認知症の母の夏場の水分補給問題「熱中症対策に飲んで欲しいけど飲み過ぎも困る」息子が取った対策
岩手・盛岡で暮らす作家でブロガーの工藤広伸さんの母は、じわじわと認知症が進んでいる。「住み慣れた自宅で暮らしたい」と願う母のために、さまざまな工夫を凝らして遠距離介護を続けているが――。毎年夏に直面する熱中症対策のための水分補給について困った問題が起きているという。
執筆/工藤広伸(くどうひろのぶ)
介護作家・ブロガー/2012年から岩手にいる認知症で難病の母(81才・要介護4)を、東京から通いで遠距離在宅介護中。途中、認知症の祖母(要介護3)や悪性リンパ腫の父(要介護5)も介護して看取る。介護の模様や工夫が、NHK「ニュース7」「おはよう日本」「あさイチ」などで取り上げられる。
著書『親の見守り・介護をラクにする道具・アイデア・考えること』『親が認知症!?離れて暮らす親の介護・見守り・お金のこと』(翔泳社)など。ブログ『40歳からの遠距離介護』https://40kaigo.net/、Voicyパーソナリティ『ちょっと気になる?介護のラジオ』https://voicy.jp/channel/1442
認知症の母の熱中症対策「水分補給の工夫」
母が熱中症にならないために、スマートリモコンを使って岩手の実家のエアコンを遠隔操作したり、居間や寝室の室温や湿度をリアルタイムで確認したりするなどの対策を行ってきました。
しかし水分補給は、最新のツールでは解決できません。母の要介護度が上がり、デイサービスを利用する回数が増えて、人による見守りの時間が長くなったとはいえ、帰宅後は基本ひとりで生活しているので、水分補給のサポートが必要です。
今回は母が熱中症にならないためにどうやって水分補給をしているのか、何を飲んでもらっているかについてご紹介します。
母の熱中症予防に活用している飲み物
母の認知症がまだ軽度の頃は、冷蔵庫に飲み物をストックしておけば安心でした。母は水分を多く取る人で、お茶よりもジュースが好きなので、好みに合わせて飲み物を購入していました。
しかし熱中症対策は水分補給だけでなく、塩分補給も大切と言われるようになったので、亡くなった祖母が病院で飲んでいた経口補水液を試しに購入してみたのです。
販売メーカーのホームページを読むと、経口補水液は塩分が多く、熱中症の症状の疑いのある時に飲むものと書いてあったので、母にスポーツドリンクを飲んでもらうようにしました。
ただスポーツドリンクは糖分の多さが気になったので、塩分、糖分、水分を適度に補給できる飲み物がないか探したところ、江戸時代に夏バテ防止の栄養ドリンクとして飲まれていた冷やし甘酒を見つけたのです。
母は冷やし甘酒が大好きになり、一時期はケースで購入するほど、熱中症予防の飲み物として重宝していました。しかし、困ったことが起きたのです。
母:「おいしいけど、酔わないかしらね~」
母が飲んでいた冷やし甘酒のアルコール度数は1%未満で、法律上は車の運転も問題ないのですが、酒という言葉だけで酔うと思ったようです。母に酔わないと何度も説明したのですが、理解してもらえません。
冷やし甘酒を飲むたびに「酔わないかしら」と不安がる母を見て、再びスポーツドリンクや紙パックのジュースで水分補給をするようにしたのです。
認知症の母への飲み物提供の工夫
母は認知症が進行したことで、「飲み過ぎる」という問題行動が現れました。冷蔵庫に1リットルの紙パックの飲料を入れておくと、母は半日かからずに飲み切ってしまうのです。
水分補給はできているので熱中症のリスクは軽減されると思うのですが、普段飲まない量を一気に飲むため、失禁が見られるようになり、布団やシーツが汚れるようになっていきました。
水分補給は大切ですが、失禁処理が大変にならないようにしたい…。そこで、飲み物の提供の仕方を工夫しました。
まず対策として、飲み物のサイズを変更しました。1リットルの紙パックのジュースではなく、すべて200mlへ。スポーツドリンクも、500mlより小さい300mlのペットボトルに変えました。
少ないサイズにしても何本も飲んでしまっては本末転倒なので、冷蔵庫には必要な分だけを入れておくようにしています。
ジュースやスポーツドリンクは、ロックをかけてある野菜室でまとめて冷やし、数量を絞って冷蔵室へ移動しています。私が帰省できないときには、訪問介護のヘルパーさんに、冷蔵室へ2本だけ入れてもらうようお願いしています。
しかし、飲み物に関して新たな問題が――。
飲みかけの飲料をテーブルに並べる母
母は認知症の進行とともに料理ができなくなってしまいましたが、自分ではまだ料理ができると思っています。食材の準備や火の取り扱い、味付けなどは難しくなってしまったのですが、代わりに冷蔵室にあるジュースやスポーツドリンクと箸をテーブルに並べるようになり、それで食事の準備ができたと思うようです。
冷蔵室で冷やした飲み物が未開封であれば、常温に戻しても問題ないようですが、母は飲みかけの飲料もテーブルに並べてしまいます。常温に戻るので品質が劣化するし、母の体に影響するかもしれないと思いながらも、まだ対策はできていません。
ちなみに冷やし甘酒は、わたしが遠距離介護で帰省した際に、熱中症警戒アラートが『厳重警戒』になったときに飲んでもらっています。以前はアルコールを気にしていた母ですが、認知症が進行してあまり気にならなくなり、おいしいと言って飲んでいます。
母が暮らす岩手県盛岡市は、猛暑日が連続するほどの暑さではありません。朝や夜も夏日である25度を下回る日が多いので、幸いにして母はまだ熱中症にはなっていませんが、年々暑くなっているので心配です。
熱中症対策と飲み過ぎる問題はうまく両立できているので、あとは飲み物の品質劣化問題をどうにかしたいと思っています。
今日もしれっと、しれっと。
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