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健康

ブラックジャックと評される心臓手術の世界的名医が明かす、命にかかわる3つの症例「血管は傷んでいると白く見える」

 血液の通り道である血管は、動脈硬化によって詰まったり、血管内部の膜が裂けたりすることで命にかかわる疾患を引き起こす。「詰まる血管」「裂ける血管」の兆候と、そうした血管を治療する最新手術を心臓血管外科の世界的名医に聞いた。

教えてくれた人

渡邊剛(わたなべ・ごう)さん/ニューハート・ワタナベ国際病院総長・医師

1958年、東京都生まれ。1984年、金沢大学医学部卒業。1989年、「ドイツ心臓外科の父」と呼ばれるハンス・ボルスト教授がいるドイツ・ハノーファー医科大学胸部心臓血管外科に留学。心臓移植を日本人最年少の32歳で執刀し、成功する。帰国後、富山医科薬科大学(現・富山大学)、金沢大学心肺・総合外科、東京医科大学心臓外科(兼任)を経て、2014年、ニューハート・ワタナベ国際病院を設立。新著に『心を安定させる方法』(アスコム)。

ロボット心臓手術の執刀数世界一を誇る“ブラック・ジャック”

「手術室で血管を見ると、外壁が石灰化して白く見えることがある。同席する医師たちに『この血管は傷んでるね』と話し、注意深く観察、執刀します。

 本来、血管は柔らかいゴムのような感触ですが、石灰化した血管は触るとカチカチで弾力性がない。動脈硬化を自分の目で実感すると、その恐ろしさが分かります」

 そう語るのは、ニューハート・ワタナベ国際病院総長の渡邊剛医師だ。

 30年以上にわたって心臓手術の第一線に立ち続け、「日本初」「世界初」となる数々の手術を成功させてきた“ゴッドハンド”として知られる。

 人工心肺を使用せずに心臓を動かしたまま執刀する「オフポンプ手術」や、全身麻酔ではなく胸部への局所麻酔で行なう「アウェイク手術」を日本で初めて成功させたほか、胸部に開けた穴から内視鏡を用いて手術する「完全内視鏡下冠動脈バイパス手術」は世界初の成功例となった。

 現在はメスや鉗子を装着した手術支援ロボットを遠隔操作して行なう「ダビンチ手術」の執刀数で5年連続世界一を誇る。

 胸を切り開かず、わずか1~2cmの3つの穴から内視鏡手術を行なう。傷口が小さく出血量もわずか30~50cc(献血の約10分の1)程度に抑えられるため、患者への負担が少ない。確かな腕を称賛する人から「ブラック・ジャック」と評されることもあるという。

「私が手術する心臓は、血管が詰まって心筋梗塞になり、心臓の筋肉(心筋)が止まった後の“結果”です。そうではない健康な心臓は、1日に10万回以上拍動することで血液を全身に送り出しています。血管を通って約18秒で全身をめぐり、絶えず循環しているのです。

 言い換えれば、血液の質が悪かったり、動脈硬化などで血管が詰まったりすると、それだけ心臓に負担がかかる。本来なら、その前に食い止めることが望ましい」(渡邊医師。以下「 」内は同じ)

血管の病が命にかかわる3つのケース

 渡邊医師は血管の病が命にかかわる3つのケースを挙げる。

狭心症・心筋梗塞「医療の進化で死亡率は低下」

 1つが、心臓の表面を走っている冠動脈の動脈硬化が狭心症や心筋梗塞を引き起こす場合だ。

「冠動脈は、全身に血液を送るポンプの役割を果たす心臓に酸素やエネルギーを送る血管です。冠動脈が動脈硬化で徐々に狭まり、血流が80%ほどに下がって胸に痛みの症状が出るのが狭心症です。

 一方、心筋梗塞は冠動脈が完全に詰まり、心筋が壊死してしまいます。これらは医学的には『虚血性心疾患』と呼びます」

 症状は胸の痛みとして現われるほか、次のようなシグナルがある。

「放散痛といい、左胸から両肩に向けて痛みが生じたり、背中や腹部に不快感・圧迫感が出たりします。狭心症の場合、胸の痛みは長くても20分以内に収まりますが、心筋梗塞だと集中治療室を備えた病院で救命医療を受ける必要がある」

 狭心症や心筋梗塞の代表的な術式が、冠動脈バイパス手術だ。

「冠動脈の狭まった箇所、詰まった箇所の周りを、胸や胃、手足から持ってきた血管でつないでバイパス路(迂回路)をつくる手術です。直径1.5~2mmの血管を髪の毛よりも細い糸で結びます。動脈硬化の進行が思ったよりも酷い場合は、オペ中に方針を変えることもあります」

 渡邊医師は患者の負担を減らすため、前述のアウェイク手術や、ダビンチを用いた完全内視鏡下冠動脈バイパス手術の選択肢もあると話す。

 近年では技術の進歩に伴い、心臓外科ではなく、循環器内科で行なうカテーテル治療で、細くなった血管を内側からステント(ステンレス製の筒状の金網)で広げる療法が選ばれることも増えた。

 渡邊医師は「心臓外科医の需要は減っているが、心筋梗塞の死亡率が下がったのは喜ばしい」と語る。

大動脈解離「笑福亭笑瓶さんの死因」

 2つ目の症例は、心臓から全身に血液を送る大動脈に動脈瘤ができるケースだ。大動脈解離(解離性大動脈瘤)といい、昨年亡くなった落語家の笑福亭笑瓶さん(享年66)の死因として発表された。

「動脈硬化で脆くなった血管が膨らみ、コブのように膨れた状態です。コブが6cm以上になると破裂の危険性が高まり、緊急手術を要します。

 動脈瘤は心臓の後ろ側にできると、食道が圧迫されて飲み込みにくさを感じたり、のどの声帯の近くならしゃがれ声になったりして気づくこともありますが、心臓の前側にできると自覚症状が少なく見過ごしやすい」

 大動脈瘤の術式は、コブができた箇所の血管内に管を挿入するステントグラフト内挿術のほか、人工血管置換術がある。

「血管を傷んだ水道管に見立てると、前者が水道管を内側から補強し、後者は水道管自体を取り替えるイメージ」という。

心臓弁膜症「高齢化で増えている」

 渡邊医師が近年、最も多く手術を手がけているのが、3つ目の症例である心臓弁膜症だ。

「心臓には血液の流れを一方向に制御し、逆流を防ぐために4つの『弁』がある。その異常で血流が阻害されたり、血液が逆流したりします。高齢化で増えている症例です。

 高度な技術と正確性が要求されるため、ダビンチが本領を発揮する手術です。これまでは新たに弁をつくる弁形成術に限って保険適用でしたが、今年6月、人工弁に入れ替える置換手術も保険適用になりました」

 心臓弁膜症のダビンチ手術は、保険適用により自己負担額は他の心臓手術と変わらない。“神の手”に命を救われる患者は増えていくだろう。

※週刊ポスト2024年7月19・26日号

●コロナ禍のストレスで縮んだ“心臓の健康寿命”を取り戻そう!名医が教える100年動く「長持ち心臓」の鍛え方

●寿命100年時代を生きるために~天皇陛下執刀医インタビュー「若い人に増える心臓疾患」

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