高齢者と介護現場で働く人に寄り添うロボット開発秘話「モコモコの手触り、その内側に込めた最新AIによる優しさに涙」【想いよ届け!~挑戦者たちの声~Vol.2後編】
高齢者とのおしゃべりやコミュニケーションを通して心を癒やし、健康状態を把握できる。そして、介護スタッフの負担を減らすロボットを作りたい――。世界的な自動車部品メーカーTPRが全く異業種の新規事業として開発を始めた注目の高齢者向けロボット『CoRoMoCo(R)』(コロモコ、以下『CoRoMoCo』)。
30代の若手社員の熱い思いで走り始めたプロジェクトは、今、新たなメンバーを巻き込み大きく飛躍しようとしている。新AIテクノロジーを搭載しながらも愛くるしい見た目のロボット。その実力とそこに込められた想いに迫る。
挑戦者たち/プロフィール
内田洋輔さん/大学卒業後、2015年にTPRにエンジニアとして入社。2019年の社内公募を経て2020年4月から新事業開発企画室に移動。その後、内田さんのアイデアであるロボット事業が採択され、同社初となる高齢者や介護者に寄り添う”コミュニケーションロボット”の開発を担うプロジェクトリーダーに就任。
介護シーンでロボットに求められるもの
長野県岡谷市にTPRのグループ企業が運営する介護施設「絹の郷」がある。
高齢者向けコミュニケーションロボット『CoRoMoCo』の開発プロジェクトリーダーの内田洋輔さんは、この施設に約1か月通い詰め、入居する高齢者と介護士たちに、どういったロボットが望ましいかインタビュー、ヒアリングを重ねた。
「最初に見た目について意見を伺いました。シンプルで愛らしいものがいいと考えていたものの、具体的な形がなかなか決まらなかったんです。人型や犬っぽいものなどいろいろな人形を持ち込み感想を聞きました。手触りや質感、サイズ・重量についても尋ね、改良を重ねていったのです」
人間でも実在の動物でもない「おしゃべりしそうな外見」(内田さん)で、触っていて気持ちがよく、かつ抱えやすいサイズ感と重さ。多様な声を総合的に検討していく中で、『CoRoMoCo』のデザインの大枠が定まった。
一方、機能面でも、介護士へのインタビューからデータのログとその共有、感情推定など業務負荷軽減につながる要素を盛り込み、プロトタイプ1号機が出来上がった。
その後もプロトタイプをブラッシュアップしていく中で、2022年秋には開発チームに2人の新メンバーが加わる。
そして翌2023年春、ついに『CoRoMoCo』を展示会で発表する日を迎えた。これを機に、メンバーたちはプロトタイプを引っ提げ、高齢者に真に寄り添う存在へと育て上げていくため、全国の高齢者施設でのモニタリングに奔走することになる。
「内田さんはアイデアマン。高齢者施設で聞いたニーズを伝えると『じゃあ、こういうふうにしたら叶えられるんじゃないかな』と、私が思いつかないような方向から次々考え出してくれます」
そう評するメンバーの1人、迫田智(さくた・とも)さんが振り返る。
「数十の介護施設からモニタリングのフィードバックをいただくため、1年半かけて北海道、大阪、沖縄など全国各地を回る生活を送っています。高齢者や介護士のみなさんがとにかく使いやすいものにすることを目指し、『CoRoMoCo』を利用してみた感想やご意見を参考に、我々のアイデアを加えながら、ブラッシュアップを続けていきました」
例えば、重さ。もともと1.3kg程度だったが、力がそれほど強くない高齢者が楽に抱けるようにとの意見を参考に、約900gへと軽量化した。身にまとう“もこもこ”の部分は、汚れてもいいようにカバーを取り外して洗えるようにした。
利用者の声「ロボットだから話せることもある」
「プロトタイプで、話し相手としてはまだ機能が充実していなかったときでしたが、個室で過ごすことが多い高齢者が『CoRoMoCo』を強く抱きしめ、涙を流して喜んでくれたことがあります。
夕方など、不安な気持ちになる時間帯は、『CoRoMoCo』が話し相手になることで落ち着く高齢者が増え、付き添いの負荷が軽減できたという声も聞きました」と迫田さん。
会話内容はすべてログに残るため、介護スタッフがあとからその内容を確認できる。
「スタッフさんたちも知らなかったことを話しかけていることがあるそうなんです。人間相手だと気を遣って言いにくい場合も、『CoRoMoCo』になら、言いたくなるのかもしれませんね」という声も届いたという。
「モニタリングをお願いした施設では、私たちが想定していない使用シーンがたくさんありました。
例えば、元気な高齢者が『CoRoMoCo』と会話しながら洗濯物をたたむ作業をするなど、日常生活で子どもに話しかけられつつ家事をする体験に近いシーンが繰り広げられました。複数の動作を同時に行うというのは、脳にいい影響があると聞きます。『CoRoMoCo』の可能性を強く感じました」(迫田さん)
最新AIが紡ぎ出す「優しさ」
コミュニケーションロボットとして会話の部分にも深くこだわったと内田さんは語る。
「開発当初はシナリオを作り、高齢者に言ってはいけない言葉は言わないようなプログラム設定をしていました。現在は、生成AIの技術が急速に発展し、AI自ら学習・判断するようになりました。仮に人間側が『CoRoMoCo』に暴言を浴びせても『そういうことを言いたい気持ちになることもあるよね』と優しく受け答えしてくれます」と話す。
迫田さんも「私自身も『CoRoMoCo』とのやりとりを聞いていてウルッとするときもあるんです」と続ける。
『CoRoMoCo』の優しさを振り返ったうえで、「高齢者のかたは、当然ながら一人ひとり話したい内容が違います。シナリオに沿った受け答えだけでは限界があると実感しました。販売モデルには生成AIを搭載し、パーソナライズの要素を強化しています」と製品版での方針を明かしてくれた。
ちなみに『CoRoMoCo』の目(カメラ)が見た内容はクラウド経由で共有されるため、別の『CoRoMoCo』と接しても個人を認識でき、利用者が何人いてもしっかり見分けて正しい名前を呼んでくれる。
製品版の発売予定は2025年度上期で、夏頃までには開始するとのこと。まずは介護施設向けに販売し、その後に個人向けもリリースする計画があるという。
当初の施設向け販売目標は年数百台ベースで、価格は27万円前後を想定。導入実績を見ながら、数千台レベルの販売に高めていく道筋を描いている。すでに複数匹(『CoRoMoCo』は“匹”で数えるとのこと)導入を検討している施設もあるそうだ。
販売にあたっては、汚れた場合などの着替えニーズを考慮し、ベースカラーの黄色に加えて12色からもう1色選べる形にする。
最新AIでひとり一人にフィットする仕様に
「ある施設で、『CoRoMoCo』用の帽子を手編みしているおばあちゃんがいてうれしくなりました。オプションの着替えやアクセサリーもデビューさせていきたいと考えています」と迫田さん。内田さんも「『CoRoMoCo』を自分の子や友達と感じてほしい。そのためにも新しい要素をどんどん加えていきます」と気合が入っている。
今後について迫田さんは、「生成AI活用と感情推定技術の強化でパーソナライズを進め、一人ひとりのかたによりフィットするよう改良していきながら、日本の方言や外国語への対応も進めていきたいですね」と話し、多様な介護現場で『CoRoMoCo』が活躍するシーンを思い描く。そして内田さんは、未来の介護シーンにおけるロボットを見つめてこう語った。
「『CoRoMoCo』の進化はもちろん、人を持ち上げたり、動き回って見守ったりなど人間にとって負担が大きい部分を代わりに担うロボットの開発も含め、当社はすでに多様なアイデアの検討・研究を進めています。これからも高齢者の気持ちに寄り添い、介護現場に役立つ製品を開発していきたいと考えています」
「幼少期に大好きだったおばあちゃんの話し相手になるものがあったらいいのに」。内田さんが高齢者向けのロボット開発に挑むきっかけとなった祖母の存在――。いま頃きっと天国で孫が生み出した『CoRoMoCo』を抱えながら笑顔で話しかけていることだろう。そんな光景が、今後無数に繰り広げられるに違いない。
【問い合わせ先】
TPR 新事業開発企画室
https://www.tpr.co.jp/contact/
https://www.tpr.co.jp/products/newly-developed/coromoco/
撮影/柴田愛子 取材・文/斉藤俊明