動脈硬化や糖尿病、がん等、人々を苦しめる病気を引き起こす【免疫暴走】とは?最新の免疫知見を専門家が解説「40~60歳は最も注意が必要な時期」
ところが40歳を過ぎたあたりから、このシステムはうまくまわらなくなっていきます。免疫細胞自体もだんだん衰え、外敵が来ても若いころのように切れ味よく攻撃できない。弱々しい力しかないので延々と攻撃するも、きちんと破壊できない。それなのに体内には攻撃すべき対象が増えるから、ずっと働きっぱなし。
なぜ増えるかと言えば、古びた細胞が増えていくだけでなく、太りすぎた脂肪細胞やそれらの細胞が出すもの、さらには日々生まれるがん細胞までが、彼らが処理しなければならない対象だからです。
困るのは、のべつ幕なしに攻撃を続けているうちに、正常な細胞まで傷つけるエラーも頻発することです。傷ついた細胞も古びた細胞同様、免疫細胞にとって処理しなければならない対象ですから、自分で自分の仕事を増やしてしまうことに。そして、じつはもう一つ、40代以降の体に起きるこうした事態をさらに悪化させる、ある免疫細胞の減少があるのです。
かくして、オーバーワークに陥った免疫細胞が見境なくさまざまなものを攻撃し続ける惨劇が、体内で展開されます。これを医学的には「慢性炎症」と呼びますが、ここではよりイメージしやすいように「免疫暴走」と呼んでいくことにします。
免疫の暴走で「倍速老化」が始まる
「免疫暴走」状態になると免疫細胞たちはその対応に追われ、老化速度を遅らせていた若返りシステムをうまくまわせなくなり、驚くべきスピードで老化が進んでいきます。
これが、倍速老化です。
免疫細胞がオーバーワークになっているということは、ウイルスや細菌などの外敵にも侵入されやすいため風邪をひきやすくなりますし、壊れた細胞もなかなか処理されないためケガは治りにくくなる。新陳代謝が滞るので、肌もどんよりする。こうした老化現象が加速してしまいます。
倍速老化の兆候がどこに現れるかには個人差がありますが、たとえ見た目の老化が進んでいなかった方でも、体の内側が急激に老化していれば外見も老けていくのは時間の問題でしょう。
近年わかってきたのは、動脈硬化や糖尿病、がんといった世界中の多くの人々を苦しめている病気も、その裏にはほぼ確実に免疫暴走がある、ということです。しかも免疫暴走は脳にまで及び、うつやアルツハイマー型認知症などを引き起こすことも判明しています。
40代からはさまざまな局面で責任が増し、自分のためだけに使っていた時間が仕事や子育て、介護などに次々と切り取られがちです。そうすると精神的ストレスは溜まり、体にも負担がかかります。しかし先にもお話ししたとおり、この時期こそ、まさに免疫システムが崩れ始め、倍速老化が静かに始まっていく最も注意が必要な時期なのです。
ゆるやかで自然な老化だけにとどめられるか、崖から転落するかのように倍速で老化を進めてしまうか──この年代からが大きな分かれ道になると言っていいでしょう。
40歳から60歳の最も注意が必要な時期──魔の20年──をなんとか切り抜けて定年の時期にでもなれば、多くの方は時間に余裕ができます。そうすれば健康増進や若返りのための対策もいろいろ実践できるはずですが、そのスタートは遅くなるほど大変です。体が衰え気持ちも上がりにくくなるなか生活習慣を大きく変えるのには、困難がつきまといます。
もちろん、いつからでも免疫暴走を食い止め、倍速で進む老化にブレーキをかけることは可能です。ただ対策は早いに越したことはありません。そのためにも、まずは体内でどんなことが起きているかを、しっかりと知っておいていただきたいのです。