倉田真由美さん「すい臓がんの夫と余命宣告後の日常」Vol.41「もう一度聞きたい夫の言葉」
漫画家の倉田真由美さんは、夫を失ってから半年。なかなか時間薬が効かず、思い出しては涙する日々が続いている。映画プロデューサーとして活躍してきた夫、叶井俊太郎さんの残された動画にまつわるエピソード。
執筆・イラスト/倉田真由美さん
漫画家。2児の母。“くらたま”の愛称で多くのメディアでコメンテーターとしても活躍中。一橋大学卒業後『だめんず・うぉ~か~』で脚光を浴び、多くの雑誌やメディアで漫画やエッセイを手がける。お笑い芸人マッハスピード豪速球のさかまきさん原作の介護がテーマの漫画『お尻ふきます!!』(KADOKAWA)ほか著書多数。
夫の叶井俊太郎さんとのエピソードを描いたコミック『夫のすい臓がんが判明するまで: すい臓がんになった夫との暮らし Kindle版』 『夫の日常 食べ物編【1】: すい臓がんになった夫との暮らし』は現在Amazonで無料で公開中。
何度も観てしまう夫の動画
夫の動画をもっと撮っておけばよかったと後悔しています。
写真も音声ももっとあればよかったけど、一番思うのは動画です。動画の臨場感は圧倒的です。姿、声、動き、観る度に夫を少しだけ蘇らせてくれるような気がして、何度も何度も観てしまいます。
でも撮った量が多くなくて、スマホに入っている動画は言葉や動きを暗記するほど観尽くしてしまいました。どんな日常の風景でもいい、夫がいる時にいっぱいカメラを回せばよかったと思います。
夫は表に出る仕事もしていたから、私の知らない仕事をしている夫の映像も結構あります。動画を検索したら、まだ観ていないものもありそうです。
でもやっぱり、私自身が撮った動画が最高なんですよね。だって、思い出とそのまま繋がっているから。動画を撮った時のこと、その前後まで私の頭の中にあるから。動画をきっかけに、その時の風景を瑞々しく思い出すことができるから。
でも、夫の病気が判る前は子供の動画ばかりで、夫はたまたま一緒に映っているようなものしかないんですよね…あの頃は、まさかこんなに早くいなくなるなんてカケラも思っていませんでした。
誰がいついなくなるかは分からないから、大事な人との毎日を皆、大切にして欲しいと思います。
撮り損なったシーン
夫はカメラに向かって改めて何かを話したりはしたがらなかったので、動画はすべて家の中や旅先、出先で私が不意に撮ったものです。だから自然な、普段通りの夫。大したことしていないし、言っていないけど、何より大事な遺産の一つです。
「あっはっはっは」
大声で笑うことがあった夫、あの笑い声を撮れたのは偶然です。録画できて本当によかった。
他にもいくつか夫らしい仕草や言葉を撮れているんですが、一つ撮り損なってずっと残念に思っているシーンがあります。
それは、夫がドアを開けて帰宅するところ。いつも「ただいも」と、「ただいま」の「ま」を「も」に替えて言っていました。意味はないんですけど。
帰宅時間はランダムで急だからドアの前でカメラを構えておくこともできず、毎日のことなのに撮れなかったんですよね。
あの「ただいも」をもう一度聞きたいなあ。
倉田真由美さん、夫のすい臓がんが発覚するまでの経緯
夫が黄色くなり始めた――。異変に気がついた倉田さんと夫の叶井さんが、まさかの「すい臓がん」と診断されるまでには、さまざまな経緯をたどることになる。最初は黄疸、そして胃炎と診断されて…。現在、本サイトで連載中の「余命宣告後の日常」以前の話がコミック版で無料公開中だ。
『夫のすい臓がんが判明するまで: すい臓がんになった夫との暮らし Kindle版』
『夫の日常 食べ物編【1】: すい臓がんになった夫との暮らし』