「60代の生活習慣が老後の健康を左右する」医学的根拠に基づく最新の<健康常識8選>を医師が解説
【1】必ずしも、HDLコレステロール=善玉とは言い切れない
中高年の心配の種となる脂質、コレステロール。現在の常識では、動脈硬化を誘発するLDLコレステロールは「悪玉」、動脈硬化を抑制するHDLコレステロールは「善玉」と、善悪がはっきり分かれている。HDLに関しては『血中のHDL値が低いと問題だが、高い分には心配ない』という論調が優勢だったが…。
「HDLでも、80~90mg/dl以上になると血管障害による死亡率が上がるという研究に基づくと、必ずしも善玉とはいえないのです」(久保さん・以下同)
現在の女性の基準値は48~103mg/dl。基準値内だからOKと油断せず、食生活を見直そう。
出典:JCEM 109.321, 202 2
【2】座っている時間が長くても健康を維持する方法はある!
厚生労働省は、座りすぎは寿命の短さや肥満、糖尿病、心臓病の罹患リスクが高まると公表(※6)している。
「ただ、どの程度の身体活動を心がければリスクが減るのかというデータに基づく指導はこれまでありませんでした。そんな中、心血管障害や死亡の確率が下がる具体的な活動時間を表したデータが2021年に発表(※7)されました。これによると、座位時間が8時間以上でも60分身体活動を行えば死亡リスクは低くなる。家事や一般の活動も有効です」
仕事の合間に東へ西へと雑務をしたり、お昼ご飯を買いに行くなどでもして合計60分体を動かせば、健康維持は可能なのだ。
(※6)出典:厚生労働省「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023」
(※7)出典:Nat Rev Cardiol. 2021 Sep;18(9):637-648
【3】握力の低下は骨折や認知機能低下、入院等のリスクを示唆
「フレイル、サルコペニアといった加齢による心身や筋肉の衰えは、認知症リスクを高めます。そこで、60代からは老後の活動範囲の確保と認知症対応も必須になる。その際、どの機能が重要になるかというと、握力、歩行速度、立ち上がりの能力、体のバランス力(片足立ちなど)の4つ。この活動が維持できると骨折や認知症、心血管障害、入院や介護生活へのリスクを軽減できます。また、4つの活動に伴う呼吸がきちんとできていることも重要です」
出典:Age Ageing. 2011 Jan;40(1):14-23.
【4】「1日8000歩」の目標値は年齢によって変わる
かつては「1日1万歩」といわれたが…。
「現在は、成人で1日8000歩以上の歩行・活動が目標値となっています。さらに、高齢期(65才以上)の目標歩数も新たにアップデートされ、6000歩になっているのをご存じですか?」
出典:厚生労働省「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023」
【5】認知症リスクは中年期には“肥満型”、高齢期には“やせ型”が高くなるという研究も
「興味深いことに、中年期(45~64才)では、肥満の人に認知症リスクが高まる傾向にありますが、高齢期(65才以上)では、やせ型に逆転するんです」
中年期の肥満は、動脈硬化による血管障害が要因の1つと考えられているが、高齢期では、食欲の低下での栄養不足などが考えられる。
※「Fitzpatrickら(2009)」を基に久保さんが改変。
【6】「寝だめはダメ!」でも、1時間だけ許される人がいる
平日の睡眠負債を休日に取り戻す「寝だめ」は体内時計を乱すことから「社会的時差ボケ」とも呼ばれる。
「ところが、40~64対象にした近年の調査では、平日“6時間以上”いる人に限り、休日1時間程度の寝だめは寿命短縮リスクを低下させるとの報告があります」
6時間以下の人は、引き続き頑張りましょう。
出典:厚生労働省健康づくりのための睡眠ガイド2023
【7】60才を過ぎたら、男女とも脂肪肝に注意
体の中で最大の臓器・肝臓は、代謝や有害物質の解毒、排泄などを担う臓器。限界ギリギリまで働き、不調の自覚症状がなく、気づいたときには病状が進行していたということもあるため「沈黙の臓器」ともいわれている。飲酒による脂肪肝が疾病の代表で、特に50代以降の男性の罹患率が高い。
「実は、いまいちばん注目されている疾患の1つです。なぜなら、従来の脂肪肝だけでなく、ほとんど飲まない人でも罹患する『非アルコール性脂肪肝炎(NASH/※8)』が増加しており、ここから肝硬変→肝臓がんになるケースが多いのです。もちろん、女性も罹患しています」
飲酒習慣がなくても、食べすぎ、運動不足、ストレスなどの要因が重なることで、肝臓にダメージを与えるという。
(※8)最近ではMASHとも呼ばれる。
【8】心血管系が弱点の人は「フレキシタリアン」が効果的
食事制限も、疾病リスクに合わせて行うべきだ。
「心血管障害がある人は空腹時間を増やすと不整脈を招くため、ファスティングは難しい。その代わり、時々肉や魚を食べる『フレキシタリアン(ゆる菜食主義)』なら、心疾患系疾病の予防効果が期待できます」
ベジタリアンも肉を食べる人と比べて虚血性心疾患のリスクは低いものの、なんと脳卒中のリスクが上がるということも理解しておきたい。
出典:「1)Plant-based diets and cardiovascular risk factors: a comparison of flexitarians, vegans and omnivores in a cross-sectional study. BMC Nutr. 2024 Feb 12;10(1):29. doi:10.1186/s40795-024-00839-9. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/38347653/」
取材・文/佐藤有栄 イラスト/鈴木みゆき 写真/PIXTA
※女性セブン2024年6月6日号
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