異変を見逃しやすい女性は要注意!脳梗塞を経験した麻木久仁子さんが感じた予兆とは
「サイレントキラー」と呼ばれ、ある日突然、脳と心臓をめがけて襲ってくる死の病。しかし、実際はその前に体がSOSを発している。がんに次いで日本人に多く、「国民病」といわれる「血管死」から身を守るための「予兆」を見逃さないようにしたい。48才で脳梗塞を患ったタレントの麻木久仁子さん(61才)に実体験を聞いた。
教えてくれた人
渡辺尚彦さん/日本歯科大学病院内科客員教授、平野照之さん/杏林大学医学部教授、室井一辰さん/医療経済ジャーナリスト、麻木久仁子さん/タレント、大塚亮さん/おおつか医院院長・循環器専門医
日中と朝晩の寒暖差が激しい時期は脳梗塞や心筋梗塞に注意
2024年のゴールデンウイークは最大10連休で超大型休暇を満喫中の人も多いかもしれない。新緑の季節、春の行楽に心躍る人は多いだろう。
しかし、そんな楽しい気分が一転、命の危機に発展するかもしれない。日本歯科大学病院内科客員教授で、高血圧に詳しい渡辺尚彦さんが言う。
「朝と夜に急激に気温が下がりやすく、1日ごとの寒暖差も激しいこの時期は血管系の病気が原因で患者が運ばれてくることが多い。その理由は、急に冷えると血圧が急上昇して血栓が飛びやすくなり、脳梗塞や心筋梗塞のリスクが高くなることにあります。これから暑くなる時期も注意が必要。体が脱水気味になり血液の粘稠(ねんちゅう)度が上がると、脳梗塞や心筋梗塞を発症しやすくなります」
特に年を重ねた女性ほど脳卒中や心筋梗塞のリスクが高くなると話すのは、杏林大学医学部教授で脳卒中の治療に詳しい平野照之さんだ。
「脳卒中も心筋梗塞も血管の病気なので、動脈硬化がリスク因子になる。女性ホルモンには動脈硬化を防ぐ作用がありますが、閉経後は女性ホルモンの分泌が減るため加速度的に動脈硬化が進みます」
医療経済ジャーナリストの室井一辰さんは、「しかも、女性は異変を見逃しやすいから注意が必要」と続ける。
「脳卒中や心筋梗塞は前触れもなく倒れるというイメージを持っている人が多いですが、必ずしもそうではなく、実はさまざまな予兆がある。例えば脳卒中なら言語障害や手足のしびれ、心筋梗塞なら吐き気などの消化器症状が出たり、背中や喉の痛みを感じたりすることがあります。しかし、女性はそれらを更年期障害の症状だと思い込み、見過ごしてしまう人が多い。そもそも女性は痛みに対してがまん強いこともあり、一刻を争う病気だとは思わずに治療が遅れやすいのです。実際、心筋梗塞の死亡率では、女性は男性の2倍高いというデータがあります。治療の遅れが、女性の死亡率の高さに関係していると思われます」(室井さん)
血管病で死にたくなければ、女性こそ「予兆」について知るべきなのだ。
脳梗塞を経験した麻木久仁子さん「予兆はあった」
血管病の1つである脳卒中は「脳梗塞」「脳出血」「くも膜下出血」の3種類に大別される。脳の血管が詰まって血流が途絶えるのが脳梗塞、破れて脳内出血するのが脳出血、脳の動脈にできた瘤(こぶ)が破裂するのがくも膜下出血だ。
「いま思い返すと、ある日突然右手と右足がしびれ始めたのが大きなサインでした」
そう話すのは、48才で脳梗塞を経験したタレントの麻木久仁子さん(61才)だ。
「正座をした後、立ち上がったときのようなジーンとした感じがあって、歩こうとしても足に力が入らない。ドアの鍵を開けようとしても、震えて鍵穴に入らなかったほどです」(麻木さん)
平野さんは「体の片側だけに異変が現れたときは脳の症状が疑われる」と話す。
「脳の病気と聞けば頭痛を想像するかもしれませんが、脳梗塞も脳出血も、頭痛が予兆であることは少ないです。ただし、くも膜下出血だけは、激烈な頭痛に襲われます。脳は左右それぞれが体の反対側をつかさどっているので、発症部位が右脳なら体の左側、左脳なら体の右側に症状が出ます。痛みがなくても体の片側だけに異変が現れたときは、脳卒中を疑ってください」(平野さん)
34才で脳梗塞を経験したフリーアナウンサーの大橋未歩さん(45才)も、かつて本誌のインタビューで<洗面所で顔を洗っていて、右手が左手に触れたとき、まるでマネキンの手に触っているかのように感覚がなかったのです。まあいいか、と洗顔クリームを取ったはずが手のしびれでうまくつかめず、気がついたら床に散乱していました。拾おうとしたところで、倒れたんです>と明かしている。
このように脳梗塞の場合は「発症の前段階の発作」が起きることがある。有名なのは、2000年に亡くなった小渕恵三元首相(享年62)が、夜の記者会見で10秒ほど言葉を失った場面だ。その会見から数時間が経過した深夜に、脳梗塞を発症して意識を失い、約1か月半後に亡くなった。