倉田真由美さん「すい臓がんの夫と余命宣告後の日常」Vol.42「夫のスマホが手放せない」
映画プロデューサー・叶井俊太郎さんがすい臓がんにより、2024年2月に旅立った。冬から春、夏へと季節は巡り、少しずつ遺品整理も進めているのだが、ふとした瞬間に夫を想い出し涙が溢れてしまうという。愛する夫が使っていたスマホと、LINEにまつわるエピソード。
執筆・イラスト/倉田真由美さん
漫画家。2児の母。“くらたま”の愛称で多くのメディアでコメンテーターとしても活躍中。一橋大学卒業後『だめんず・うぉ~か~』で脚光を浴び、多くの雑誌やメディアで漫画やエッセイを手がける。お笑い芸人マッハスピード豪速球のさかまきさん原作の介護がテーマの漫画『お尻ふきます!!』(KADOKAWA)ほか著書多数。
夫の叶井俊太郎さんとのエピソードを描いたコミック『夫のすい臓がんが判明するまで: すい臓がんになった夫との暮らし Kindle版』 『夫の日常 食べ物編【1】: すい臓がんになった夫との暮らし』は現在Amazonで無料で公開中。
夫のスマホを持って携帯ショップへ
先日、夫のスマホを持って携帯ショップに行き、夫の携帯番号を存続させる手続きをしてきました。勿論、夫のスマホもそのまま手元に残してあります。
夫のスマホはまだ比較的新しくて購入代金も残っていたのですが、残金を払ってこれも遺品として私が持ち続けることにしました。
やはり夫が毎日触っていた、夫の情報が詰まったものは手放す気になれません。LINEなど夫のプライバシーに関わりすぎるものは見ていないし、写真も昔のものを残していないので実質使うことはないのですが、何となく今も時折充電しています。
電話番号を残す料金は、思っていたほど高くはありませんでした。私が選んだプランだと月500円ですみます。自分の番号以外で、唯一暗記している夫の携帯番号。これが他人のものになってしまうことがどうにも受け入れられませんでした。
今もたまに夫にLINEをしてしまう
あと、携帯番号を失うと同時にLINEのアカウントも失うことになる、というのも。やり取り自体は残るようですが、今まで通り使えなくなくなるのは嫌でした。
だって、今もたまに、夫にLINEしてしまうから。
絶対に既読にならないメッセージ。分かっているけど、送ってしまうことがあるんですよね。大したことは何もない、ほんのちょっとした言葉だけなんだけど。
正直いって、自分がこんなに感傷的な人間だと思っていませんでした。五十路を越えて、初めて出会う自分に驚くばかり。そして同時に、戸惑っています。
そう思っていたら先日、まったく同じことをしている女性の話をSNSで見かけました。
「亡くなった夫にメッセージを送ってしまう。返ってこないのは分かっているのに」
同じことをして、故人を偲び気持ちを慰めている人がいる、ということに感慨深いものがありました。
そして今、こうやって私がこれを書くことで、「ああ、同じだ」「私も」と共感してくれる人がいたら嬉しいなと思います。
自分だけではない。つらいことを抱えている人は、自分と同じような他者がいることで少し、救われることもあるから。
倉田真由美さん、夫のすい臓がんが発覚するまでの経緯
夫が黄色くなり始めた――。異変に気がついた倉田さんと夫の叶井さんが、まさかの「すい臓がん」と診断されるまでには、さまざまな経緯をたどることになる。最初は黄疸、そして胃炎と診断されて…。現在、本サイトで連載中の「余命宣告後の日常」以前の話がコミック版で無料公開中だ。
『夫のすい臓がんが判明するまで: すい臓がんになった夫との暮らし Kindle版』
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