《1時間の運動で寿命が3時間延びる!?》『ゼロトレ』著者・石村友見さん伝授 「わかっているけど、続かない」を乗り越えて運動を習慣化する3ステップ
「現状維持バイアス」(Status Quo Bias)とは、変化を避けて現状維持を選ぼうとする心理的傾向のことで、1988年に経済学者のウィリアム・サミュエルソンとリチャード・ゼックハウザーの『意思決定による現状維持バイアス』によって提唱された。
この心理状態では、「変えることで好転する可能性がある」ことを薄々わかっているにもかかわらず、そのための選択や行動を避けることになる。「バイアス」とは偏りや偏見、先入観のことだ。
たとえば、あなたに次のような傾向があれば現状維持バイアスが強いと言えるかもしれない。
・レストランでいつも同じメニューを注文する
・毎日の生活パターンがほとんど変わらない
・週末は出かけるより家で寝ていたい
・職場で「新しい方法」を試すように言われることがストレス
・ルールを変えることに抵抗がある
・「もう少し考えてからにしよう」と思いがち
このような思考パターンがある人は、自分が行動しないことに対して理由が必要になる。そこでさらなるバイアスを生む。「確証バイアス」(confirmation bias)だ。
確証バイアスとは、自分が持っている先入観を肯定するために、自らにとって都合のいい情報ばかりを集める心理的傾向のことだ。たとえば、あなたに「英語を上達したい」という成長欲求があったとしよう。しかし現状維持バイアスが強いと、英会話スクールに通ったり、外国人の家庭教師をつけたりすることはとても億劫であり、平穏な日常が脅かされかねない。
そこで自分が「行動しない」ことを肯定するために、「自動翻訳機が進化しているので、これからは英語を話せるようになる必要はないはずだ」といった都合のいい情報と解釈で頭を埋めようとする。はじめは「英語が話せるようになりたい」と思っていたはずが、いつしか「行動しない私の選択は間違っていない」という心理にすり替わっていく。これが確証バイアスだ。
現状維持バイアスや確証バイアスのことを「認知バイアス」などと呼ぶ場合があるが、これらのバイアスが連鎖的に起こり始めると、生活に変化を起こすことはとても難しくなる。こうして自分の成長を阻害してしまう。
運動を習慣化する3ステップ
このようなバイアスが働いたとき、どうやって運動を生活に取り入れることができるかが課題だ。
そこで3つのステップを推奨したい。
【1】バイアスを認知する
まずは現状維持バイアスや確証バイアスの存在を認知すること。何かを始めようと思ったときにそれをやめさせようとする気持ちが湧き立ったら、「今、バイアスが働いているな」と気づくこと。こうすることで、「現状維持バイアス→確証バイアス」の負の連鎖を防ぐことができる。
そして大切なことは、悪いのは人間に元々備わっているバイアスのせいであり、自分は悪くないと思うこと。多くの人は必要以上に自分を裁いてしまう。「行動を起こせないのは自分の意志が弱いせいだ」と。問題はやる気や意志の力ではない。認知バイアスという限りなく生理現象に近い存在のせいなのだ。
【2】小さく始める
「目標」を小さくする。たとえば「1日1万歩」といった目標ではなく、「1日100歩」。これは距離にすると60〜70メートルで、時間にするとせいぜい1分だ。
私の運動嫌いの知人は、自分のあまりの運動不足が心配になり、「ゴミが溜まったら歩く」という小さな目標を立てた。家の中にゴミが溜まったら、靴を履き、それを外に出しに行く。そのついでに5分や10分だけ歩く。
逆に「ゴミが溜まっていない日は歩かなくてもいい」と決めたことで精神的にとても楽になったようだ。彼女はその結果、歩くことが好きになり、人生で初めて運動が習慣になったのだ。
大切なことは、時間や回数をわざわざ狙って増やすのではなく、あくまで小さな目標を達成し続けることだ。『TINY HABITS』の著者でスタンフォード大学行動デザイン研究所のBJ・フォッグは著書の中でこう書いている。
「ある行動の実行が簡単であればあるほど、習慣化する可能性が高まる」
私の知人で「1日1野菜」という目標を立てた人がいるが、彼は今では毎日10種類程度の野菜を食べている。
【3】習慣化する
最後は「習慣化」だ。そもそも【1】と【2】は習慣化のためのプロセスだ。「習慣」とは、長い間繰り返すうち、そうするのが決まりのようになること。1日の行動を振り返ったときに、朝起きてカーテンを開けたり、歯を磨いたり、シャワーに入ったり、朝食にフルーツを食べたり、会社の近くのコーヒーショップでコーヒーを買ったり、職場に着くとデスクを拭いたりといった、ほとんど無意識のうちに当たり前のように行っているのが習慣だ。
【2】で決めた「小さな目標」を、どうすれば自分の1日の行動の中に習慣として組み込むことができるか考えてみてほしい。