母の認知症テストは過去最低点だったのに奇跡が起きた!点数に一喜一憂しないための考え方
遠距離介護のエキスパートとして執筆や講演をしている作家でブロガーの工藤広伸さん。母の認知症介護は11年続いているが、毎年受けてもらっているのが「改訂長谷川式認知症スケール」だ。認知症の進行とともに点数が下がり、今年は最低点に。しかし、ある日テスト結果を覆す出来事が…。テスト結果に対する考え方、認知症介護のヒントを学びたい。
執筆/工藤広伸(くどうひろのぶ)
介護作家・ブロガー/2012年から岩手にいる認知症で難病の母(80才・要介護4)を、東京から通いで遠距離在宅介護中。途中、認知症の祖母(要介護3)や悪性リンパ腫の父(要介護5)も介護して看取る。介護の模様や工夫が、NHK「ニュース7」「おはよう日本」「あさイチ」などで取り上げられる。
著書『親の見守り・介護をラクにする道具・アイデア・考えること』『親が認知症!?離れて暮らす親の介護・見守り・お金のこと』(翔泳社)など。ブログ『40歳からの遠距離介護』https://40kaigo.net/、Voicyパーソナリティ『ちょっと気になる?介護のラジオ』https://voicy.jp/channel/1442
毎年受けている「改定長谷川式認知症スケール」
母が毎年ものわすれ外来で受けている、改訂長谷川式認知症スケール。このテストは計算、言葉の流暢性など9つの評価項目があり、30点満点で20点以下なら認知症の疑いがあると判断されます。
2023年のテスト結果は6点で、母は重度の認知症と判定されました。2024年1月に受けたテストの様子と、つい先日、母のある言動に本当に驚いた話をご紹介します。
母の認知症テストの答え方
わたしは毎年、母のテストに立ち会っています。正確には、母の視界に入らない場所に隠れてテストの内容を聞いているだけなので、一緒に参加しているわけではありません。なぜ隠れるのかというと、そばにわたしが居るとテストの答えを聞いてくるからです。
テストの点数だけでなく、母の答え方も確認して総合的に判断したいという思いもあります。例えば、医師がテストを出題する場合、母が緊張して点数が下がることがありますし、逆に優しい看護師さんがたくさんのヒントを出してくれたり、答えが出るまで待ってくれたりして、点数がよくなる場合もあります。
こうしたテスト環境を考慮しながら点数を見て、今年の6点は甘い6点だったとか、厳しめの10点だったという見方をしてきました。
→長谷川式認知症スケールを受けた母の最新結果でわかった大切なこと
2024年の認知症テストの様子
2024年のテストは、病院の個室で母の正面に看護師さんが座った状態で行われました。個室の入口にはレースのカーテンが掛けられていて、わたしは入口のそばで、身を潜めながらテストの内容を聞いていたのですが、途中から真剣に聞くのを止めました。
その理由は、母がすべての問題に対して、まともに回答できなかったからです。
母は「分からない」、「覚えていない」、「答えがいっぱいあるから」、「昨日教えてくれたら、分かった」など惜しいと思う答えがなく、単語すら出てこない状態でした。
また、母は問題自体を理解できないのか、考えたり思い出したりする様子もなく、即答で「分からない」を繰り返しました。おそらくヒントがあったとしても、答えは出てこなかったと思います。
唯一の正解は、「682を後ろから言ってください」のみ。自分の年齢も野菜の名前も全く答えられず、テスト結果は1点でした。
2013年からの点数の推移は、毎年2点ずつ下がるペースだったので、今年は4点くらいかなと予想していたのですが、一気に5点も下がってしまいました。絶望的と思えるテスト結果ではあったものの、最近この結果を吹き飛ばすような出来事に遭遇したのです。
薬剤師さんと母のやりとりに驚いた!
その日は訪問薬剤師さんが、母の薬を家まで届けてくださる日でした。認知症や緑内障、直腸脱のお薬を持ってきてくれて、指定の薬箱にセットし、飲み忘れた残薬を回収してくれます。また、訪問時は、いつもバイタルチェックをしています。わたしは帰省していたので、母のバイタルチェックを横で見ていました。
薬剤師さん:「はい、血圧と体温を測りますね」
薬剤師さんは、血圧計を母の腕に巻きながら、体温計をおでこにあてました。平熱で、血圧も正常の範囲内でした。そんな中、母が自分の腕に巻かれた血圧計を見ながら、ある言葉を発したのです。
母:「オ、ム、ロ、ン」
わたし:「え? 今、オムロンって言った? ウソ? すごい、すごいよ!」
わたしがなぜ驚いたか、分かりるでしょうか? 母が読んだ文字は、血圧計を製造した会社の名前です。カナで「オムロン」と書いてあったのではなく、アルファベットで「OMRON」と書いてありました。この文字を、認知症のテストで1点しか取れない母が読んだのです。
わたし:「え、なに? 英語が分かったの?」
母:「何言ってんの! 英語ぐらい、読めるわよ」
今の母は漢字が読めず、自分の名前すらまともに書けません。だから漢字にはふりがなを振り、名前を書くときは見本を用意します。そんな状態なのにアルファベットは読めてしまったから、本当に驚いたのです。
認知症のテストを開発した長谷川和夫さんの言葉
2014年に、長谷川式認知症スケールを開発された故長谷川和夫さんの講演会に参加しました。講演会で長谷川先生は、「テスト結果で一喜一憂しない、テスト結果がすべてではない」とお話しされていました。
母の1点は、絶望的な点数かもしれません。しかし1点しか取れなくても、アルファベットが読める日もあるわけです。「オムロン」と答えられた日にテストを受けていたら、10点ぐらい取れたのでは?と思うほど、「OMRON」を読んだ母には驚かされました。
家族を介護している人は、テストの点数や認知症の進行度合いである軽度、重度といった言葉を、重く捉えてしまうこともあると思います。しかし、状態は常に変化しているので、悪い時ばかりではなく、いい時にはこうした奇跡のようなことも起こり得ます。
長谷川先生のおっしゃるとおり、テスト結果はすべてではないということです。今後も参考のために、母には毎年1回テストを受けてもらいますが、テストの点数よりも、「オムロン」のような奇跡を見逃さず、しっかり拾っていきたいです
今日もしれっと、しれっと。
『親の見守り・介護をラクにする道具・アイデア・考えること』(翔泳社)
『親が認知症!?離れて暮らす親の介護・見守り・お金のこと』(翔泳社)
●長谷川式認知症スケールを受けた母の最新結果でわかった大切なこと