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自動車部品メーカーの新たなチャレンジ「ロボットに込めた2つの使命、高齢者と介護現場にもたらすもの」【想いよ届け!~挑戦者たちの声~Vol.2・前編】

 自動車部品のグローバル企業、TPRが新たなロボット事業に着手している。注目のコミュニケーションロボット『CoRoMoCo(R)』(コロモコ)を企画・開発したのは、おばあちゃん子だったという30代の社員だ。若手社員によるロボットは介護業界にどんな新風をもたらすのか――。

挑戦者たち/プロフィール

内田洋輔さん/大学卒業後、2015年にTPRにエンジニアとして入社。2019年の社内公募を経て2020年4月から新事業開発企画室に移動。その後、内田さんのアイデアであるロボット事業が採択され、同社初となる高齢者や介護者に寄り添う”コミュニケーションロボット”の開発を担うプロジェクトリーダーに就任。

「祖母の寂しそうな姿」がロボット開発の原点

 静かな言葉を淡々と並べながらも、熱い男である。

「話し相手がいないため、ひとり寂しく暮らしている高齢者のかたに、会話しながら“ひとりじゃない”温かさを感じてほしいと思いました」

 内田さんのこの思いの背後には、幼い頃の体験がある。まだ10才に達するかどうかという時代の話だ。

「ひとり暮らしの祖母に会いにいくと、いつも寂しそうでテレビばかり見ていました。『話し相手がほしいね』なんてよく言っていったので、あるとき簡単なおしゃべりをする人形をプレゼントしたのですが、当時の技術はまだ進んでいませんから、祖母もあまり気に入らなかったようで…。それがきっかけで、いつしか人の話し相手になるロボットをつくりたいと考えるようになりました」

 長じて大学に進み、燃焼に関する研究をしていた内田さんは、その経験を活かせるTPRへの入社を決めた。

自動車部品の老舗メーカーが新規事業を社内公募

 TPRはグローバルに事業を展開し自動車部品ではトップシェアを誇る製品を有するメーカー。前身の創業は1908年にさかのぼり、エンジンに欠かせないピストンリング製造を手掛ける会社として1939年に設立された。現在もピストンリングやシリンダライナといった、自動車の心臓部にあたるエンジン内の部品が主力製品だ。

 ただ、事業はあくまでクルマ関連が柱。グループ企業が介護施設を運営してはいるものの、介護に関わる何かしらの“モノ”を製造したことは皆無だった。

 そのTPRが、なぜ愛らしいロボットの開発に乗り出したのか。ことの起こりは2019年、新事業創出の社内公募がスタートしたことにある。

 近年、電気自動車の台頭やモビリティが進化・多様化する中で、TPRとしても未来に向け事業の多様化を図っていく必要性があり、そこで初めての社内公募を実施することになった。しかもアイデアは既存事業と全くの無関係でよく、発案者の裁量にほぼ任される。まさに、白紙のカンバスに思いを描きつけるところから始めるチャンスというわけだ。

 この公募に飛びついたのが内田さんである。

 半年ほどの選考を経て、翌2020年4月から晴れて新事業開発企画室に配属された内田さん。まずは同じく公募で集まったメンバーや新事業推進に携わる社員とともに、“2050年の未来”に視点を置き、そのときどのような社会が実現されているか予測して年表を作成する活動に取り組むことになる。

 そしてこの未来予測図に照らし、30年後に期待できる新事業のアイデアを、メンバーが多種多様に編み出していった。

 内田さんも当初はさまざまなアイデアを考案。「傘って何百年も形が変わらないじゃないですか。なのでその形を変え、まったく新しい傘をつくるというアイデアも考えたりしました」

 結局、いくつものアイデアの中で最終的に選んだのは、やはり祖母との思い出を源にした、高齢者の話し相手になるロボットだった。

演劇プレゼンテーションで突破

 この内田さんのアイデアに対し、会社側はどういった反応を示したのだろう。

「当社はもともと、グループ企業の一つが介護施設を運営していることもあり、介護に関わる事業という点ではもちろん反対意見はありませんでした。

 ただ、そもそも新事業を生み出していく仕組みが確立していませんし、開発の考え方や事業計画の立て方、進め方も従来事業とは全く異なるので、最初は当然慎重な見方が多かったですね」

 そこで内田さんは、高齢者が今後さらに増えて、介護職員など介護の人手不足が顕著になっていく未来に、高齢者の日常生活を助けるロボットには、社会的にも事業としても大きな意義があると積極的なアピールを展開。時には内田さんが孫役、チームメンバーがおばあちゃん役を務める演劇形式でのプレゼンを行うこともあったという。その積み重ねの中で、社内の理解も俄然進んでいった。

『CoRoMoCo』に込めた2つの使命

「不安に陥ったり、混乱したりする高齢者の気持ちを癒したい。そして、介護に携わる人の業務負荷を減らしたい」

 内田さんが高齢者向けのロボットの企画・開発において第一に考えたのが、この2点である。

 例えば夕暮れ症候群という言葉があるが、認知症の患者は夕方や夜間に精神面で不穏な状態になるケースがある。認知症に限らず、寂しい、誰かと話したいと感じる高齢者も多いだろう。そう、ちょうど内田さんの祖母のように。

 高齢者がそうした思いになり、施設の介護士のキャパシティを超える呼び出しがあると、当然だが全員には対応できない。そんなとき介護士の代わりに話し相手となり、高齢者の気持ちを癒しつつ、介護士の負担も軽減できる存在としてロボットは必ずや役に立つと内田さんは考え開発に着手した。

 志したのは、単純にしゃべるロボットではない。

「2050年の未来を予想していたときに、ロボットは社会に深く入り込み、生活のあらゆる分野で活躍しているはずと捉えていました。人とロボットが共生するその未来を見据えたとき、“ただしゃべるだけ”では足りないと考えたのです」

 その足りないところを埋めるピースとして見いだしたのが、“気持ち”である。

 ロボットと触れ合い、関わり合う高齢者の思いに寄り添うため、さまざまな機能の搭載を模索した。

 目に内蔵したカメラで個人を認識して名前を呼びかけたり、とらえた表情から感情を分析したりする。他にも、口に指を入れる動作で心拍数を測定。さらには、抱っこする高齢者が心地よさを実感できるよう、手触りにも徹底的にこだわった。

「見た目が愛らしく、抱っこした感触も“モコモコ”していて、とにかくかわいい。まずはこの見た目や手触りで高齢者の方に楽しんでもらい、ストレスを癒すことを目指しました。

 そのうえで、右目に搭載したカメラで高齢者の表情、笑っているのか泣いているのかを判断し、心拍センサーで測定もできます。そこから予測した感情に応じて“話し相手”としてさまざまな会話を展開できるようにしたいと、開発を進めました」

 加えて、取得した表情や心拍、会話の内容はデータとして記録され、クラウドを通じて介護士等がスマートフォンやPCから確認できるようになっている。そのデータを活かすことで、ケアプラン作成業務の効率化など介護者側の負担を減らせるのはもちろん、高齢者のその日の感情や体調に応じた対応も可能になるということだ。

※心拍測定値は、いかなる病気、症状、障害、または異常な身体状態を診断、治療、軽減、または予防するものではなく、参考値です。

 こうして誕生したロボットは、コミュニケーションロボットの略称“コロ”と手触りの“モコ”を組み合わせ、『CoRoMoCo』と名付けられることになる。

【問い合わせ先】
TPR 新事業開発企画室
https://www.tpr.co.jp/contact/
https://www.tpr.co.jp/products/newly-developed/coromoco/

撮影/柴田愛子 取材・文/斉藤俊明

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