猫が母になつきません 第415話「ほうこくする」
猫の「トイレハイ」って知っていますか? 猫がトイレでうんちをした後、なぜか部屋の中を猛然と走りまわったり、大きな鳴き声をあげたりする行動です。理由は諸説あり、はっきりとはわかっていないようです。野生時代の名残で無防備になる排泄中は敵に襲われる可能性があるので、できるだけサッと済ませて素早く走り去る習性が残っているのではないかとか、ただ単に排泄後の爽快感からテンションが上がっているだけだとか、まあとにかく理由は猫にしかわかりません。さびもたまーにトイレハイはあるのですが、たいていはにゃーにゃー言いながら呼びにきて私がトイレを掃除し終わるのをそばで見張っています。
さびはもともと野良猫だったので、家の中のトイレを使うことになったとき当然最初はしばらく失敗するだろうと覚悟していました。しかしさびは一度も失敗することなくちゃんとトイレを使ってくれました。もちろんトイレを部屋の隅において段ボールで目隠ししたり、猫砂の大きさも細かくてさびが好みそうなものを選んだりとか(何基準?)、考え抜いて設置したトイレではあったのですが、あまりにあっさり使いこなされて私は尊敬の念すらいだきました。
排泄というのは生きているものが生きていくために絶対に必要な行為で、それがあたりまえにできなくなることがどんなに大変なことかということを母を通して思い知った今では、さびが普通にうんちしてくれるだけでものすごくありがたい。いつもそのありがたさを噛み締めながら、見張られながら、トイレそうじをしています。これを書いている今もちょうどトイレ使用の報告を受けたので、ちょっと行ってきます。
作者プロフィール
nurarin(ぬらりん)/東京でデザイナーとして働いたのち、母と暮らすため地元に帰る。ゴミ屋敷を片付け、野良の母猫に託された猫二匹(わび♀、さび♀)も一緒に暮らしていたが、帰って12年目に母が亡くなる。猫も今はさびだけ。実家を売却後60年近く前に建てられた海が見える平屋に引越し、草ボーボーの庭を楽園に変えようと奮闘中(←賃貸なので制限あり)。