「60代の生活習慣が老後の健康を左右する」医学的根拠に基づく最新の<健康常識8選>を医師が解説
ストレス、睡眠不足、食べすぎや飲みすぎ、家事や介護…。中高年になると、心身にまつわる悩みのなんと多いことか。2021年度のメタボリックシンドローム該当者及び予備群の数は、1702万人(※1)との試算があるように、体形や体質の変化による病気も気になるところ。そんな不安を埋めてくれるものとして、サプリメントや健康食品を摂っている人も多いが、それらが体に負担をかけていることも。ここでしばし立ち止まり、情報をアップデートすれば、あなたに本当に必要な健康習慣が見えてくる。
(※1)出典:厚生労働省「特定健康診査・特定保健指導の実施状況」
教えてくれた人
久保明さん/医学博士。『銀座医院』院長補佐。東海大学医学部客員教授。日本臨床栄養協会理事長。老化度を科学的に測るエイジングドックを開発し、その結果に基づく運動・栄養・点滴療法などを行う。『最新医学でわかった新健康常識 カラダに良いこと 悪いこと』(永岡書店)ほか著書・監修書多数
60代のリスクマネジメントがそれ以降の健康の質を決める
「長期にわたる追跡調査の結果、60代のときに健康リスクが低かった人ほど、高齢になって身体障害を発症するリスクが低く、生存率が高いことが判明しています」と、久保さんは語る。これは、アメリカの医学雑誌に発表された研究結果に基づくものだ。
つまり「60代のリスクマネジメントが、それ以後の健康の質を決める」ということ。
こう聞くと「アンチエイジングに効くサプリメントをのまなきゃ」「ファスティングもしなきゃ」などと、巷にあふれる情報をすぐに取り入れたくなるが、
「まずは、自分の体の状態を知ることが出発点」
と、久保さんはすすめる。
「加齢の状態には個人差があります。生活環境はもちろん、男女差もあるし、臓器によっても違うのです。いちばん重要なそこを省いて『タレントの○○が実践していた』『みんながいいと言っている』と、検証なしに取り入れることが、本当の健康につながるとは思えません」(久保さん・以下同)
「若い頃はできた」はアップデートを
まさにそんな事例がある。
「ジムでハードな筋トレに励む高齢女性が、トレーナーにすすめられてプロテインをせっせと摂取したところ、腎臓の機能が下がってしまった。腎臓はたんぱく質の代謝にかかわる臓器ですが、加齢によりその機能は落ちてくる。そこへ負荷を加えてしまったことで、かえって健康を損ねてしまったのです。その女性は、たんぱく質の摂取量を減らすことで腎機能を元に戻すことができましたが、高齢者といっても、個人差があることをトレーナーも配慮すべきだと思います」
中高年女性はたんぱく質が不足気味とはよくいわれること。「だから、私もそうに違いない」と決めつけるのは危険で、心配のあまり、知らず知らずのうちに摂りすぎていることもある。
「医学の進歩もあり、過去にはいいとされた健康効果が覆(くつがえ)る、あるいは、その逆もあるのです」
どうしたら正確な情報を見極められるのか…。
「それには『情報の自分化』をすることです」
聞きなれない言葉だが、情報の自分化とは、巷の情報をそのままうのみにするのではなく、ただの噂レベルなのか、あるいは医学的根拠があるのかを確認しながら取捨選択し、自分にとって有効なものかどうかを判断すること。
「誰かの評価」ではなく、「自分の評価」であることがポイントだ。
「“自分化”のためには、当然、自分の体の状態を知る必要があります。この年代になれば、大小はあっても何かしら健康上の問題があるはず。ですから、中高年の不調や疾病につながる内臓脂肪や骨密度の状態を、一度くらいは調べてみることをおすすめします。医師の私ですら、自分の内臓脂肪のCT画像を見て『思ったより脂肪がある』と驚きました。それに加え、いまの体調(自覚症状)をセルフチェックすること(いずれも下記参照)。
健診で客観的に、セルフチェックで主観的に。双方のデータを組み合わせることで、自分が注意すべき点が見えてくるはずです。そうした相談にのってくれる主治医がいると、なおいいですね」
検査については、「抗加齢ドック(アンチエイジングドック)」を実施するクリニックを調べるか、かかりつけ医に相談しよう。(※2)
(※2)久保さんたちが立ち上げた東海大学医学部付属東京病院(渋谷区代々木)、銀座医院ほか全国で実施。詳しくは「抗加齢ドック」で検索を。