有料老人ホームの支払い方法は「前払い」と「月払い」どちらがお得なのか?【社会福祉士&FP解説】
民間が運営する介護付有料老人ホームの費用は、一括して支払う前払い・月額払いなどの方法があるが、いったいどのように支払うのがいいのか。支払い方法によって損得はあるのだろうか。社会福祉士でファイナンシャルプランナーの資格も持つ渋澤和世さんに解説いただいた。
この記事を執筆した専門家
渋澤和世さん
在宅介護エキスパート協会代表。会社員として働きながら親の介護を10年以上経験し、社会福祉士、精神保健福祉士、宅地建物取引士、ファイナンシャルプランナーなどの資格を取得。自治体の介護サービス相談員も務め、多くのメディアで執筆。著書『入院・介護・認知症…親が倒れたら、まず読む本』(プレジデント社)がある。
有料老人ホームの費用は支払い方法によって得か損か?
有料老人ホームは”値段が高い”というイメージが強くあります。在宅介護に限界を感じると、制約が少なく施設数の多い有料老人ホームが選択肢となりますが、費用がネックとなり、仕方なく在宅介護を継続している家庭も多いかもしれません。
厚生労働省の有料老人ホームの解説※によると、前払い方式場合は「650万~2,085万円」(居室によって異なる)、月払い方式の場合は「毎月家賃は13万円」(ホームにより異なる)と解説されています。
筆者は毎月、何かしらの仕事で有料老人ホームを訪れる機会がありますが、月の家賃は20~30万以上というところもあります。
※厚生労働省「介護事業所・生活関連情報検索」19. 介護付有料老人ホーム(特定施設入居者生活介護)
https://www.kaigokensaku.mhlw.go.jp/care_services_guide/care_services_guide_service19.html
特別養護老人ホーム(特養)などの公的施設と比べると、非常に高額で年金だけは難しい金額となっています。ですが、高いにはそれなりの理由があります。
民間の老人ホームは、建物や内装に高級感があり、食事やイベントなど介護以外のサービスが充実しています。職員配置や医療連携も手厚いため、より安心した暮らしができますし、自由な暮らしを求めるかたに向いています。
近年は、有料老人ホームでも比較的安い入居一時金や利用料で入居できるところもあります。多少立地や空間の狭さ、建物の築年数の古さなどに目をつぶれば必ずしも高嶺の花ではありません。ですが、中には「えっ、このクオリティでこの値段?」という施設や、「ここなら入りたい、入れるかも」と思った施設は数か所あります。
ケアマネジャーなどは穴場情報に詳しいかたもいらっしゃいますので、是非相談して自分の希望とフトコロ事情に合った施設を探してみてください。
そこで、民間の有料老人ホームにかかる費用の目安や支払い方法を確認していきましょう。
有料老人ホームにかかる費用は何がある?
有料老人ホームに入居するには、入居一時金や権利金(または敷金)などの入居時にかかる費用と、家賃や管理費など利用料として、月々かかる費用(月額費用)があります。
入居一時金とは、一定期間の家賃などを前払いするものです。頭金のようなもので、多く支払うと月額費用は下がります。
月々かかる費用を一般的に月額費用といいます。
内訳の主なものは、家賃や管理費などの固定費のほか、介護保険サービスの自己負担相当分や医療費、薬代などは自分が使った分だけ実費となります。追加の費用が請求される可能性があることは知っておくといいでしょう。
有料老人ホームの費用と内訳
【入居時にかかる費用(入居一時金)】
●前払い金
※家賃などの一部を前払い
権利金(敷金)
家賃相当×数か月分
【月々かかる費用(固定月額費用) 】
●家賃相当分
※居室、共用部の利用費”
●管理費
※人件費、事務費、施設維持費など”
●水道光熱費
●食費
※食材費、厨房運営費など”
+
【月々かかる費用(変動月額費用) 】
●介護保険サービス自己負担分
※要介護度に応じて1~3割の自己負担”
●介護保険対象外のサービス費
※買い物、外出援助など”
●医療費、薬代
●消耗品費、嗜好品費
※衛生用品、おむつなど”
有料老人ホームの支払い方法は3種種類「どれが一番お得なのか?」
施設によりますが、支払い方式は複数の中から選べるのが一般的です。
有料老人ホームへの費用の支払い方法は、【1】全額前払 【2】一部前払い 【3】月額費用のみ(入居一時金なし)の3種類があります。必ずしも一括払いが求められるわけではありません。
【1】全額前払い
平均的にどのくらい施設に居住するかを想定した期間(想定居住期間)の家賃相当分が入居金として定められ、その金額を入居時に全額前払いする方式のこと。毎月の費用負担は大幅に少なくなりますが、入居金が高い施設はハードルが高くなります。
【2】一部前払い
入居金の一部を入居時に前払いし、残りの金額を毎月支払う方式です。各個人が払える範囲で入居金の一部を支払うので、入居時のハードルは多少低くなります。月額費用のみと比べれば、入居金を一部支払っている分、月々の負担は少なくなります。
【3】月額費用のみ
入居時に前払いをせず、毎月月額利用料を支払う方式です。入居時のハードルはかなり低くなりますが、その分毎月の利用料が高くなります。入居金は0円だけど、毎月の支払いが大変で払えない…とならないよう注意が必要です。
個人的には最初は「月額費用のみ」で様子を見る
一般的には長期間の入居が想定されるのならば、月々の費用を抑える「全額前払い」がトータル金額を抑えることができます。また、「月額費用のみ」の場合は、入居時の費用を抑えることができます。
入居年齢や身体状態で適切な支払い方法は変わってくるかと思います。
これはかなり個人的な意見になりますが、自分だったら最初は「月額費用のみ」を迷わず選ぶと思います。
なぜなら、お金の問題よりも体験入居だけではわからない、居心地や食事などの環境が合うかどうかは暮らしてみないとわからないのではないかと思うからです。
月額であれば緊急時も空室があれば入れますし、入居後、その施設が合わなくても退去のリスクも少なく、万が一経営母体が倒産しても被害が少なくてすみます。
「今、資産がどのくらいあるから入居金はいくら出せる」という考えよりも、「毎月の費用はいくらであれば出せるのか」を先に考えて、支払い方式を選んだ方がリスクは少ないのではないかと筆者は思います。
5年以上入居するなら「前払い」がお得
有料老人ホームにおいて、支払った入居一時金が、入居期間に応じて返還される時に設定されている期間のことを償却期間といいます。償却期間は施設によって異なるものの、3〜10年ほどが一般的です。
一例として、償却期間5年で600万円を前払いしたケースをみてみましょう。
月々の支払いを25万円と想定すると、「月額費用のみ」の場合は、25万円×12か月分が毎年支払う金額となります。
「一部前払い」の場合、600万円を5年で償却すると毎月10万円が家賃前払い分に相当します。月々の支払いは15万円×12か月分が毎年支払う金額となります。そして+600万円が支払い済みの金額となります。
具体的な金額を算出してみると、5年目でどちらも1,500万円となります。つまり、5年以上利用するなら前払い方がトータル金額は安くなります。
年|一部前払い(600万)|月額費用のみ
1年|780万|300万円
2年|960万|600万円
3年|1,140万|900万円
4年|1,320万|1,200万円
5年|1,500万円|1,500万円
6年|1,680万円|1,800万円
7年|1,860万円|2,100万円
8年|2,040万円|2,400万円
9年|2,220万円|2,700万円
10年|2,400万円|3,000万円
***
どの支払い方式を選ぶべきなのかは、正確な答えがありません。償却期間に着目し、償却期間以上の入居が見込めるならば前払いがお得とも言えます。償却期間内に退去した場合は返還金制度があるのでこちらも確認しておきましょう。
また、月額費用のみで契約しても、途中から前払いができるケースもあります。その施設が気に入って不安がなくなった、自宅を売却してまとまったお金が入ったなどの際は、切り替えを施設に相談するといいでしょう。
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