降圧剤やアレルギー、抗がん剤に要注意!専門医が警鐘を鳴らす緑内障の副作用がある薬【実名リスト90付き】
視力低下や視野の欠けなどの症状があらわれる緑内障。放置していると失明する可能性があるとも言われている病気だが、「薬の副作用」でも起こりうることはあまり知られていない。緑内障を悪化させる可能性がある薬の種類とリスクについて専門医が解説する。
教えてくれた人
平松類さん/眼科専門医・二本松眼科病院副院長
40才以上の20人に1人が悩む緑内障。薬の副作用が原因か
年齢を重ねると目にも不調が出てくるが、「老眼」などと違って自覚症状がほとんどない病気が「緑内障」だ。患者数推定400万人、40才以上の20人に1人が症状を持つとされる緑内障は、日本人の失明原因の第一位である。
日本眼科学会の「緑内障診療ガイドライン」によると、緑内障のリスク要因は、高齢、糖尿病、低血圧、家族に緑内障罹患者がいる、眼圧が高いなど多岐にわたる。
だが、そのうちの1つに「薬」があることはあまり知られておらず、特に日本人の緑内障の10%を占める『続発緑内障』は薬の使用が影響して発症すると言われている。
週刊ポストは、医薬品などの安全性を司るPMDA(医薬品医療機器総合機構)が公表する医薬品の情報検索を利用し、医療用医薬品の添付文書を調査。文書内の「副作用」の欄に「緑内障」の記載がある先発医薬品、準先発品を抽出して、リストを作成した。
代表的はステロイド 『ステロイド緑内障』と呼ばれている
具体的にどんな薬に緑内障の副作用リスクがあるのか。二本松眼科病院副院長で眼科専門医の平松類医師がまず注目するのは「ステロイド(副腎皮質ホルモン)」だ。
「ステロイドは緑内障を引き起こす代表的な薬とされています。継続的に使用することで発症する緑内障をほかとは区別して『ステロイド緑内障』と呼ぶほどです」
なぜ、炎症やアレルギーを抑える効果で知られるステロイドが緑内障の発症につながるのか。
「はっきりとはわかっていないのですが、眼球内の房水を排出する際にフィルターとなる線維柱帯に“カス”が蓄積し、房水の流れが悪くなることで眼圧が徐々に上がっていき、最終的に緑内障を発症すると考えられています」(同前)
緑内障の副作用がある薬リストにあるステロイドは服用薬だけではなく、眼科用の「目薬」や皮膚炎などを抑えるための「軟膏」も含まれる。とりわけ注意したいのはそれらの「使い方」だ。
「結膜炎の治療や花粉症などのためにステロイドの目薬を目に差したり、軟膏を目の周囲に塗布すると、緑内障になるリスクが高まると言われています。アトピーの症状がひどいため皮膚科でステロイドの軟膏を処方され、瞼に塗り続けて緑内障になった患者さんもいます。『用量依存症』といって用量を多く使ったり、使用期間が長くなるほど危険性が増します」(同前)
実際にステロイドの目薬を長期的に使用して、「異変」が生じた患者が平松医師の病院を受診したことがあるという。
「花粉症の症状がひどく、耳鼻科で鼻炎薬とともにより効果の高いステロイド目薬を処方された60代の男性患者さんでした。長期にわたってステロイド目薬を使い続けていたことで知らないうちに段々と視野が欠けていき、かなり見えにくくなってから私の病院を受診されました。すでに視野を回復するのは不可能な状態だったため、緑内障の目薬で症状の進行を止めることしかできませんでした」(同前)
医師の指示を守ってない場合も考えられる
平松医師は薬の副作用で緑内障になる患者は医師の指示を順守していないケースがあると語る。
「基本的に処方する際には定期的に眼科を受診して眼圧をチェックするよう伝えます。眼科の場合ですらこれを守らない患者さんがいて、緑内障の症状がじわじわと進行してしまう可能性がある。皮膚科や花粉症の治療のために処方する耳鼻科などの場合、患者さんが緑内障は『関係ない』と考えてしまい、受診していないケースがさらに多いと思います。
医師の言いつけを守って眼科を受診していれば眼圧が上がった段階で適切に処置でき、薬を変えるなどして緑内障を未然に防げたはずです」
なかなか自覚症状がないゆえ眼科受診を怠ってしまうというわけだ。厚生労働省の「重篤副作用疾患別対応マニュアル 緑内障」(2009年)にはステロイドによる緑内障の症状として以下の記述があるので覚えておきたい。
<初発症状 初期には全く無症状で、あっても充血、虹輪視、羞明、霧視、軽い眼痛、頭痛程度であり、進行すると視野欠損、視力低下を来す>
抗コリンも要注意
ステロイドと並んで警戒が必要なのが、抗コリン作用を持つ「抗コリン薬」だ。PMDAの審査専門員を務めた経験を持つナビタスクリニック川崎院長で内科医の谷本哲也医師が言う。
「抗コリン薬は副交感神経に作用して、その活動を抑えて内臓の筋肉などの動きをリラックスさせたり緊張をほぐしたりします。リスト内の『過活動膀胱治療薬』は、活発な膀胱の活動を抗コリン作用で緩和する薬で男性によく処方されます」
抗コリン薬と分類されていなくても抗コリン作用を持つ薬があることにも注意したい。
「呼吸器疾患治療薬の『気管支収縮抑制薬』や『気管支拡張薬』、風邪に使う『総合感冒薬』のほか、『抗うつ薬』などにも抗コリン作用があり、緑内障のリスクがあります」(平松医師)
抗コリン薬が緑内障をもたらすのは、瞳孔が拡大する「散瞳(さんどう)」に関連すると考えられる。
「抗コリン作用でリラックスした瞳孔が散瞳すると、房水の出口である隅角が閉塞・狭窄して眼圧が上がり、視神経がダメージを負うと考えられます」(同前)
薬の副作用による緑内障は症状の進行がゆるやかなケースが多いとされるが、抗コリン作用を持つ薬の副作用のなかには「急性」の緑内障が含まれていることに注意が必要だ。
「急性緑内障は眼圧が急激に上がり、激しい頭痛や吐き気、目の充血・痛み・かすみなどの症状が出て、適切な処置を受けないと数日で失明する恐れがあります。
抗コリン作用を持つ薬は処方される機会が多い。もし服用してこれらの症状が出たら放置せず、早急に眼科を受診してください」(同前)
降圧剤が目の血管に影響も…
多くの人が服用する「降圧剤」においても、「ARB」や「カルシウム(Ca)拮抗薬」といったメジャーなタイプの薬に緑内障リスクが指摘されている。
どのような理由があると考えられるのか。谷本医師はこう推察する。
「人体のいたるところには細胞の機能を調整する『カルシウムチャンネル』があります。Ca拮抗薬は血管内のカルシウムチャンネルに作用して血管を広げて血圧を下げますが、その際に目の血管にも影響を及ぼし、視神経にダメージを与える可能性があります。
またARBは体中にあるアンジオテンシン受容体に作用しますが、Ca拮抗薬と同様に目の血管に悪影響を与えるのかもしれません。降圧剤との関連性についてはまだ解明されていない部分が多いので、今後の研究結果などにも注意が必要です」
谷本医師はこうした薬の服用は常にリスクがあると考えるべきだと説く。
「薬は血液にのって全身を巡るため、特定の血管や臓器にだけ効果をもたらすことは難しい。また人間の正常な細胞は共通のメカニズムを持っているので、循環器系の足の血管に作用させようと思った薬が目の血管に作用する可能性は否定できません。どうしても意図せぬ副作用が生じてしまうリスクがあるのです」
だからこそ、医師と患者は薬を慎重に取り扱う必要がある。
「添付文書の副作用の欄に『緑内障』と書かれている薬であれば、すべての薬に注意が必要です。もし現在、リストにある薬を服用しているなら、一度は眼科で緑内障の検査を受けたほうがいいでしょう。ただし自己判断で薬をやめることは絶対に避け、まずは主治医に相談してみてください」(平松医師)
病気を治すための薬で大切な光を失わないためにも、まずは普段から使用している薬をチェックしよう。
「緑内障」の副作用がある薬<実名リスト90>
※PMDA(独立行政法人医薬品医療機器総合機構)のHPに掲載されている医療用医薬品の添付文書のうち、副作用として「緑内障」の記載がある医薬品から先発医薬品、準先発品を抽出し作成。薬は分類ごとにPMDAのHP上で表示される順に記した。
※週刊ポスト2024年11月22日号