「高齢の親の食が進まず、痩せてきたかも?」低栄養を防ぐ対策とアイテムを在宅介護のエキスパートが解説
介護中の親の食が進まないので心配…。「そんなときは低栄養に注意すべきです」と、働きながら両親や義理親の介護を10年以上続けてきた、社会福祉士の渋澤和世さん。食欲が落ちてきた高齢者にどのように栄養を摂ってもらうべきなのか。在宅介護のエキスパートである渋澤さんが活用していたアイテムと活用法を教えてもらった。
この記事を執筆した専門家
渋澤和世さん
在宅介護エキスパート協会代表。会社員として働きながら親の介護を10年以上経験し、社会福祉士、精神保健福祉士、宅地建物取引士、ファイナンシャルプランナーなどの資格を取得。自治体の介護サービス相談員も務め、多くのメディアで執筆。著書『入院・介護・認知症…親が倒れたら、まず読む本』(プレジデント社)がある。
介護中の親が少し痩せてきたかも?
両親の介護をしていたとき、普通に食べているのに以前よりも体重が減っていることがあり、不安になった経験があります。
ある日、私は、子どもたちからの「じいじとばぁば、あまり食べなくなったよね。少し瘦せたかも」という言葉に”はっ”としました。
一般的に加齢とともに筋肉や脂肪の量が減少するため、高齢になるにつれて体重が減少していくのは不自然ではありません。
高齢になって食欲不振が続き、痩せるということは、”低栄養”の状態になっている可能性も。ちょっとくらい痩せても大丈夫だろうとのんきに構えている場合ではないかもしれません。注意すべき高齢者の食欲不振の原因や対策について考えていきましょう。
高齢になると食欲がなくなる理由
高齢になると食欲が落ちてくることがあります。それは、加齢、嚥下障害や咀嚼困難、味覚・嗅覚・視覚の衰え、生活環境の変化、薬の副作用など複数の原因が考えられます。加齢とともに消化や吸収の機能が低下し、噛む力、飲む力が弱くなります。運動不足のことも多く、それにより筋肉が減って消費するエネルギーも少なくなります。
また、ひとり暮らしの場合は食事がおいしくない、介護者に食べ物の好みを伝えられないなどの問題もでてきます。食欲低下の原因は以下のようなことが考えられます。
【1】加齢
若い頃より運動量が減り筋肉量、基礎代謝が下がることでお腹が空いたと感じにくくなり食欲がわかない。
【2】嚥下障害や咀嚼困難
嚥下機能と咀嚼機能が衰えることで、食べ物をうまく噛んだり飲み込んだりする能力が低下するため、食欲が減退する可能性がある。
【3】味覚・嗅覚・視覚の衰え
味覚細胞の減少により味を感じる能力は減退する、風味を感じる嗅覚も衰える、白内障や緑内障による色や形の不自然さにより食欲がなくなる。
【4】生活環境の変化
配偶者や友人との死別などによる環境の変化、一人暮らしで感じる孤独感から食事が楽しめない、面倒になる。
【5】薬の副作用
薬には副作用がつきものだが変更により食欲がなくなる。
食欲不振はこれ以外にも原因はあります。原因は一つとは限らず限定することは大変難しいかもしれません。
食欲を引き出すための対策とは?
高齢者が食事を食べないのは、加齢や味覚や嗅覚の衰え、環境の変化などさまざまです。ただし、これらは本人が「食べない」と決めたわけではなく「食べられない」状態がほとんどのケースが多いと思います。
では、介護者が工夫できることは、どんなことなのでしょうか。
デイサービスを活用する
両親の介護中、私は仕事をしていましたので、小規模多機能型の介護事業所のデイサービス(通所介護)にお世話になりました。お昼ご飯だけでも栄養士さんが考えた栄養バランスの取れたメニューを食べてきてくれることは非常に助かりました。
連絡帳に食事をどのくらい食べたかの割合が報告されるのですが、ほぼ完食に近く、高い確率で90%を超えていました。
他人と一緒に食卓を囲むことで食欲が増し、スタッフさんが気にかけてくださり、食事介助してくれたおかげだと思います。
適度な運動も必要
適度に運動も促してくれるので食欲がアップした理由かもしれません。
毎日とはいいませんがやはり介護保険サービスを使ってデイサービスなどに出かけ生活に変化をつけることも大切です。積極的に活用してほしいものです。
自宅での食事は「食べやすさ」に配慮
自宅での食事作りでは、とくに「食べやすさ」を意識しました。基本的には柔らかいものが中心になります。肉は冷えると固くなり嚙み切れなくなるので温めて小さくサイズダウンする、魚は骨が危険なので骨抜きの状態で販売されているものを利用するなどです。
具沢山の味噌汁は、根菜や葉物を軟らかく煮て歯茎でつぶせるくらいにして食べてもらっていました。
私が親の介護で活用した低栄養対策のアイテム
食べないと必要な栄養素が摂取できず、低栄養に陥る恐れがあります。低栄養は寝たきりになるリスクも高くなるため注意が必要です。
厚労省の調査※によると、65才以上の低栄養傾向の者(BMI≦20kg/m2)は、男性12.4%、女性20.7%となっています。2割以状の高齢女性が低栄養ということになります。
しかし、働きながら在宅介護をしていた筆者は、栄養がたっぷり摂れる介護食を毎食作ることは難しいという問題がありました。そこで意識したことはふたつ、カロリーとタンパク質です。カロリーを摂って体力を保ち、タンパク質で筋肉量を維持するという考え方です。
※厚生労働省「令和元年度 国民健康・栄養調査結果の概要」
https://www.mhlw.go.jp/content/000711005.pdf
カロリーとタンパク質摂取に「おやつや缶詰」を活用
あまり褒められる方法ではありませんが、食べないより食べてほしいという考えです。
実母は認知症以外、身体的な病気はなかったのでお菓子系を間食に取り入れました。一方、義母の場合には、糖尿病で血糖値が上がるため別の方法を試しました。
実母には、プリン、ヨーグルト、カステラ、チーズケーキなど卵や乳製品を使っているお菓子を活用しました。
義母には、甘い物が厳禁だったので、さばの缶詰を使った料理をよく提供しました。また、ツナ缶も活用し、卵焼きなどを作って食べてもらっていました。
市販の栄養補助食品に助けられた
市販の栄養補助食品を日々の食事にプラスすることで、多少なりともエネルギーの確保ができました。
実母が肺炎で入院をしたとき、点滴の生活から食事形態を固形に戻す途中で、高カロリーのゼリーが毎日提供されました。このことをきっかけに、普段の食事でも活用するようになりました。『アイソカル ゼリー ハイカロリー』は、たくさんのフレーバーがあり、毎日飽きずに食べることができます。
そして、1カップ(66g)でおかゆ約1杯分(全粥食230g)のカロリーが摂れます。
『アイソカル ゼリー ハイカロリー』
りんご味やもも味、あずき味など全12種。また、1カップ50gで200kcal取れる『アイソカル ゼリー もっとハイカロリー』もある。
栄養:エネルギー150kcal
価格:3696円~(24個セット)
販売:ネスレ日本 ネスレ ヘルスサイエンス カンパニー
https://healthscienceshop.nestle.jp/blogs/isocal/isocal-jhc-index#hc
入院すると急激に痩せることもありますが、体重1kg増やすには7000~8000kcalが必要になるとされています。これを食の細い高齢者がとるのは容易ではありません。ゼリーなら食べる量はコンパクトでカロリーは減らしたくないときなどにうってつけです。
また、手軽にたんぱく質が摂れるスープもおすすめです。こちらも時々活用していました。
『クノール(R)たんぱく質がしっかり摂れるスープ ポタージュ 15本入り袋』
たんぱく質のほか、ビタミンDやカルシウムもたっぷり補給。
栄養:工ネルギー 110kcal、たんぱく質 8.0g
価格:2138円(送料別)
販売:味の素
https://direct.ajinomoto.co.jp/nutricare/knorr_potage/
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介護中、食欲が落ちている場合は、無理強いはせず、食べられそうなものを探してみてほしいと思います。また、食欲不振が長期間続く場合は病気による症状の可能性もありますので、病院を受診してみてくださいね。
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