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兄がボケました~若年性認知症の家族との暮らし【第240回 ついに食卓の上へお尿さまが!】

 若年性認知症の兄のところ構わず排泄してしまうという行動はどんどんエスカレートしています。思い起こせば、洗面所のコップの中にお尿さまをしてしまうことが始まりでした。今では、家の中、どこでも(むしろトイレではないところで)いたしてしまう兄になすすべもなく、日々掃除に追われる妹のツガエマナミコさんは、「こんな話ばかりで…」とおっしゃいますが、どうかせめてこの場でストレスを吐き出してくださいと編集部からはお声をかけたいと思います。今回はついに、食卓にも、というお話です。

 * * *

排泄の愚痴ばかりで読むのがしんどいでしょうが…

 ある作家のエッセイを読んでいましたら「長編小説でも20~30時間で書ける」と書いてあって、能力の高さに愕然と致しました。比較するのもバカバカしいですが、一枚の原稿に1日かかってしまうわたくしとは雲泥の差。それはそれで遅すぎますが、息をするようにペン(今どきはパソコン)を走らせることができる人もいらっしゃるのだなぁと、生物の多様性に思いを馳せたツガエでございます。

 キッチンに入りこんでくる兄がうっとうしく、「今ご飯作っているからもう少し待っていて」「包丁使ってるから危ないから」「何でここへ入ってくるの?」「座ってテレビ観ててよ」とあれこれ言っておりましたら、冷蔵庫の角を曲がった、ちょうどわたくしの死角になった辺りでお尿さまを放出する音が聞こえました。「え?」と思って見ると、兄が御用を足し終わり、涼しい顔で股間のものをフリフリしているところでございました。完全な嫌がらせだと感じました。でも不幸中の幸いは、冷蔵庫と壁の間の攻撃されそうな隙間に数日前から犬用尿取りシートを貼り付けていたこと。ギリギリ冷蔵庫の裏や下へお尿さまが広がる惨事は防げました。とはいえ目と鼻の先のトイレのドアは開けてあるのに…と思うと悔しくてなりません。兄に「なぜここなの?」と聞いてみると「わからない」とすまし顔。「俺じゃないよ」といわんばかりのこの顔が、わたくしは心底嫌いでございます。

 言いたいことはあるのでしょうが、脳がそれを整理することも言葉にすることもできないのでございましょう。兄がトイレを拒み、部屋のどこかで排泄してしまうのにもきっと理由があるはずです。でも本人はそれを考えるための言葉をなくしているし、わたくしにも察することができません。何かを言いたい代わりのお尿さま攻撃だとしたら止まらないと思われます。ならば、やめさせる策を練るより、掃除を効率的にやることを考えるほうが建設的でございます。未然に防ぐこともなかなか難しく、冷蔵庫はうまくいきましたが、準備したところにちょうどよくやってくれるほど認知症は甘くないのでございます。

 そういえば先日は、わたくしが目を離した隙に食卓の上にジョ~とされて、振り返ったときにはテーブルから床にボタボタと垂れておりました。わたくしが見ても堂々とやり切るそのお姿は、なかなか衝撃的な光景でございます。もう我が家は兄にとってどこでもトイレなのだなぁと悟りました。

 排泄の愚痴ばかりで、もう読むのもしんどいことでございましょう。

 少し楽しいエピソードを書きたいものでございます。そういえば、とある取材時に「キレイな女性からもらったら嬉しい」がコンプライアンスに引っかかってしまったというお話を伺いました。コンプライアンスは法令遵守の意味ですが、今は社会的ルールやマナーや配慮なども含む広い概念を指すようです。

「キレイな女性だったら嬉しい」は社会的配慮に欠けた発言なのでしょうか? そういうことに「配慮がない」と目くじらを立てる女性は本当にいるのでございましょうか? 「僕はブスだったら嬉しくないとは言っていません。キレイな女性からもらったら嬉しいと言うのがなぜダメなのか、よくわかりません」とお話しされていて、最近のコンプライアンスは配慮が行き過ぎているという話で盛り上がりました。きっと、この「兄ボケ」もコンプライアンスにうるさい方々からすれば、けしからんコラムでございましょう。「認知症の兄をネタにして原稿料をかすめ取っているツガエという奴はとんでもない人間だ」と言われても反論できない内容ですから…。

 ちっとも楽しい話になりませんでした。次こそは楽しいエピソードをご用意してご披露できるよう精進してまいります。

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文/ツガエマナミコ

職業ライター。女性60才。両親と独身の兄妹が、8年前にそれぞれの住処を処分して再集合。再び家族でマンション生活を始めたが父が死去、母の認知症が進み、兄妹で介護をしながら暮らしていたが、母も死去。そのころ、兄の若年性認知症がわかる(当時57才、現65才)。通院しながら仕事を続けてきた兄だったが、ついに退職し隠居暮らしを開始。病院への付き添いは筆者。

イラスト/なとみみわ

●悩ましい排泄のニオイ対策に!大人用おむつに特化した防臭袋が新発売

●認知症の母の尿失禁問題「対策は完璧なはずなのに布団が濡れている」困った息子が活用した新たなアイテム

 

コメント

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この記事へのみんなのコメント

  • チコ777

    毎日毎日酷くお辛い事に向き合われていらっしゃって お見舞いの言葉も無い程です! トイレを使ってくれない!との事ですが、以前男性の便器に的を 描くと不思議とソコを狙ってするので、オシッコが飛び散らなく なった✌️と云う話しをTVで見た事があります レベルの問題も有りますがモノは試しで 一度試されては? と思いまして…。絵️がお得意な方なので たった一度でも お役に立てば⁉️と思い 夏の終わりには82歳になる婆が お辛い事の一度でもお役に立てればと思いコメントさせて頂きました。 近くに居れば半日でも付き添ってあげられるのに…‍♀️ どうぞお身体に気をつけてお過ごし下さいませ‍♀️

  • みかん

    何度もコメントして恐縮ですが、皆様のコメントを読ませていただきながら、ちょっとひらめきました。お兄様が、簡単にズボンを下げて あちこちにしてしまうから困るんだから、簡単にズボンを下げられないような服を着ていただいたらどうでしょう?! 私が思いついたのがオーバーオールです。中では紙パンツ(リハビリパンツ)を履いていただきます。(私達の世代では、オーバーオールは若い頃流行りましたよね^_^;) オーバーオールを履いていただくと、簡単にズルッとズボンを下ろすこともできないし、ズボンを下ろそうとしても下ろせないので"アレッ?!おかしいな??"となって、そのうち、排尿や排便しようという気持ちもお忘れになるかも。もしかしたらズボンを下ろせないののがストレスになって"キイーッ"となる可能性もありますが・・^_^; ですが、歩き回るお兄様を拘束するわけにもいかないでしょうし、自由に歩き回ってもらうのなら、オーバーオール作戦がもしかしたら効果があるかも?!なんて、思いついたので思わずコメントさせていただきました。 ただし、紙パンツ(リハパン)が糞尿まみれになる可能性もあるし、それはそれで大変だろうなとも思うのですが、食卓テーブルや炊飯器や引き出しにされてしまうよりはいくぶんマシではないかと思ったり・・。 (留め具が金属でカッチリしているタイプのものの方がお兄様には外すのが難しいからいいかも??)  どちらにしろ、早く入れる施設か病院がみつかることをお祈りしておりますし、これからも応援しております☆彡

  • みっちゃん

    つがえ様 私にも若年性アルツハイマーの61歳の姉がいるので、人ごとと思えずいつもハラハラしながら拝読しています。精神科の方へ入院は難しいでしょうか?財前先生の病院には入院施設が無いように見受けられます。姉は症状の軽い時には診療所でしたが、重くなり暴力的になったことで入院施設のある精神科へ転院しました。病院はホームで出来ない拘束が可能なので、ホームより受け入れてくれるように思います。拘束というのが気になったのですが、私が見た時には別にベッドに縛り付けるわけでなく、車椅子に座らせて勝手に立ち上がらないようなゆるいベルトをしていました。あとはホームと同じようにみんなで体操したりして過ごしていました。病院なので長期間は難しいかもしれませんが、預けて落ち着いたところでそのままどこかのホームに入っていただくのもいいのかなと思います。

  • はな

    辛いですね... 認知症の家族を診てくださっている訪問看護の看護師さんが「全ての行動には理由があります」と言っていましたが、お兄様はストレス発散でわざと粗相をされているのかなと思いました。 なるべく家にいる時間を短くするためにショートステイやデイサービスをめいっぱい利用されてはどうでしょうか。 良い方法が見つかるよう願っています。 ツガエさんの連載はとても参考になっています。いつもありがとうございます。

  • りんりん

    さすが、みなさんわかっていらっしゃる!そんなコメントが多いですね。私も皆さんと同じ思いです。未来はいろいろな道につながっているのでいつ我が道になるかも、我の家族の道になるかも。吐いて吐いて少しでも胸のつかえがとれるなら愚痴をいくらでも聞きます。(私の母の愚痴は壊れたレコードのようなんですよ。何回聞かされたことか…)ツガエ様の愚痴は似て非なる物、お兄様の行動がある意味、進歩しているからかも!?提案です。吸水シートにマークをつけてみたらどうでしょうか?お兄さんが気が付くかどうかわかりませんが大きな丸をつける、赤いマジックで×でも書いてみる。お兄さんが部屋から出てどこかでしたくなった時、目を引くものがあればもしやと思うのです。昔の男性トイレにはそんなものがあったとか聞いたことがあります。

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