認知症基本計画策定 高齢者の3.3人に1人が認知症または軽度認知障害に 「希望を持って自分らしく生きる」社会へ
政府は急速な高齢化を背景に、認知症施策の基本計画を策定した。この計画は、認知症になっても「希望を持って自分らしく暮らし続ける」ことを可能にする新たな視点を中心に据えている。従来の「支援する対象」という捉え方から、認知症患者を共に生きる仲間として位置づけ、その尊厳と生活の質を重視した社会の実現を目指している。
今後も増加する認知症患者
2040年には認知症の高齢者が約584万人、軽度認知障害(MCI)の高齢者が約613万人、合わせて1200万人が認知症またはMCIになると見られている。高齢者の実に約3.3人に1人という水準だ。
新しい認知症観と3つの施策
今回の基本計画では、まず「認知症になっても希望を持って自分らしく生きる」という新しい認知症観を社会に浸透させることを最重要目標としている。この目標を達成するために、次の3つの施策が進められる。
1つ目は、学校教育において認知症当事者が参加する教育プログラムや交流活動の導入だ。これにより、若い世代が認知症に対する理解を深め、共生する社会の意識が育まれることが期待される。
2つ目は、認知症当事者同士が支え合う「ピアサポート活動」の推進である。認知症の人々が孤立することなく、互いに助け合いながら社会参加を促進する環境を整備することで、生活の質向上が図られる。
3つ目は、「認知症希望大使」の活動支援だ。これは、認知症当事者が自らの経験を発信し、社会に希望を与える活動を通じて、認知症に対する理解を深める取り組みだ。
今後の展望
計画は2029年度までを視野に入れており、概ね5年ごとに見直される予定だ。今回の策定には認知症当事者が初めて委員として参加し、その意見が反映された計画でもある。今後は地域社会全体での実践が求められ、認知症患者が住み慣れた地域で安心して暮らせる環境が整備されるか、その動向に注目が集まる。
2004年以降、国では認知症に対する誤解や偏見の解消に努め、多くの施策を推進していたが、認知症になると何もわからなくなり、できなくなるという考え方がいまだに根強く残っている。そのため認知症になることを受け入れることが難しく、認知症の人が社会的に孤立したり、認知症の人の意思が十分に尊重されない状況がみられる。
年齢にかかわらず、家族、地域の友人、職場の同僚や顧客など、国民一人ひとりが認知症を自分ごととして理解し、さらに自身や家族が認知症であることを周囲に伝えられる環境づくりと、認知症になっても自分らしい暮らしを続けていくためにはどうすべきなのか考える時代が来ているのではないだろうか。
構成・文/介護ポストセブン編集部
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