介護食<きのこ>活用時の注意ポイント「なめこのぬめりをとろみ剤がわりに」管理栄養士が教える簡単レシピ
しいたけやまいたけ、えのき、なめこなど「きのこ」類は、通年スーパーに並部栄養豊富な食材。猛暑の影響で高騰しがちな野菜などと異なり、比較的価格も安定している家計にも優しい食材だ。管理栄養士の川鍋仁美さんによると、きのこを介護食に活用するときには、注意すべきポイントがあるという。高齢者こそ摂るべききのこの栄養素やおすすめレシピも紹介する。
教えてくれた人/管理栄養士・川鍋仁美さん
管理栄養士。2児の母。大学卒業後、総合病院に勤務。介護食・嚥下食などの献立作成や栄養相談など行ってきた経験を活かし、現在はデイサービスで高齢者の栄養サポートなどを行う。介護する人もされる人も笑顔になれる「介護食作り」を目指し、活動中。「管理栄養士が伝授!いちばんやさしい介護食ガイド」の運営・執筆も手がける。https://eiyousupport.com/
高齢者におすすめ「きのこの栄養素」を解説
きのこ類はビタミンや食物繊維も豊富で栄養価が高いので、ぜひ介護食や高齢者のかたに取り入れてほしいのですが、注意すべき点があります。
まず、栄養価や調理ポイントについて解説していきます。
きのこと一言で言っても、その種類は豊富です。現在、食用として売られているのは20種類ほど。通年入手できるきのこの代表格といえば、しめじ、えのきだけ、エリンギ、しいたけ、まいたけ、なめたけなどがあります。
栄養素は、種類によって多少の差はありますが、きのこ全般に含まれる代表的な栄養素としては、以下のようなものがあげられます。
ビタミンD「骨を強くする」
きのこには、日光(紫外線)にさらされるとビタミンDに変わる、エルゴステロールという成分が豊富です。
ビタミンDは、腸からのカルシウムの吸収を促進して骨を強くする働きがあるので、加齢によって骨量の減少が心配な高齢者には、積極的に摂ってほしい栄養素です。
食べる前のきのこをザルなどに広げて日光に当てることで、ビタミンDの含有量を増やすことができるので、調理前に余裕があるときはぜひ天日干しすることをおすすめします。
食物繊維「水溶性&不溶性で腸を元気に」
きのこに含まれる食物繊維は、「水溶性」「不溶性」の両方が含まれているので、バランスよく腸内の働きを良くしてくれます。
水溶性食物繊維は、粘性があり消化吸収をゆるやかにし糖分やコレステロールの吸収を穏やかに抑える役割をしています。
不溶性食物繊維は、腸内に溜まった不要な老廃物を絡め取ることや便のかさを増し便通を促す役割をしています。
ビタミンB群「代謝アップに役立つ」
ビタミンB1、B2、ナイアシンなどのビタミンB群が多く含まれています。
特にビタミンB1には、糖質を代謝してエネルギーに換える働きがあります。B1をしっかりと摂取することで、栄養がしっかり体内で代謝されます。高齢者が感じやすい食欲不振や、疲れやすいと感じている場合には、積極的に摂っておきたい栄養素です。
β-グルカン「元気な体に必須」
β-グルカンは、きのこの細胞壁に含まれる食物繊維の一種です。β-グルカンはまだ解明されていないことも多いのですが、腸内の免疫細胞に直接働くことで免疫力の活性化が期待できるとされています。この季節はとくに高齢者に積極的に取ってほしい栄養素です。
きのこを介護食に活用するときの調理ポイント
きのこの特徴をいかして、介護食に活用するポイントを紹介します。
きのこは単体ではなく「たんぱく質と合わせて」
きのこは食物繊維が豊富なので満腹感を得られやすく低カロリーなので、ダイエット中の人はたくさん摂りたい食材です。一方、低栄養傾向の高齢者や介護食として単品でたくさん摂ってしまうと、お腹が一杯になってしまうのでおすすめできません。
きのこは単品ではなく、ほかの食材と合わせて食べることで栄養素を効率よく摂ることができます。
きのこには、たんぱく質分解酵素「プロテアーゼ」も豊富。お肉などに含まれるたんぱく質を分解してくれるので、肉質をやわらかくしたり、吸収しやすい状態にしてくれたりする作用も。調理前にきのこを一緒に漬け込んでおくとお肉が噛みやすく、食べやすくなるので、介護食作りの工程にはおすすめです。
「ほぐす、千切る」はNG!みじん切りにして食べやすく
食物繊維が多いきのこを介護食に使うには、切り方に注意が必要です。きのこは、繊維に沿って割いたりほぐしたりして使うことが多いと思いますが、介護食には不向き。噛み切りにくく、喉の詰まりも心配ですし、よく噛んでから飲み込まなければならないので、消化吸収の妨げにもなってしまいます。
介護食や高齢者に提供するときは、必ず「細かく刻むこと」。さらに刻んだものが口の中でバラバラになって飲み込みにくくならないように「まとまり」にすることがポイントです。
冬を元気に乗り切る!きのこの介護食レシピ3選
卵やお肉などたんぱく質と合わせて栄養バランスをアップした介護食におうすすめのきのこレシピをご紹介します。
きのこたっぷり鶏つみれ汁
「豆腐をつなぎに使ってふんわり食べやすく」
<材料>(2人分)
【A/肉だね】
・鶏ひき肉…100g
・絹豆腐…80g(約1/4丁)
・えのきだけ…30g(約1/5株)
・しめじ…30g(約1/4株)
・すりおろししょうが…少々
・卵…1個
・塩こしょう…適宜
【B/だし】
・水…600㏄
・白だし…大さじ3
<作り方>
【1】きのこは根元を切り落とし、みじん切りにする。
【2】ボウルに【A】の材料を入れて、粘りが出るまでよく練り混ぜる。
【3】鍋に水と白だしを入れて煮立ったら弱火にする。
【4】(2)のタネをスプーンですくい、一口サイズに丸めて鍋に入れる。
【5】煮立ったら弱火にして時々アクを除きながら10分ほど煮る。
<ポイント>
鶏ひき肉のほか、魚のすり身でもおいしく仕上がります。きのこは、みじん切りにすれば、ほかの種類でも代用可能です。
きのこたっぷり卵焼き
「卵のたんぱく質と合わせて栄養アップ」
<材料>(2人分)
・卵…3個
・しいたけ…1枚
・まいたけ…30g(約1/4株)
・しょうゆ…小さじ1
・サラダ油…適宜
・白だし、水溶き片栗粉適量
<作り方>
【1】きのこ2種はみじん切りする。
【2】ボウルに卵を溶きほぐし、きのことしょうゆを加えてよく混ぜる。
【3】フライパンを熱してサラダ油を薄くしき、卵液を何回かに分けて流し入れ卵焼きを作る。
【4】食べやすい大きさにカットする。
<ポイント>
とろみ剤や水溶き片栗粉などで、とろみをつけた白だし(適量)をかけると、さらに食べやすくなります。
なめことひき肉の豆腐あんかけ
「なめこのぬめり成分がとろみ剤がわりに」
<材料>(2人分)
・絹豆腐…100g×2
・なめこ…1/2パック
・鶏ひき肉…50g
・しょうゆ…小さじ1
・塩こしょう…少々
・サラダ油…小さじ1
<作り方>
【1】なめこをみじん切りにする。
【2】フライパンに油を熱してひき肉を炒め、塩こしょうで軽く味付ける。
【3】【1】を入れて、しょうゆを加えて軽く混ぜ合わせ、火を止める。
【4】豆腐の上に盛り付ける。
<ポイント>
なめこがもつ“ぬめり成分”でひき肉がまとまりやすくなります。とろみ剤や水溶き片栗粉でわざわざとろみをつける手間がなく、つるりと飲み込みやすく仕上げることができます。
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きのこは種類も豊富で香りも味わいも楽しめる食材。切り方と調理ポイントに注意しながら、健康的でおいしい介護食作りに役立ててください。