「老人ホームは保証人がいないと入所できない?」おひとりさまが抱える悩みとその対処法
近年、配偶者との離別や死別、生涯未婚とさまざまな理由で「おひとりさま」の高齢者が増えている。おひとりさまの高齢者が老人ホームへの入所を希望しても、身元保証人がいないために断られるケースもあるという。子どもがいない、親族とも疎遠になっている高齢者にとって、老後の住まいの確保は大きな社会課題といえる。そこで、介護職員、相談員としてのキャリアをもつ中谷ミホさんが保証人が見つからないときの対処法を教えてくれたのでご紹介する。
この記事を執筆した専門家
中谷ミホさん
福祉系短大を卒業後、介護職員・相談員・ケアマネジャーとして介護現場で20年活躍。現在はフリーライターとして、介護業界での経験を生かし、介護に関わる記事を多く執筆する。保有資格:介護福祉士・ケアマネジャー・社会福祉士・保育士・福祉住環境コーディネーター3級。X(旧Twitter)https://twitter.com/web19606703
老人ホーム入所時に必要な“身元保証人問題”
田中雅子さん(78才、仮名)はひとり暮らし。10年前に夫と死別し、子どもはいません。近年、足腰が弱くなり、日常生活にも不安を感じるように。将来への不安から、老人ホームへの入所を検討し始めました。
しかし、田中さんには身近に身元保証人になってくれる人がいません。親族とは疎遠になっており、頼れる友人もいない状況です。老人ホームに問い合わせると、「入所には身元保証人が必要」と言われてしまいました。
田中さんは、「身寄りがないために、老後の暮らしに不安を感じるなんて…」と嘆いています。
田中さんの事例からも分かるように、病院や施設では、入所の条件として身元保証人を求めるケースがほとんどです。
総務省が実施した『高齢者の身元保証に関する調査(行政相談契機)』※によると、病院や施設の9割以上が入居・入院の希望者に身元保証人を求めています。
また、入居希望者が身元保証人を用意できない場合、施設の約5割は「個別に対応する」と回し、約2割は「入所をお断りする」と回答しています。
そもそも老人ホーム入所になぜ保証人(身元引受人※)が必要なのでしょうか。改めて理由を確認しましょう。
参考/総務省「高齢者の身元保証に関する調査(行政相談契機)』
https://www.soumu.go.jp/main_content/000803631.pdf
※本来の意味は異なりますが、老人ホームでは、「保証人」と「身元引受人」は同じ意味で使われています。
老人ホーム入所に保証人・身元引受人が必要な理由
老人ホーム入所に保証人が必要な理由は、施設側が責任を負えないリスクを避けるためです。
施設に入所後、認知症の進行や病状の悪化などにより、本人の判断能力が低下したり、手続きが困難になることも少なくありません。施設だけでは対応しきれないことが起こった場合、保証人や身元と引受人が本人に代わり対応することになります。
保証人の具体的な役割は以下の通りです。
【1】連帯保証
月額費用の支払いが滞った場合は、保証人が債務を負います。
【2】本人に代わる意思決定
本人の判断能力が低下した場合の治療方針の判断や意思決定を行います。
【3】生活上で必要な各種手続き
入退院、支払い、行政関係の手続きを本人に代わって行います。
【4】緊急時の連絡先
事故・急変・死亡したときなどの緊急連絡先となります。その際は、速やかに駆けつけて対応をします。
【5】身柄の引き取り
本人が退去する際や亡くなったときの身柄の引き取りを行います。その際の手続きや未払い債務の清算も行います。
保証人や身元引受人を頼める人がいない場合の対処法
保証人や身元引受人は、親族以外の友人や知人に頼むことも可能です。しかし、施設によっては高齢の保証人は認めないなど厳しい要件を定めている場合もあります。
冒頭の田中さんのように、頼める人がいない場合には、以下の2つの対処法があります。
対処法1:成年後見人制度を利用する
成年後見人制度を利用すれば、後見人に契約手続きと財産管理を代行してもらえます。
成年後見人制度とは、「認知症や知的障害、精神障害などにより判断能力がない本人に代わり、財産管理や身上保護などの法律行為をサポートする制度」のことです。
老人ホームへ入所する際には、家庭裁判所で選任された弁護士や社会福祉士、市町村長が成年後見人となり、保証人として立てられます。
実際に、保証人がいない入所希望者に対して、「条件付きで入所を認める」老人ホームの中には、「成年後見人を立てる」ことを条件としているところもあります。
ただし、成年後見人はその職務権限により、保証人・身元引受人としてすべての役割を担うことができません。
具体的には、治療方針の判断など本人に代わる意思決定や退去時の荷物の引き取りは成年後見人にはできないため、親族に意見を求められる場合があります。
成年後見制度について詳しくは、厚生労働省の『成年後見はやわかり』でわかりやすく解説しているの参考にしてみてください。
参考/厚生労働省『成年後見はやわかり』
https://guardianship.mhlw.go.jp/
対処法2:身元保証会社と契約する
身元保証会社と契約しておくのも、対処法の1つです。
身元引受人になってくれる親族などがいない場合、保証会社が保証人・身元引受人の役割を代行してくれます。身元保証会社は、民間企業、一般社団法人、NPO法人などが運営しています。近年、一人暮らしの高齢者が増えたことから、身元保証サービスの需要が高まっています。
<身元保証会社の主なサービス>
●入院や老人ホーム入所時に求められる身元保証(基本サービス)
●日常生活における金銭管理などの生活支援(オプションサービス)
●死後の火葬手続きなどの死後事務支援(オプションサービス)
サービス内容や料金は、保証会社により異なりますが、基本サービスに加えて、オプションサービスも利用すると総額で数百万以上の費用が必要となることも少なくありません。
契約後すぐに本人が亡くなった場合、払い戻しが受けられることもありますので、契約内容をよく確認しましょう。
身元保証会社を利用する際の注意点
身元保証サービスでは、保証会社を監督する官庁がなく、事業者を規制する法整備も進んでいないこともあり、トラブルが発生しているのが現状です。
契約通りのサービスが提供されない、預かり金を横領される、会社が倒産してサービスが受けられなくなるなどの問題が起こっています。
このようなトラブルを回避するには、契約書の内容(サービス内容や費用が明記されている)や預託金の管理方法を確認したうえで、慎重に契約を進めることが大切です。
身元保証会社を利用する際に不安や不明な点などがあれば、司法書士などの専門家や消費生活センターに相談することをおすすめします。
なお、2024年4月に政府が身元保証サービスを提供する民間事業者が守るべき指針として「高齢者等終身サポート事業者ガイドライン」(案)を公開しました。このガイドラインにより、身元保証サービス事業者の透明性や信頼性の向上が期待できます。
今回ご紹介した成年後見制度や身元保証サービスは、保証人がいない場合でも老人ホーム入所を可能にする手段として有効です。保証人探しに不安を抱えているかたは、一度検討してみてはいかがでしょうか。
※記事は実例をもとに一部設定を変更しています。
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