介護事業者の倒産・休廃業が過去最多の784件、うち7割は「訪問介護事業」 “介護難民”の増加に待ったなしの現状から脱却するには?
介護事業者の倒産・休廃業が急増している。東京商工リサーチの調査によると、2024 年における介護事業者(老人福祉・介護事業)の倒産は172件(前年比40.9%増)、休廃業・解散は612件(同20%増)で、いずれも過去最多を更新した。なかでも、訪問介護事業の休廃業は448件(同24.4%増)と全体の7割以上を占め、危機的な状況が浮き彫りになった。
1年間で合計784もの事業者が倒産や休廃業に追い込まれた背景には、何があるのか。介護事業者が直面する課題や、現状を改善する手立てを探るべく、東京商工リサーチ情報本部の後藤賢治さんにお話を伺った。
コロナ禍、物価高、人手不足に賃上げの遅れ…介護業界に吹き荒れる“逆風”
後藤さんによると、2024年に介護事業者の倒産・休廃業が相次いだ大きな要因として、新型コロナウイルスの影響があるという。
「コロナ禍では、在宅勤務の広がりや感染への不安から介護サービスの利用控えが進み、事業者の多くは収益が減少しました。ただ、この期間中はゼロゼロ融資(実質無利子・無担保での融資)や衛生用品の購入補助など、政府による特別支援策によって耐えしのげたところもあります。しかし、新型コロナの収まりとともに支援がなくなり、代わりに借入金の返済がのしかかるなど、経営を立て直せなくなった事業者が倒産や休廃業に追い込まれたとみています」(後藤さん・以下同)
加えて、物価の高騰や他業種との人材獲得競争の激化による働き手不足、業界内で賃上げが進まないことなども、事態を悪化させている。
「最近はガソリン代や介護用品などの価格が上がり、コスト増につながっています。また、訪問介護については、2024年度の介護報酬改定で基本報酬が2~3%引き下げられたことも大きな痛手です。人件費を上げにくいですし、それまで収支がトントン、もしくは多少の赤字だった経営者らが、“踏ん張ればなんとかなる”と思えなくなり、事業の継続を諦めてしまうケースもあったでしょう」
休廃業に至ったのは、資本金1000万円未満や従業員10人未満の企業など、小・零細企業が目立つ。大手のなかには、IT技術を活用して生産性の向上につなげている企業もあるが、資金力の乏しい事業所では、そういった投資も難しい。さらに、介護報酬の構造上、重度の要介護者への支援に対する加点の比重が高いため、軽度の利用者向けのサービスは収益性が低くなりがちだ。採算がとれなくなり、重度な方への支援を主とするサービス形態に舵を切る事業者もいるという。
「軽度の要介護者に関しては、ヘルパーさんの訪問回数が少なくなることで、引きこもったり、要介護レベルが上がったりしてしまう事例もあるそうです。訪問介護に携わる職員の方からも、“軽度の段階から頻繁にご自宅に伺えていれば、重症化を防げたのではないか”という葛藤を伺いました」
支援体制の強化や職員の待遇改善が必要不可欠、利用者側も新たな“心構え”を
2025年には、団塊の世代が全員75歳以上を迎える。このままでは、介護サービスを十分に受けられない“介護難民”が増えていくだろう。後藤さんは、「人口が少ない地方の市町村から事業者が減り、介護サービスの“空白地帯”が広がりつつあります。地域社会全体でこの課題と向き合い、支援体制を整えなければ」と警鐘を鳴らす。また、介護職員の待遇改善やキャリアアップ支援の強化も急務だと話す。
「特に、中小規模の事業者は、単独での人材確保や業務の効率化が難しい状況です。そのため、事業者間で介護職員を相互に応援・派遣できる体制を整えることや、地域内の事業者が共同で介護用品を購入するなど、コスト削減につなげられる仕組みづくりが必要だと思います。ITツールの導入資金やノウハウを国や自治体が援助し、従業員の負担を軽減させることも効果的でしょう。同時に、現場で懸命に働く職員の待遇を向上させ、経験豊かな人材が辞めずに働き続けられる環境にしていかねばなりません」
とはいえ、短期間で状況が劇的に改善するとは言い難い。後藤さんは、「現状のまま推移すれば、中小規模の事業者を中心に、2025年の休廃業数も高水準が続く」と予測する。だからこそ、介護サービスの利用者側も、気をつけなければならないことがある。
「1年で800件近くの事業者が倒産・休廃業に陥っているのですから、自分の身近なところでも起こりうるということ。介護サービスを選ぶ際には、各事業者の経営状況や実績、評判をきちんと確認し、懸念点がないか見極めることも大切です」
超高齢社会に突入した日本において、介護事業者らが抱える問題は、決して他人事ではない。官民をあげて迅速かつ具体的な取り組みを進めるのはもちろん、私たち一人ひとりが、現状打破を目指して意識的に行動することが求められてくるはずだ。
◆取材・文/梶原 薫