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『ライオンの隠れ家』劇中に登場する絵で注目の画家・太田宏介さん 兄の信介さんに元ヤングケアラーがインタビュー「弟の絵には癒しの力がある」

 高次脳機能障害の母のケアを続けてきた、元ヤングケアラーのたろべえさんこと、高橋唯さん。いま気になっているのが、テレビドラマ『ライオンの隠れ家』に作品を提供している話題の画家、太田宏介さんだ。障害のある宏介さんの作品のプロデュース・販売を手がける兄の太田信介さんに話を聞いてみました!

執筆/たろべえ(高橋唯)さん

「たろべえ」の名で、ケアラーとしての体験をもとにブログやSNSなどで情報を発信。本名は高橋唯(高ははしごだか)。1997年、障害のある両親のもとに生まれ、家族3人暮らし。ヤングケアラーに関する講演や活動も積極的に行うほか、著書『ヤングケアラーってなんだろう』(ちくまプリマー新書)、『ヤングケアラー わたしの語り――子どもや若者が経験した家族のケア・介護』(生活書院)などで執筆。 https://ameblo.jp/tarobee1515/

今秋ドラマでも話題の画家の個展へ

「(作業は)順調です」「(お気に入りは)ひまわりの絵です」

 静かにこう語るのは、いま注目の画家、太田宏介さんだ。東京・銀座コリドー街のギャラリー「銀座アートホール」で開催された個展会場で、宏介さんはキャンバスに向かって黙々と絵を描き続けていた。

 宏介さんは1981年に宮崎県に生まれ、2才の時に知的障害を伴う自閉症と診断された。11才の頃から絵を本格的に描き始め、現在まで多くの作品を手がけてきた。山下清や草間彌生の作品とともに展示された経験もあり、日本を代表する画家のひとりだ。

 下描きをしない大胆なスタイルの作風は、その独創的な色づかいに思わず目を奪われる。存在感の強い作品も多いが、観ていると不思議とほんわかと和やかな気持ちになってくる。

 今秋放送されているテレビドラマ『ライオンの隠れ家』(TBS系列、金曜22時~)でも宏介さんの作品が採用され、話題を集めている。ドラマの主人公・小森洸人は、自閉スペクトラム症の弟・美路人とともに暮らしているのだが、劇中で美路人が描く作品を提供しているのが宏介さんだ。

「きょうだい」の関係性

 障害のある兄弟姉妹をもつ人を「きょうだい」という。きょうだいは健常者同士の兄弟姉妹とは異なる特徴をもつこともあり、中には幼いころからヤングケアラーとなる場合もある。

 宏介さんにも美路人と同じように兄がいる。太田信介さんだ。宏介さんと信介さんはどんなきょうだいなのだろうか。兄の信介さんにお話を伺った。

弟の絵に癒やされて起業を決意

「今回のドラマではライオンの絵がメイン。テレビ局さんからの依頼ですべて描き下ろしたものです。だけど、実は本人はライオンよりもゴリラが好きなんですよ(笑い)。

 僕はフクロウが好きで、弟もそれを知っているから、よく描いてくれます。実を言うと、”福が来る”ということで、フクロウの絵は人気があってよく売れるモチーフでもあるんです」

 こう語る兄の信介さんは、現在「ギャラリー宏介株式会社」の代表として、宏介さんの絵画の販売・レンタルを行っている。この日も個展に訪れた多くのお客さんに絵の魅力を伝えていた。

「仕事で疲れていたあるとき、弟の邪気のない絵に癒やされて、弟の作品の素晴らしさに気がついたんです。障害の有無にかかわらず、弟の絵は国内外の多くの人の心を動かして、元気になってもらえるのではないか。そう思って、弟の絵を扱うビジネスを始めたんです」

「きょうだい」としての葛藤も

 いまでこそ信介さんは、弟の作品を世の中に広めていく活動をしているが、かつてはきょうだいとしての葛藤もあったという。

「昔は弟の存在を周囲に知られたくないと思っていて、きょうだいのことを聞かれると、弟のことを隠して姉と2人姉弟と言ってしまい、後悔することもありました。

 7つ離れたかわいい弟のはずなのに、弟の存在が人付き合いの妨げになるのではないか、そんな風に思っていたんです。自分は結婚できるのかどうかもずっと不安だったんですよ。

 だけど、 自分のうまくいかないことを弟のせいにしてはいけないと気がついたんです」

 信介さんは34才のときに結婚し、37才のときに勤めていた会社を辞め、起業の道を選択する。その後、宏介さんの個展を全国各地で行うようになると、訪れた人から「お兄さんは結婚されているのですか」とよく聞かれるようになった。

 このことがきっかけで「自分に限った話ではなく、きょうだいにとって“結婚”は課題になりやすいことなのだ」と気がついたという。

「自分の経験を話すことで、結婚で悩んでいるきょうだいが少しでも悩みを軽減できて、ポジティブに結婚を捉えられるようになってほしいと思ったんです」

 弟の絵を販売するビジネスをする一方で、”きょうだい”としての活動もはじめた信介さん。現在は『全国障害者とともに歩む兄弟姉妹の会』の事務局長も務めている。

 筆者も母のケアをしていると「いつまでこのまま母の面倒を見続けなければならないのだろうか」といった、きょうだいがもちやすい気持ちに近い思いを抱くこともある。一方、筆者自身はひとりっ子なので、きょうだいというのは未知の関係性でもある。

きょうだいのために、『できることはしたい』『離れたい』など、選択肢がある

『きょうだいの進路・結婚・親亡きあと 50の疑問・不安に弁護士できょうだいの私が答えます』の著者でもあり、きょうだいが抱える課題に向き合う弁護士の藤木和子さんにもお話を聞いてみた。

「法律的には、障害のある兄弟姉妹を扶養(世話)しなければならないという強い義務や強制はありません。きょうだいのために、『できることはしたい』『離れたい』など、たくさんの選択肢があるということを忘れないでほしいと思います。

 とはいえ、親や周囲の期待を重いと感じたり、進路や結婚などで壁に直面したり、さまざまな問題を抱えているかたが多いのが実態です。きょうだいが抱える事情はさまざまなので簡単なことは言えませんが、どうかご自分を大切にしてほしいと思います」(藤木さん)

■全国障害者とともに歩む兄弟姉妹の会
https://kyoudaikai.com/

兄弟でありビジネスパートナーでもある

「きょうだいの関係性は、100人100通り。太田さん兄弟は、義務的に一緒にいるのではなく、互いに自分らしくいられる関係なのが、私はいいなと思います」と、藤木さんは語る。

 実際、宏介さんと信介さんは、兄弟でありビジネスパートナーでもある。宏介さんの作品を扱う事業は徐々に軌道に乗り、10月には福岡県太宰府市に「太田宏介アトリエ館」もオープンした。

「弟は絵を描くことが仕事だと認識していますし、親からは一切こづかいはもらっていないんです。

 絵を描いて売り上げがなければ、僕からもお金は渡していません。だって、社会人として働くというのはそういうことですよね。

 僕は絵が描けないけど、弟は自分でいろんな人に絵を広めていくことはできないので、足りないところを補い合うビジネスパートナーだと思っています。

 親はどうしても宏介を甘やかしてしまうところもあるけれど、僕は“仕事でしょ”ってちょっとドライなところもあるのかもしれませんね」

太田さんきょうだいの在り方

 前述のドラマ(『ライオンの隠れ家』)の序盤では、主人公が弟の特性に合わせて生活する様子が見て取れる。太田さんきょうだいも、最初は宏介さんが落ち着いて絵を描いて生活できるようにするために信介さんがサポートをしているのだろうと思っていたが、どうやらちょっと違うようだ。

 信介さんは、「宏介の絵に囲まれてるの、なんか居心地良くないですか?」と笑う。

 信介さんと宏介さんの今の関係性は、弟を隠したい気持ちと大事にしたい気持ちをどちらも感じてきた信介さんが自分で見つけ出した居心地のよい関係性なのかもしれない。

 年内から来年にかけても九州や関東での絵画展が控えている。信介さんは「弟の絵を世界に届けたい」と話す。ぜひ多くの人に、太田さんきょうだいが創り出すやわらかい雰囲気の中で、宏介さんの作品を楽しんでほしい。

→たろべえさんのほかの記事を読む

ヤングケアラーに関する基本情報

言葉の意味や相談窓口はこちら!

■ヤングケアラーとは

 日本ケアラー連盟https://youngcarerpj.jimdofree.com/による定義によると、ヤングケアラーとは、家族にケアを要する人がいる場合に、大人が担うようなケア責任を引き受け、家事や家族の世話、介護、感情面のサポートなどを行っている、18才未満の子どものことを指す。

■ヤングケアラーの定義

『ヤングケアラープロジェクト』(日本ケアラー連盟)では、以下のような人をヤングケアラーとしている。

・障がいや病気のある家族に代わり、買い物・料理・掃除・洗濯などの家事をしている

・家族に代わり、幼いきょうだいの世話をしている

・障がいや病気のきょうだいの世話や見守りをしている

・目を離せない家族の見守りや声かけなどの気づかいをしている

・日本語が第一言語でない家族や障がいのある家族のために通訳をしている

・家計を支えるために労働をして、障がいや病気のある家族を助けている

・アルコール・薬物・ギャンブル問題を抱える家族に対応している

・がん・難病・精神疾患など慢性的な病気の家族の看病をしている

・障がいや病気のある家族の身の回りの世話をしている

・障がいや病気のある家族の入浴やトイレの介助をしている

■相談窓口

・こども家庭庁「ヤングケアラー相談窓口検索」
https://kodomoshien.cfa.go.jp/young-carer/consultation/

・児童相談所の無料電話:0120-189-783

https://www.mhlw.go.jp/young-carer/

・文部科学省「24時間子供SOSダイヤル」:0120-0-78310

https://www.mext.go.jp/ijime/detail/dial.htm

・法務省「子供の人権110番」:0120-007-110

https://www.moj.go.jp/JINKEN/jinken112.html

・東京都ヤングアラー相談支援等補助事業 LINEで相談ができる「けあバナ」
運営:一般社団法人ケアラーワークス

https://lin.ee/C5zlydz

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