「法律上では、身元保証人等がいないことを理由に入院や入所を拒否できないのです」弁護士が注意喚起!おひとりさま高齢者の不安をあおる終身サポート事業者には要注意を!
高齢者の単身世帯が増える中、おひとりさまの高齢者をターゲットにした高齢者サポート事業も増加し、利用者のトラブルも報告されている。国は新たに事業者向けのガイドラインを公表し、注意喚起を促している。利用者は何に気を付けるべきなのか、単身高齢者のサポートを行う成年後見人としても活動する弁護士の前園進也さんに、実例をもとに解説いただいた。
この記事を執筆した専門家
弁護士・前園進也さん
サニープレイス法律事務所代表。https://sunnyplace.law/
弁護士、認定心理士。埼玉県を拠点に障害福祉分野を中心に活動を行う。一児の父。埼玉県LGBTQ支援検討会議アドバイザー、埼玉県立精神医療センターの外部評価会議委員などを務める。著書に、知的障害をもつ息子の子育て体験から着想した『障害者の親亡き後プラン パーフェクトガイド』(ポット出版プラス)などがある。YouTubeチャンネル「障害者家族サポートチャンネル」https://www.youtube.com/channel/UCuVwAjhMEX5S7kxVTY-3jMw
高齢のおひとりさま向けサービスに注意
家族や身寄りのないおひとりさまの老後――「保証人がいないと入院や手術もできないらしいし、死んだあとのことは誰に任せたらいいのか」。そんな不安を感じている高齢者をターゲットにした事業者(高齢者等終身サポート事業)に対し、国は2024年6月に新たなガイドラインを公表しました。
その背景と高齢者が注意すべきことについて解説していきます。
※内閣官房「高齢者等終身サポート事業者ガイドライン」
https://www.moj.go.jp/content/001420018.pdf
高齢者等終身サポート事業とは?
高齢者等終身サポート事業とは、【1】病院や施設での身元保証、【2】亡くなった後の事務手続きの代行(「死後事務委任」という)、【3】緊急時の親族への連絡や買い物の手伝いなどの日常生活支援のサービスを行うもの。主に3つのサービスを展開、もしくは組み合わせて提供しています。
サービスの中でも、とくに身元保証については、頼める家族がいない単身の高齢者、おひとりさまにとって一定のニーズがありそうです。
病院や施設で「保証人」が求められる現実
厚生労働省によると、入院時に身元保証人等を求めている医療機関は65%に及びます。また、身元保証人等がいなくても75%が入院を認めているものの、8%は入院を認めていません(※1)。
また、介護施設でも同様のことがいえます。
介護施設への入所の際の契約書に身元引受人などの本人以外の署名を求めている施設がほとんどで、本人以外の署名がない場合には、30%の施設が入所を受け入れないという調査結果もあります(※2)。
このような状況から、高齢者等終身サポート事業を契約する高齢者は増えていることが推測されます。
※1厚生労働省/医療現場における成年後見制度への理解及び病院が身元保証人に求める役割等の実態把握に関する研究
https://www.mhlw.go.jp/content/000734017.pdf
※2総務省/高齢者の身元保証に関する調査
https://www.soumu.go.jp/main_content/000802882.pdf
法律では「保証人がいないだけで入院を拒否してはいけない」
身元保証人等がいないことを理由に入院や入所を拒否することは法律では認められていません。
医師法第19条1項によると、「診療に従事する医師は、診察治療の求があった場合には、正当な事由がなければ、これを拒んではならない」と定められています。
この正当な事由とは、「事実上診療治療が不可能な場合」のことで、例えば医師が不在や病気などの場合と限定されています。つまり、身元保証人などがいないという理由で入院拒否することは認められません。
実際、国は都道府県に対して通知※して、病院や施設に適切な指導を行うように促しています。
※病院向けの通知
https://www.mhlw.go.jp/content/000516183.pdf
※介護保険施設向けの通知
https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=00tc3682&dataType=1&pageNo=1
成年後見人の立場で考える保証人の対応
私が成年後見人※をしている高齢の男性Aさんが、あるとき手術のために入院することになりました。 その際、病院から「手術費用や入院費用について連帯保証人になってほしい」と連絡がありました。
私は病院側にこう答えました。
「手術費用や入院費用は、ご本人の財産から支払うことが充分可能です。そのため、私(成年後見人)は、病院に対しては連帯保証人にはなりません。手術費用や入院費用はご本人の財産から私が責任持ってお支払いします」
病院は私の回答に対して特に異論を述べることもなく、 Aさんは、私が連帯保証人にならなくても手術も入院もすることができました。似たようなことは、介護施設の利用契約の締結の際にもよくありますが、私は保証人になったことはありません。
※成年後見/裁判所から認められた後見人(家族や弁護士や社会福祉士などの専門家)が、本人に代わり契約や手続き、資産などを管理する制度。
よく理解せず契約するとトラブルに
保証人や死後事務などは、本来なら高齢者の子どもなどの家族が担うもので、特に専門的知識や資格、設備投資などは不要です。
参入しやすい事業でもあるため、サービス対価はそれほど高額ではありません。契約するサービスにもよりますが、数十万から高くても100万円前後のことが多いでしょう。
ただし、サービスの対価のほかにも料金が発生するケースもあります。身元保証サービスでは、手術代や入院費用を本人が支払えなくなった場合に備えて、事業者にまとまったお金(預託金)を預ける必要があります。また、死後事務も依頼している場合には、葬儀や納骨の費用として少なくとも100万円以上のお金を預けることになるのが一般的です。
契約する前に、こうした費用の内訳や、サービスの内容をしっかり確認しておかないと、トラブルに繋がる恐れがあります。
実際、国民生活センター※には、高齢者等終身サポート事業に関して、「契約内容をよく理解できていないのに高額な契約をしてしまった」「解約時の返金額に納得できない」などの相談が寄せられています。
契約について迷ったりトラブルが心配なときには、地域包括支援センターや消費者センターに問い合わせをしましょう。
※国民生活センター/身元保証などの高齢者サポートサービスをめぐる契約トラブルにご注意
https://www.kokusen.go.jp/news/data/n-20190530_1.html
事業者向けに新たなガイドライン策定 利用者も注意を
高齢者等終身サポート事業を監督する官庁は現在ありません。また、業界団体なども設立されていないため、自主規制もなされていません。
このような状況を踏まえて、新たに公表されたのが冒頭でも述べた「高齢者等終身サポート事業者ガイドライン」です。
ガイドラインが作成されたことで事業者にとっては「適正な事業を行うための指針」を得たことになります。
また、利用者向けの資料としては消費者庁からパンフレット「『身元保証』や『お亡くなりになられた後』を支援するサービスの契約をお考えのみなさまへ」※が公表されています。
※消費者庁/「身元保証」や「お亡くなりになられた後」を支援するサービスの契約をお考えのみなさまへ
高齢者等終身サポート事業に興味関心があるかたは、契約する前にこの資料をご覧になることをおすすめします。契約前にチェックしておくべきことも掲載されているので、以下に引用しておきます。
契約前に要注意!チェックすべきこと
□自分が何をしてほしいか明確にする。
(生活支援・身元保証・死後事務、その内容)
□利用のたびにお金がかかるサービス、月ごとの手数料がかかるサービスの場合、使う可能性がある期間(例えば平均余命)を想定して総額を計算してみる。
□自分の資産状況と照らし合わせて、支払えるかどうかを検討する。
□自分がしてほしいこと、期待することを明確にして事業者に伝える。
□事業者ができないことは何か確認し、納得した上で書面に残す。
□また、契約書(案)の内容は変えることができる場合もあるので、積極的に希望を出す。
□自分の認知能力・身体能力が衰えた時にも適切なサポートが受けられるよう、誰と何の契約をしているかについて書面に残し、緊急連絡先等と共にわかりやすいところに保管する。
□契約の内容を変更したり、解約したりする場合の手続きを文書で説明してもらい、確認する。
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高齢者等終身サポートの契約をする前に、弁護士などの法律の専門家に相談することをおすすめします。事業者は都合の悪いことはオープンにしたがらないので、利害関係がなく、相談者にとって最善のアドバイスをしてくれる弁護士など法律の専門家に相談して、リスクを十分に理解した上で契約を締結してほしいと思います。
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