《新しい薬が続々登場》認知症は「薬」で治せるのか? 認知症専門医が明かす認知症治療の“いま”
続いて、2023年12月に発売されたレケンビ(レカネマブ)についても、ご紹介をしておきます。
この薬は、先に紹介した4種の抗認知症薬とは薬の作用のメカニズムが異なり、アルツハイマー病変の一因となるアミロイドβを除去する「抗体医薬品」です。簡単に言えば、これまでの薬より病気の原因の「上流」に効果があるということ。それは確かに画期的で、話題になるのもうなずけます。
しかし、認知症の発症や進行を抑える効果はまだ証明されていません。アミロイドβを減少させる点は確認されていますが、それと認知症の改善程度に相関は確認されなかったのです。
神経系の病気の臨床分野で世界一の医学雑誌と評価されている「Neurology」には“Looking Before We Leap”「レカネマブに飛びつく前に」とした論文が出ました。
内容は、治療効果がさほど高くない(抗認知症薬ドネペジルより劣る)、10%以上に脳出血や脳浮腫といった重篤な副作用が出る、コストは100倍以上。そのため、薬のメカニズムは画期的だけれど、ゲームチェンジャーにはなり得ない、という指摘でした。
現在、レカネマブの適応は「アルツハイマー病による軽度認知障害(MCI)」と「アルツハイマー病による軽度の認知症」に限られ、薬価も月約33万円と高額なこともあり、重い副作用のこともあるので、まず適応の可否を判断する検査などをより厳密に行う必要があり、実施されています。なお、こうした検査の一部は保険適用外です。
診断が大事とはいえ認知症はグラデーションをもつ状態で、診断自体がとても難しい。先にも、専門医がアルツハイマー型認知症と診断した人の半分近くが見立て違いだったという調査結果もあることを紹介しましたが、こうした状況から言っても、認知症の薬物療法が抗体医薬品にスイッチしたわけではありません。
レカネマブを使用する場合、患者さんが支払う自己負担額は薬価の1〜3割としても高額で、家庭経済を圧迫するでしょう。そして、薬価の7〜9割はみなの税金でまかなうことになるわけで、その負担も重大です。
また、2024年9月、日本での製造販売が承認された「ドナネマブ」も、効果に対する期待等はおおむね「レカネマブ」と同様と思われます。
つまり現状、認知症の薬での治療が大きく進化したとは言えない状況です。