倉田真由美さん、命日に語った夫のすい臓がん闘病といまだ癒えぬ悲しみ「免疫療法は350万円。ハワイ旅行でも行ったほうがよかったかもと思うこともある」
倉田真由美さんの夫で映画プロデューサーの叶井俊太郎さん(享年56)が、すい臓がんで帰らぬ人となってから1年が過ぎた。治療について綴った新著の発売イベントに登壇した倉田さんは、病院や治療を選んだ経緯、治療費のことまで赤裸々に語った。
旅立ちから1年、夫の命日に思うこと
「時間薬とよく言いますが、思ったようには効かなくて…。悲しみって、ゆっくり軽減していくと思ったら、そういうものでもないというのを知りました」
叶井俊太郎さんの命日となる2月16日、新著『抗がん剤を使わなかった夫』(古書みつけ)の発売記念イベントに登場した倉田さんは、涙を堪えながら語った。
「明日からは“去年の今日”にもう夫がいないんですよね。夫は目立つのが好きな人だったから、命日にこういうイベントができたことは絶対に喜んでいると思います」
「実は、これまで出したどの本よりも売れ行きが気になっています。ひとりでも多くの人に読んでもらいたいから…。
夫のように標準治療をしなかった人の闘病記ってほとんどないんですよ。夫の病気がわかってから読んだのが、同じすい臓がんだった作家の山本文緒さん(享年58)の『無人島のふたり』。これは暗記するほど読んでいて、とても支えになったんです。
夫のような選択をした人が、どういう経緯をたどるのか、少しでも多くのかたに知ってもらいたいと思っています」
《2022年、5月上旬。「肌がおかしいよ、なんだか黄色い」。黄疸と思しき状態だが、最初に行った病院では、胃炎と判断される。
3軒目の国立病院では、「一番悪いクラス5、悪性のすい臓がんです。リンパ節に湿潤があり、この状態では手術でとることは難しい」と診断される。》(同書の<序章より>)
「すい臓がんは、がんの中でも特にわかりにくいといわれています。CTを撮っても撮ってもみつからないということもあるそうです。
夫の場合、見つかったときには既に4cmを超えていて、胆管を圧迫していました。標準治療をしなければ、早くて半年、長くて1年という余命を告げられました。
抗がん剤治療をして、もしもがんが小さくなったら手術をして、放射線治療に進むことになるんですが、もしそれが叶ったとしても、5年生存率は20%ということなんですね。
私はずっと揺れていたんですけど、夫はわりと早めに自分で決断していました。緩和ケア、痛みを取ることはするけど、(標準治療は)俺はいいや、って。がんを抱えて生きていくと」
セカンドオピニオン1回3万3000円
イベントでは、書籍には綴られていない治療費についてのエピソードも明かされた。
「セカンドオピニオン、サードオピニオンと、医師の意見を聞きに行きましたが、だいたい同じ見解でした。別のやり方を提示してくれる先生を草の根を分けて探すしかないんだと感じましたね。セカンドオピニオンの費用は、1回3万3000円でした。
自由診療(医療保険が適用しない診療)は色々と試しましたね。免疫療法は350万円でした。何が効いて、どうだったのか、やったほうが良かったのかは、今でもわかりません。そのお金でずっと夫が行きたがっていたハワイ旅行でも行ったほうがよかったかもと、今となっては思うこともあります」
夫から受け取った使命
「夫はギリギリまで仕事をして、一切食事制限などはせず食べたいもの食べ、余命宣告(の期間)を超えて9か月生きてくれました。
亡くなる2日前にはファミチキを食べました。食べたがっていた新作のタルタルソース味を見つけられなかったことが心残りです。
夫がいなくなってから、1年が経ちました。悲しみはなかなか昇華されません。身体中が変わってしまった。失恋ソングはだいたい夫のことを歌っているように感じて…。だから音楽も聴けないんですよ。
まだ1年で、これからどうなっていくかわかりませんが、夫は自分が選んだこの選択を後悔していない。夫はやりたいことをやって生きてきたから未練はない。そういう死生観の人でした。
どんな治療を選ぶのか、または選ばないのか。夫のように自分の決断を信じて、自分で決めていいと思うんです。自分の人生を医者に丸投げせずに、自分の人生を歩んでほしいと思います。
これまでは“だめんず”、だめ男の専門家として生きてきました。これからは、夫がした選択、こういう生き方があるんだということ伝えていくのが私の使命だと思っています」
構成/介護ポストセブン編集部