度:介護編>
【6】介護休業給付金
給料の67%/最大93日まで休んだ日数×日給の67%のお金がもらえる/介護休業が終了した後
<受けられる条件>●雇用保険の被保険者である ●2週間以上仕事を休んだ ●職場復帰を前提とする
<問い合わせ先>ハローワーク
【7】家族介護慰労金
自治体により異なる(目安は年間10万〜12万円)/自宅で要介護者を1年間介護した家族に支払われる/書類を申請し承認された後
<受けられる条件>●重度の要介護者を介護している ●1年間介護保険サービスを利用していない ●90日以上の入院をしていない ●住民税非課税世帯である
<問い合わせ先>自治体
【8】居宅介護住宅改修費
上限20万円/手すりの取り付けなど自宅の改修費の一部が還付/書類を申請し承認された後
<受けられる条件>●介護保険に加入している ●要介護度にかかわらず要介護認定を受けている人
<問い合わせ先>自治体
【9】特定福祉用具購入費支給
上限10万円/ポータブルトイレや簡易浴槽など特定の福祉用具を購入すると費用の一部が還付/書類を申請し承認された後
<受けられる条件>●介護保険に加入している ●要介護度にかかわらず要介護認定を受けている人
<問い合わせ先>自治体
在宅医療を受けるまでの主な流れ
入院している親が退院して、在宅医療を受けるとなった場合、まず最初に始めることは、介護申請をすること。その後の流れは下記の通り。※取材をもとに本誌作成
【1】介護申請
各自治体の窓口や地域包括支援センターで申請。家族がいない場合はソーシャルワーカーが代行して申請を行うことも可。
【2】ケアマネジャー依頼・決定
【3】介護申請の審査
【4】要介護状態等区分決定
【5】訪問診療先の選択
【6】在宅診療所の決定
【7】カンファレンス(会議)
本人や家族、主治医、看護師、ケアマネジャー、ソーシャルワーカー、管理栄養士、理学療法士など関係者全員で行うことが望ましい。
【8】介護保険・医療保険サービス内容決定
【9】書類作成
ケアマネジャーが介護保険サービスに関する内容を、主治医たちが医療保険サービスに関する内容の書類を作成する。初回利用時に必要。
【10】在宅医療と介護サービス開始
退院し、自宅に帰ったその日からサービスが受けられる。
文/池田道大 取材/小山内麗香 写真/PIXTA
※女性セブン2025年12月4日号
https://josei7.com
