連載

認知症の母が骨折!遠距離介護のピンチをどう乗り切るか…息子が悩みながらたどりついた対策

 岩手・盛岡で暮らす認知症の母を東京から通いで介護している作家でブロガーの工藤広伸さん。見守りツールを駆使しながら、毎月2週間ほど実家に滞在し母のケアを続けてきたが、ある時、母が転倒! 足にケガを負った認知症の母の遠距離介護をどう乗り切るのか、さまざまな問題が迫ってきて――。

執筆/工藤広伸(くどうひろのぶ)

介護作家・ブロガー/2012年から岩手にいる認知症で難病の母(80才・要介護4)を、東京から通いで遠距離在宅介護中。途中、認知症の祖母(要介護3)や悪性リンパ腫の父(要介護5)も介護して看取る。介護の模様や工夫が、NHK「ニュース7」「おはよう日本」「あさイチ」などで取り上げられる。

著書『親の見守り・介護をラクにする道具・アイデア・考えること』『親が認知症!?離れて暮らす親の介護・見守り・お金のこと』(翔泳社)など。ブログ『40歳からの遠距離介護』https://40kaigo.net/、Voicyパーソナリティ『ちょっと気になる?介護のラジオ』https://voicy.jp/channel/1442

骨折よりも認知症の症状に不安が

 母が自宅の居間で転倒し、左足親指の付け根の骨にひびが入ってしまいました。医師からはシーネと呼ばれる添え木と包帯で固定して安静にしていれば、1か月程度で治ると言われ、足の骨折自体は軽傷だったのは幸いでした。

 しかし、認知症の症状による困ったことが度々起きてしまったのです。

 まず、母は足の骨にひびが入っていること自体を忘れてしまい、包帯やシーネに違和感を覚えて外してしまうという事態に直面しました。骨折する前と同じように行動しようとする母と、それを止めようとする介護者との長い戦いが始まりました。

 骨折よりも認知症の症状による行動のほうが不安かもしれない――。

 今後の遠距離介護をどうすべきか、早急に夜間の見守りやケア体制の調整が必要になりました。

→認知症の母が転倒?「見守りカメラに映った息子の名を呼ぶ母の姿」遠距離介護の緊急対策

遠距離介護の体制を見直すことに

 最初に、家族でやれることを考えました。わたしは東京に居たので、岩手の妹に母の見守りをお願いしました。しかし妹も仕事や家庭があるため、母を1日中見守ったり泊まったりするわけにもいきません。

 そこで、ケアマネさんに相談したところ、デイサービスの日数を増やすことができたので、昼間の時間帯の見守りはデイサービスに頼ることにしました。

 夜間は今まで利用したことのないショートステイ(宿泊)を考えましたが、すでに介護保険は支給限度額まで利用しているため、利用するとなると実費(介護保険外)になります。夜間の見守りについてもケアマネさんに相談したところ、母がすぐに泊まれる施設を見つけることが最優先と言われ、住宅型有料老人ホームがやっている、介護保険外のお泊りデイサービス(お泊まりデイ)を探してくれました。

 その施設は、以前わたしが見学をしたことがあり、雰囲気も分かっていたので、すぐに利用を決めました。

 わたしは、急遽帰省の予定を早めて実家に戻り、お泊まりデイの手続きは完了。朝から晩まで母を見守る体制をなんとか調整することができました。

車椅子や歩行車のレンタルは必要か?

 ケア体制を整えるのと並行して、母が家の中を移動する際や通院時に使う車椅子や歩行車の検討をしました。

 福祉用具専門相談員さんに相談したところ、ここでも認知症による困った問題に直面したのです。

 母の状況を考えると、新たな車椅子や歩行車の操作ができない可能性があり、特にブレーキ操作が難しいかもしれないとのこと。

 ブレーキがかけられない場合、車体が動いて転倒してしまい、また骨折する危険性があるということで、車椅子や歩行車の利用は断念しました。新たな福祉用具を導入してリスクが増すよりも、家の中をハイハイで移動してもらったほうが、むしろ安全ではないかというアドバイスでした。しかし、通院時や外出時には車椅子がどうしても必要になるので、自費でレンタルすることにしました。

夜間にさらなる困った問題が発生

 少しでも目を離すと母が包帯を外してしまうので、家族もデイサービスのスタッフの皆さんも、母の行動を注意深く見守る状況が続きました。

 包帯の上からネットをしたり、ネットの上からさらに靴下を履いてもらったり、さまざまな工夫を試みましたが、それでもたびたび母はシーネと包帯を外してしまい、「痛い痛い」と言いながら立ち上がったり、歩いたりしてしまうのでした。

 こうしたことが重なり、母の行動に対してわたし自身、どうすればいいか行き詰まり、イライラが募っていったのです。

 そんなとき、医師やケアマネさんからある言葉をかけてもらいました。

医師やケアマネジャーに言われた救いの言葉

 医師からは、「骨折は軽症なので、包帯やシーネを外してしまっても、ある程度お母さんを見守りできているのなら、それで十分だと思いますよ」と。

 ケアマネジャーさんは、「たとえ完治まで時間がかかったとしても、今できるベストを尽くしたと思えばそれでいいじゃないですか」という言葉をかけてくれました。

 また、お泊りデイという新たな場所に母が馴染めるのかも不安でしたが、施設のスタッフさんからは、母がとても落ち着いて過ごしていると報告を受けました。

 寝ても覚めても、母の包帯に神経を尖らせていたわたしは、医療や介護従事者のプロのかたたちから、こうした言葉をかけてもらい、少し気がラクになりました。

 しかし、足の痛みを抱えている母は、これまでにない状況や新たな環境のせいなのか、その行動はだんだん予測不可能な事態に発展していくのです――。その話はまた次回に。

 今日もしれっと、しれっと。

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