倉田真由美さん「すい臓がんの夫と余命宣告後の日常」Vol.33「切なくて、手放せない夫の遺品」
漫画家の倉田真由美さんは、すい臓がんにより旅立った夫の叶井俊太郎さんを想い、涙する日々が続いている。そんななか、倉田さんの家には新しい同居人がやってきて――。少しずつ取り組んでいるという遺品整理にまつわるエピソード。
執筆・イラスト/倉田真由美さん
漫画家。2児の母。“くらたま”の愛称で多くのメディアでコメンテーターとしても活躍中。一橋大学卒業後『だめんず・うぉ~か~』で脚光を浴び、多くの雑誌やメディアで漫画やエッセイを手がける。お笑い芸人マッハスピード豪速球のさかまきさん原作の介護がテーマの漫画『お尻ふきます!!』(KADOKAWA)ほか著書多数。
夫の叶井俊太郎さんとのエピソードを描いたコミック『夫のすい臓がんが判明するまで: すい臓がんになった夫との暮らし Kindle版』 『夫の日常 食べ物編【1】: すい臓がんになった夫との暮らし』は現在Amazonで無料で公開中。
姪とともに始めた遺品整理
夫の遺品は、少しずつ整理しています。
着道楽だった夫は服や靴をたくさん持っていました。よく着ていたものやいかにも夫らしいものは確保し、残りの中で良さそうなものは身内に譲ったり。それでもまだ整理しきれていません。
本や漫画も、夫しか読まなかったものは処分していこうと思っていますが、手に取ると「私も読んでみようかな」という気になってしまいなかなか減っていきません。
遺品整理は、最近同居を始めた姪が手伝ってくれています。去年の三月、福岡の大学を卒業した彼女は東京にある企業に就職し、うちの近所のアパートを借りて住んでいました。夫がいなくなって、「私が一緒に住んじゃる」と半ば強引に引っ越してきましたが、明るい彼女のおかげで家が暗くならず助かっています。
「おばちゃん、これはいる?」
「これ、もらってもいい?」
姪はサバサバと整理を進めてくれますが、私がサバサバしていないので進まないのです。
先日、姪が「これどうする?」と持ってきたのはベルトでした。
「誰も使えんよね」
「うん。でもこれは手放せないわ」
私はベルトを2本受け取りました。
「高いやつなん?」姪が聞いてきたので、「そうだね。でも、売り物にはならないよ」と答えました。ブランド品ですがこのベルトには、本来ない場所に穴が空いているからです。夫が開けた穴です。
すっかり痩せてしまった夫の姿
今からちょうど一年くらい前、十二指腸が詰まりご飯が少量しか食べられなかったこともあってかなり痩せてしまった夫は、ベルトの穴が足りず自分で穴を増やしていました。
「ズボンがブカブカでさ。ずり落ちそうなんだよ」
床に胡座をかいて、背中を丸めて錐でベルトに穴を開ける夫。その姿を見ていると切なくて切なくて、私は黙って夫の背中を見つめるだけでした。今も強い印象をもって、私の心に刻まれた情景です。
彼は日々変化していく自分の身体に、淡々と、時には戸惑いつつ、付き合っていました。夫が穴を開けたベルトは、手放すことのできない夫の思い出の一つです。
倉田真由美さん、夫のすい臓がんが発覚するまでの経緯
夫が黄色くなり始めた――。異変に気がついた倉田さんと夫の叶井さんが、まさかの「すい臓がん」と診断されるまでには、さまざまな経緯をたどることになる。最初は黄疸、そして胃炎と診断されて…。現在、本サイトで連載中の「余命宣告後の日常」以前の話がコミック版で無料公開中だ。
『夫のすい臓がんが判明するまで: すい臓がんになった夫との暮らし Kindle版』
『夫の日常 食べ物編【1】: すい臓がんになった夫との暮らし』